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NEC、日産、安青錦、現代建築…スイスのメディアが報じた日本のニュース

イグナツィオ・カシス外相
スイスのイグナツィオ・カシス外相は23日、都内で岩屋毅外相と会談。その後、NEC AP Photo/Hiro Komae

スイスの主要報道機関が先週(4月22~27日)伝えた日本関連のニュースから、①NEC、デジタル部門グローバル本社をチューリヒに設立②日産の歴史的赤字決算③安青錦関は開国の象徴か?④メンドリージオで現代日本建築展、の4件を要約して紹介します。

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NEC、デジタル部門グローバル本社をチューリヒに設立

NECの森田隆之社長兼最高経営責任者(CEO)は23日、訪日中のスイスのイグナツィオ・カシス外相と東京本社で会談し、同社のデジタル政府・デジタル金融(DGDF)事業グローバル本社をチューリヒに設立することを表明しました。

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日本メディアではあまり話題になっていませんが、スイス側ではターゲス・アンツァイガーなど、ドイツ語圏の複合メディアTamedia系新聞に、NECの狙いを解説する記事が載りました。

チューリヒにはグーグルやオープンAI、Meta社も拠点を置く、欧州有数のIT都市。NECが2020年に買収した銀行ソフトウエア企業アバロク(Avaloq)の本社もあります。NECの新オフィスはこの夏、チューリヒ湖西岸にあるこのアバロク本社に入り、将来的に10人の従業員が働く予定だと言います。

新オフィスが統括するDGDFはNECの中核事業の1つ。NEC広報はTamediaに、チューリヒ本社は世界中でこれらの事業分野を管理し、アバロクの成長を加速させるのに「最適な場所」だと話しました。

ただチューリヒへのDGDFグローバル本社開設は必ずしも既定路線だったわけではないようです。スイス政府の輸出・投資促進機関、 スイス外国企業誘致局(S-GE) のパトリック・ヴェルメリンガー氏は、NECの誘致には数年にわたる対話と複数回の訪日を要し、他の欧州諸国に対抗しなければならなかったと明かしました。

記事は、スイスとNECが「AIを活用した通信と医薬品開発」を推進していくとする森田社長のLinkedInへの投稿外部リンクも紹介しています。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

日産の歴史的赤字決算

日産自動車は24日、2025年3月期決算の連結最終損益が最大7500億円の赤字になるとの見通しを発表しました。過去最大の赤字予想はホンダとの統合破談に続く凶報ですが、ドイツ語圏スイスの大手日刊紙NZZは「経営陣の変化が前向きな兆候としてとらえられている」と報じています。

記事は業績見通しの悪化は「まったくのサプライズではない」と位置付けます。アナリストらは、これまでの赤字予想額は「日産の長期にわたる深刻な危機を踏まえると、あまりにも少なく見すぎていた」と伝えています。

NZZは日産の主な課題として、「日本国内の販売台数はわずか330万台で、電気自動車(EV)の開発費用やその他長期的課題の解決策を永続的に生み出すには小さすぎる」と指摘。ホンダとの合併交渉後、誰が日産と組むのかという疑問もあると言います。

NZZが取材した著名自動車アナリストの中西孝樹氏は、カルロス・ゴーン氏が日産を去ったのち同社は「再日本化」し、古い過ちを繰り返したと指摘します。また「新経営陣については非常にポジティブだ」と語り、新CEOに就いたのがこれまでの日本人重鎮ではなく、メキシコ人のイヴァン・エスピノーサ氏であることを肯定的に評価しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

安青錦関は開国の象徴か?

大相撲春場所で新入幕を果たしたウクライナ人力士、安青錦(あおにしき、本名ヤブグシシン・ダニーロ)。惜しくも優勝は逃しましたが、NZZは将来の横綱候補として、また外国人・難民力士の活躍として、安青錦関をとりあげました。

記事はダニーロさんが来日した経緯を紹介。柔道や相撲を習っていた少年時代に、ある国際ジュニア大会で日本人に出会いました。2022年にウクライナがロシアによる侵攻を受けた際にこの日本人に連絡を取ると、日本に来て自宅に泊まるよう申し出てくれたそうです。

大相撲ではモンゴル出身はもちろん、エジプトや欧州の力士も活躍しています。獅司関もウクライナ出身で、記事は「2人は母国だけでなく、日本の誇りでもある」といいます。記事によると、日本政府は英語サイトで2人を紹介し、日本が外国人を歓迎し、受け入れる社会であるとのメッセージを発しました。ウクライナ難民も非官僚的な方法で数千人を受け入れたと言います。

しかし上智大学の中野晃一教授(政治学)はNZZに対し、安青錦の存在は日本の開国を象徴するものではない、と話します。少子化や野球・サッカーの人気により、大相撲は若手の獲得に苦戦しており、海外からの人材受け入れに寛容になったにすぎない、というわけです。

一方中野氏は、安青錦がウクライナ難民であることには意味があるとみています。「もし安青錦がシリアやガザ、東南アジアの出身だったら、相撲界でチャンスを与えられることはなかっただろう。全体的に、日本は難民に対して閉鎖的だ」

記事は、「安青錦がいつか優勝して横綱に昇格すれば、相撲を、ひいては日本をもう少し開放的にする役割を果たすかもしれない」と結びました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

メンドリージオで現代日本建築展

スイス南部ティチーノ州にあるメンドリージオ建築博劇場(TAM)で今、日本現代建築の変化を伝える特別展「Make Do With Now: New Directions in Japanese Architecture外部リンク」が開催されています。フランス語圏の大手日刊紙ル・タンが、キュレーターを務める篠原祐馬氏に話を聞きました。

展覧会に参加するのは1975~95年生まれの若手建築家たち。篠原氏は、そのほとんどが2011年の東日本大震災の後にキャリアをスタートしたと説明します。「伝統的な建築家のイメージから離れて地域的、共同的、持続可能なプロジェクトに重点を置き、大きな課題に創造的に適応することで、現代社会における建築家の役割を再考している」

同名の展覧会は2022年、篠原氏が所属するスイス建築博物館(バーゼル)で初めて開催されました。同館のアンドレアス・ルビー館長は、日本の建築がこの10年で大きく変わったと指摘します。「新しい言語や、自由で水平的、包括的、倹約的な働き方、また周囲の環境との相互作用によって、日本の若者たちは美、実用主義、楽観主義、謙虚さを兼ね備えている」。新しいものを追い求めるより、既に存在するモノを活用することが最善であると理解していると語りました。(出典:ル・タン外部リンク/フランス語)

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話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「グミベアが躍る『ロボケーキ』大阪・関西万博スイス館で展示」(記事/日本語)でした。他に「スイス外相、大阪・関西万博で結束と対話をアピール」(記事/日本語)、「社会的地位を維持するよう圧力を受けるスイスの男性」(記事/英語)も良く読まれました。

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校閲:大野瑠衣子

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