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ジェームズ・ボンドの舞台を作った男

一躍有名になったヴェルツァスカ・ダムの上に立つクミュールさん(写真提供:SFDRS) swissinfo video/SFDRS

芸能界にスカウトされるのは人だけではない。この世界には「ロケ地スカウト」なる職業が存在し、場面にぴったりの場所を世界中から探し出してくる。ルツェルン出身のレオンハルト・クミュールさんは、ジェームズ・ボンドの名場面を数多く作り出した。

ピアース・ブロスナンが『ゴールデン・アイ』で決死の飛び込みをしたのはスイスのイタリア語圏ロカルノ地方にあるヴェルツァスカ・ダムだ。

 63歳のクミュールさんは映画ビジネスに入ってもう30年以上にもなる。スイスを含め各地のロケ地をスカウトして映画プロデューサーに紹介してきた。元々ジャーナリスト兼写真家だったクミュールさん。ロケ地スカウトに求められる素質とはどんなものだろう。

きれいなだけではスカウトできない

 「監督がその映画に何を求めているか、しっかりした理解が必要です。もちろんその場所が、映画を撮る際に現実的かどうかということも十分調査しておかなくてはいけません」

 どんなに美しい風景でも、大勢の人がたくさんの荷物を持って行けないような場所では困るのだ。映画の背景にぴったりで、なおかつコストや条件に見合った場所を探し出すのは簡単なことではない。

 クミュールさんは台本を受け取ると、まず自宅の書斎にこもる。綿密な下準備や調査が必要なのだ。「完璧に条件を満たすロケ地というものは存在しません」とクミュールさんは語る。映画の場面で完璧な風景だとしても、撮影現場の状況で二番目、三番目の候補に決定することも十分ありえる。

 そんな中でも理想的なのは、一つの場所でいくつかの違った場面を撮影できるロケ地だ。スイスにはアルプスの山のほか、地中海の風情漂う場所や、一見アフガニスタンを思わせる荒れた高地もある。この意味では非常に理想的なのだが、問題はコストの高さだ。

 「とにかくスイスで映画を撮るのはお金がかかる」と尻込みする映画プロデューサーは多い。クミュールさんは、有名な映画に風景が使われるのは、スイスの観光業にとっても有益なのだから、スイスは国を挙げてロケ地の誘致に積極的になるべきだという。

映画やテレビドラマの裏話

そんな場所を探し出してくることについては天下一品のクミュールさん。彼がジェームズ・ボンドの映画に参加したのは、もう25年以上も前の話だ。

これまでの仕事の中で、特に有名なのはボンド映画の傑作の一つ、1995年に封切られた『ゴールデン・アイ』だろう。この映画は観客をあっと言わせる壮大な滝の場面で始まる。舞台となったのはスイスのロカルノ地方周辺にあるヴェルツァスカ・ダムだ。ジェームズ・ボンドが220mの高さから、身を投げる。

「ピアース・ブロスナンに『もし君が飛んだら、僕も飛ぶよ』と言ってみたのですが、もちろん彼は挑戦しませんでしたね。あの場面は、非常に優秀なスタントマンが飛びました。これで映画の中で飛んだバンジージャンプとしては、世界最高記録を出したんですよ」

また、スティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演のテレビドラマ『Band of Brothers』では、アルプスの景勝地で有名なインターラーケンが採用された。

「テーマは第二次世界大戦だったのですが、オーストリアやドイツの場面は、実はスイスで撮られました。激しい戦争のシーンが実は永世中立国のスイスで撮影されていた、というのは、ちょっと皮肉ですけれどね」

定年の年齢を過ぎた現在は、今までのようにフル活動で働いているわけではないが、いまだにクミュールさんはこの仕事を楽しんでやっている。「大変な仕事だけれど面白い。面白くなくちゃ、仕事は続けられないね」

swissinfo、イゾベル・レイボルド・ジョンソン 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

クミュールさんのロケ地スカウトしてのキャリアは25年以上。スイスだけではなくモンゴルからカナダまで世界中を駆け回る。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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