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スイス軍総裁の「ストーカー・スキャンダル」

ロラント・ネフ軍総裁の隠された事実が次々と明るみに出る Keystone

スイス軍のロラント・ネフ総裁の任命をめぐり、人格的に疑問であるというゾンタークスツァイトゥングをはじめとするマスコミ報道に対し、ついにサムエル・シュミット国防相が7月21日記者会見を開き、ネフ総裁を休職させ夏休み明けの閣僚会議が始まる8月20日までに説明するよう求めたと発表した。

発端は7月13日発行のゾンタークスツァイトゥングの記事。それによると、2007年6月の軍総裁任命当時、ネフ氏はドメスティック・バイオレンス ( DV ) に関わる強制罪で告訴されていた。

ストーカーは個人の問題?

 ネフ氏を任命した当時、シュミット国防相はこの事実を知っていた。しかし、2008年1月1日の就任の前に予審が打ち切られることもわかっていたため、この1件は「あくまでも個人の問題」であり、軍総裁任命に支障はないと考えたという。また、ほかの6人の内閣閣僚にもこの情報は伝えられていなかった。

 その後、この件に関して一切黙秘することを条件に、訴えを起こしていた元恋人に示談金が支払われていたことが報道された。その女性は今回のマスコミの報道に対し、「人格を傷つけ、精神的な負担を負わせる報道」と公に抗議している。

 ネフ総裁は「シュミット国防相が自分の人格権を守ってくれたことに感謝している」というコミュニケを発表した。17日に開いた記者会見では、任命前に告訴の1件をシュミット国防相に伝えたことを強調。示談金を支払ったことも認めたが、黙秘を強制するためではなかったと言い、辞任もないと断言した。

 翌18日、今度はシュミット国防相が記者会見を開き、マスコミ報道を批判した。一方でネフ総裁に対しては、6月中旬に4人の死者を出したボート転覆事故の際にも適切な対応をし、満足していると話した。

 しかし、ネフ総裁は別れ話を持ちかけてきた元恋人に電話やEメールの送信を何度も繰り返す「軽率な」行為をしたことも認めている。また、記者会見では、示談金は総裁任命が持ち上がる前に支払ったと断言したにもかかわらず、実は任命が決まってからだったことが明らかとなった。

 さらに20日発行の「ゾンタークスツァイトゥング ( SonntagsZeitung ) 」で、ネフ総裁が元恋人の名前を使って売春広告を出していたことが明らかにされた。このときネフ総裁は女性の写真や住所、電話番号も公表したため、その後、女性のところには何人もの男性から連絡がきたという。

 ほぼ毎日新しい展開を見せているこのスキャンダルに、どの政党も「プライベートでこのような行動をする人間に果たして軍総裁が務まるのか」という批判を高めている。また、ネフ総裁退陣を求める声とともにシュミット国防相に引退を要求する動きも大きくなっている。シュミット国防相は、エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ司法相とともに国民党を抜け、同党から離脱した新しい政党「市民党 ( Bürgerliche Partei Schweiz ) 」に加わる意思をすでに表明している。以前から自党の後ろ盾を得られることはあまりなかったが、現在シュミット氏を先頭切って非難しているのは国民党といってもよいくらいだ。
 
swissinfo、小山千早 ( こやま ちはや )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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