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もぐもぐスイス味 第4弾 社会科見学 -3- クッキーは肘で割る

現在フーク社はパイの台の販売に力を入れている。チョコレート味のパイで、デザートが一層引き立つ hug-luzern.ch

町のスーパーの菓子類コーナーで見かけるスミレ色のパッケージのクッキーは、製造元のフーク社がその品質を保証する。

食品会社であれば、品質保証は人の生命にもかかわる重要事項。しかも、ビスケットのパッケージに会長ヴェルナー氏と社長アンドレアス氏のフーク兄弟の肖像画とサインをプリントする徹底ぶりだ。

 最近のテレビコマーシャルにも、この2人がマイケル・ジャクソン顔負けのムーンウォークで登場。英雄や有名人に対し懐疑的になりやすいスイス人気質に対して、あえて経営者の姿を消費者に全面的に押し出す。「あくまでも品質保証であり、消費者には認められている」と社長のアンドレアス・フーク氏は語る。工場では製造工程の最終段階で、製品を一つ一つ検査した担当者のサインがあるラベルを貼っていた。

品質保証を第一に

 フーク社 ( Hug ) は今から133年前、パン職人だったヨゼフ・フーク・マイヤーがルツェルンにあったパン屋を買収したことに始まる。

 ヨゼフはパンを間違って2度焼き、「乾パン」を発明したとフーク社のサイトには紹介されている。しかし、4代目のアンドレアス・フーク氏は
「ヨゼフの特許ということでもなく、誰、彼ということなくパン屋ならやっていた」
 と打ち明ける。ヨゼフの乾パン「ツィバック ( Zwiback ) 」は、スイス軍の保存食として採用され、スイスの乾パンの代名詞となっている。

 フークを代表する商品は主に堅めのクリスピーなクッキーだ。アンドレアス氏によると、この種のクッキーはスイスでもドイツ語圏特有のもの。フランス語圏やドイツ、オーストリアで好まれるのは柔らかめのクッキーだという。ドイツ語圏の代表格はカチカチに硬い「ヴィリサウアー・リングリ (Willisauer Ringli ) 」 。ルツェルン州ウィリサウ市 ( Willisau ) の銘菓、丸い穴のあるクッキーだ。
「口に入れて歯でかもうとしても無駄です。丸い穴に、肘を立てて力を入れて4等分に割った欠片を口に入れて、ゆっくり柔らかくする」という食べ方が正統派とのアンドレアス氏の説明。もっとも
「口の中で柔らかくなる前に、食べたくなって噛み砕いてしまうのはみんなもわたしも同じですが」
 と、にやりとする。

 健康志向のシリアル系ブランド「ダルヴィダ( Dar Vida ) 」の「グリーブ 社( Grieb AG )」 を1963年に、冷凍ピザメーカーを1978年に、2008年にはチョコビスケットが代表商品の「ヴェルニ社 ( Wernli AG ) 」といった有名企業を買収しながら拡大していったフークは、ホテルやレストランで作るタルトに使われるビスケット生地で作られた受け皿を日本にも輸出している。

…でモモヨ隊員は

 使い捨て白衣着ました。お医者さんみたいなキャップ被りました。髪の毛一筋も出てません。手、殺菌しました。隊長と互いに指差し確認。いよいよ出動だ。

 今回は一般公開されていない工場の内部に深く潜入させてもらうのだ。ペンとメモ帳を握る手にもひときわ力が入る。
 おうちでお菓子を焼くときと同じことをするんですよ。ただなんでも大きいだけです。と案内氏。

 それにしても生地練り機の棒のなんと大きいこと。工事現場でセメント練れそう。我が家のフードプロセッサーと比べたらノミとセントバーナード。

 つづいて、全粒粉の健康クラッカーのラインへ。ローラーから次々とのされて出てくるクラッカー生地が、長い長いオーブンの中を粛々と進んでいく ( らしい ) 。なるほどですねえ。深く頷く隊長。焼けながらどんどん先に進んでもらわねば困るわけですね。

 それから、小売店には卸していないというビスケット風パイの台のみのライン。このパイ台にフルーツを載せたり別の生地を流し入れたりのプロ向け商品だそうだ。

 ロボットアームが ベルトコンベヤーの上からスイッチョ スイッチョと生地の底を吸いながらお皿に移していく。ロボットアーム君、じっとラインを見詰めて ( 多分 ) 、パイの台に吸い付いては隣のラインのトレイの上に放す。働きすぎてラインが空っぽになったらちょっと休憩したりと、なかなかしぐさが愛らしい。
「このパイの台ビスケットは詰め物をしても長い間サクッと感が保たれるという点が他社に抜きん出ているんです。日本の高級ホテルにも卸しているんですよ。」
 とガイド氏。

 このビスケット風パイの台のお菓子、別の棟にある工場付き店舗でオレンジライスタルトで試食した。バターの香り高くサクッ、お口の中ではしっかりしているのにほろっといくのが素晴らしい。ビスケットだけ、中身だけ、ビスケットと中身と一緒にという三通りの食べ方で楽しみたい。ああ、2パック買って帰ればよかった。

 別の階へ行くとそこは、倉庫。1袋300キログラムの全粒粉の袋が積んである巨人の国を通り抜けると今度は発送を待つばかりに積み上がる商品の数数々・・。鏡の国の絵のように延々と続いている。もし、ここに閉じ込められたら、端から食べ始めてどのくらいまで食べ続けられるだろうか。2メートルが限界か・・と無力感に襲われたモモヨだった。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) & モモヨ swissinfo.ch

一生かけても食べきれない度 ★★★★★ 胸一杯度 ★★

1877年 ルツェルンにヨゼフ・フーク・マイヤーがパン屋を開いたのが始まり。
1913年 現在本社のあるルツェルン州マルタース ( Malters ) へ移動。
1963年 「グリーブ 社( Grieb AG ) 」( シリアル系ブランド「ダルヴィダ ( Dar Vida ) 」) を買収。
197/76年 第4世代に交代し、会長にヴェルナー氏、社長にアンドレアス氏が就任。
1995年 「ヴィリサウアー・リングリ (Willisauer Ringli ) 」を製造する「ビスクイ・ヴィリサウ社 ( Biscuits Willisau ) 」を買収。
2008年 チョコビスケットが代表商品の「ヴェルニ社 ( Wernli AG ) 」を買収。

<2009年業績>
売上1億3300万フラン ( 約116億円 ) ( 前年比マイナス14.2% )
クッキー51%、レストラン・ホテル向けパイの台15%、ツィバック12%、スナック6%、
従業員353人。

ヴィリサウのヴィリサウアー・リングリの工場は、10人以上のグループであれば、事前に予約して見学が可能。所要時間1時間。無料。また、付属のアンテナショップから、工場の様子を垣間見ることができる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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