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第60回ロカルノ映画祭 金豹賞は小林監督の「愛の予感」

「愛の予感」で金豹賞を獲得。日本映画の快挙 Keystone

11日に幕を閉じたロカルノ国際映画祭の「金豹賞」は、小林政広監督・脚本・主演の「愛の予感」に輝いた。「専門家たちの評価も高かった」と主催者側は語り、インサイダーが予想していた結果だった。

銀賞にあたる「審査員特別賞」は異文化の理解を表現した韓国の「メモリーズ ( Memories )」 ( ジェオンジュ・デジタル・プロジェクト ) が受賞した。

 スイス人女優のイレーヌ・ジャコブ審査員長は「愛の予感」を「美学的に力強く、コンペティションに参加した19本の映画の中で最も個性的である」と表現。スイス人監督の名前が付いた「ダニエル・シュミット賞」、若者審査員特別賞、国際芸術映画連盟の特別賞の3つの賞も同時に受賞し、高く評価された。

同じシーンを繰り返しながら盛り上げる

 小林監督は受賞の発表を受けスイスインフォのインタビューに答え「嬉しいです。開催中、プレスの反応は良かったのですが、一般の観客に受けるのかどうかを心配していました」と語った。また、主演の渡辺真起子さんも「素直に喜んでいます」と語った。

 小林監督によると「映画祭での上映後、観客からの質問がたくさんあり、その内容は覚えていないほど」だったとのことで、実際は観客の関心度も非常に高かったことがうかがえる。

 映画「愛の予感」は、中学校で同級生に娘を殺された父親 ( 小林監督自身が演じる ) と、その犯人である娘を持つ母親の心の奥深く秘められた感情を描いた。

 事件後、東京を離れ、鉄工所の溶鉱炉での重労働を淡々と繰り返している元新聞記者の父親と、宿舎のまかないをするの犯人の母親の接点は、朝晩の食事だ。スクリーンいっぱいにアップされた父親の顔は無表情で、ご飯に生タマゴをかけて胃に流し込む。母親の作った料理は食べない。観客は、何度もしつように繰り返される同じシーンに、彼の発する微妙な心のシグナルを見出し始める。

 会話のまったくない2人の日常生活が映し出されるだけのスクリーンから目が離せないのは、ちょっとした動作や画面の変化が、2人の心を表すのに十分なほどそぎ落とされた演出の賜物である。それが審査委員に評価された点ではないだろうか。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

<ロカルノ映画祭>
ピアツァ・グランデ 7000席
上映映画館 10カ所
第60回映画祭上映本数 約180本
11日間共通入場券450フラン ( 約4万5000円 )
1日券42フラン ( 約4200円 )

<金豹賞>
2001年 「革命にはシトロエンで ( Alla rivoluzione sulla due cavalli ) 」マウリツィオ・スキアラ (イタリア)
2002年 「要求 ( Das Verlangen ) 」イアン・デイルタイ (ドイツ)
2003年 「静かな 水 ( Khamosh Pani ) 」ザビハ・スマル (パキスタン/フランス/ドイツ)
2004年 「プライベート ( Private ) 」サベリオ・コスタンツォ ( イタリア )
2005年 「美しい人 ( Nine Lives ) 」ロドリゴ・ガルシア ( アメリカ )
2006年 「お嬢さん ( Das Fräulein ) 」アンドレア・スタッカ ( スイス/ドイツ )
2007年「愛の予感−Rebirth」小林政広 ( 日本 )

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