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ダイス氏 国連議長に

ヨゼフ・ダイス元連邦大臣は名誉ある国連職選出を目前に控えている Keystone

6月11日、ニューヨークで開かれる国連総会で、スイスのヨゼフ・ダイス元連邦大臣が次期議長に選出される。ダイス氏は外相時代、国民投票でスイスの国連加盟を承認させるという功績を残している。

国際連合 ( UN ) 総会の議長は、公式の国連最高職。しかし、潘基文 ( パン・ギムン ) 事務総長や安全保障理事会とは異なり、総会議長には決定権はない。

初会議は9月14日

 議長立候補はダイス氏一人であるとから、第65回総会が開かれる9月14日に初めてニューヨークでの選出は確実だ。これでダイス氏は、スイス国民を国連加盟に動かすという、政治家時代に収めた大きな成功の「縁の地」に帰ることになる。

 2002年9月、ニューヨークの国連本部の前にスイスの国旗が掲げられた瞬間は、政治家としてのキャリアの中でも特に素晴らしい出来事だったとダイス氏は述べている。当時、外相だったダイス氏は、その前に行われた国民投票で国連加盟に向けて尽力したが、国連加盟に声高に反対した一人に、後に入閣を果たしたクリストフ・ブロッハー氏 ( 国民党、SVP/UDC ) がいた。ブロッハー氏は、国連に加盟すれば、主権、中立、独自性を失うと悲観的な発言や警告を繰り返して加盟を拒否した。

中道の人

 大きく騒ぎ立てるのはダイス氏のやり方ではない。キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) の代表者として、ダイス氏は連邦政府の中で中道を貫いた。

 ダイス氏に対する批判の声は、色や輪郭がはっきりしないというものだった。堅実で優秀な政治家ではあるが、カリスマやビジョンに欠ける。あるいは、情熱や人格の独自性に欠けるという声も聞かれた。

 連邦大臣に就任する前、経済学の教授だったダイス氏は、ぎこちなく、また近づきにくく感じられることもあったが、その裏側には折に触れてドライなユーモアを解する人柄が隠されていた。

仲介人として

 ダイス氏は仲介人の役割を自認している。物事をさまざまな角度から眺め、妥協や合意を探し求める橋渡しだ。温和な性格で慎重、交渉をまとめる手腕にも定評がある。総会議長に適格な長所といえるだろう。

 ダイス氏は世界を複数の見地から見ているが、これはダイス氏の出生と関係があるのかもしれない。生まれはフリブール/フライブルク ( Fribourg/Freiburg ) 。ドイツ語圏とフランス語圏に分かれ、文化の架空の溝「レシュティの溝 ( Röstigraben ) 」が走っている場所だ。ダイスは幼少時代からこの二つの文化やメンタリティに馴染んできた。ドイツ語、フランス語以外に流暢な英語も話す。

 妥協も合意もスイスの政治システムには欠かせない要素だ。国連総会議長に推薦された際ダイス氏は
「特に中立、貢献、妥協する能力といった、スイスが伝統的に重きを置いてきた価値観が、推薦につながったと思っている」
 と述べた。また、議長という役割の重要さを意識し、これを中立的な立場でチームの間を仲介するスポーツの審判の役割に例えた。

スイス外交のたまもの

 ダイス氏が国連の総会議長に推薦されるに至ったのは、スイスの外交のたまものだ。もちろん、ダイス氏には総会議長としてスイスの利益を優先させる役目はなく、利益を代表するのはスイスの国連大使であるパウル・ゼーガー氏が担う。国連総会は、何にも影響されず中立の立場で進められ、国際社会の利益が最大の目的として掲げられる。よって、ダイス氏はスイスの国内利益を配慮するようなことはない。

 とはいえ、ダイス氏が体現するスイスの価値観はある程度の形を持って会議進行に影響を与えるであろう。ダイス氏にとっては、仲介役としての任務を成功させ、国連で難航している議題においては対立するグループが歩み寄るためのレールを敷くことが重要だ。

国連改革、ミレニアム開発目標、経済

 国連議長への推薦が決定した当時、ダイス氏はスイスの報道記者団に対し、第65回国連総会の重要課題について、国連改革、平和と安全、開発と貧困、環境、人権などの国際目標を掲げた「ミレニアム開発目標」と経済問題を挙げた。スイスのドイツ語日刊紙「ターゲス・アンツァイガー ( Tages Anzeiger ) 」と「ベルナー・ブント ( Berner Bund ) 」のインタビューでは、国連総会議長は特に国連改革で、重要な役割を果たすと答えている。

 「スイス人であることは、利害の対立するグループに歩み寄りの道を作るときに有利に働く。改革には努力するが、常任理事理国になることを切望する国とは違い、スイスはどうしても常任理事国になりたいと思っているわけではない」
 と語っている。

 議長としてスイスのためにできることは、善意を集めることだという。国民投票でスイス国内にイスラム寺院の塔であるミナレットの建設が禁止されたことを受け、ダイス氏の選出が心配されるという声もあったが、スイスに対する国際社会の理解を深めることになるかもしれない。

スイス派遣団のサポート

 セーガー氏は、ダイス氏の総会議長就任によりスイスの国連での影響力が増すと期待している。スイスの影響力とは、橋渡しを務めるスイスが国際社会でより高く評価されることだ。

 もっともセーガー氏も、ダイス氏がスイスのために任務を果たすのではなく、彼の任務は総会の議題をうまくこなすことだと明言した。スイス政府は国連の場で、許される限り議長をサポートするという。国連加盟国の中から要請があれば、ダイス氏の任期中はスイスが窓口の役割を果たすといったことも考えられるという。

ニューヨークにて、リッタ・アムリヒ、swissinfo.ch
( 独語からの翻訳、小山千早・佐藤夕美 )

キリスト教民主党員
1946年フリブール/フライブルク州 ( Fribourg / Freiburg ) 生まれ
既婚、3人の成人した子どもの父親
1991年 連邦国民議会議員
1984~1999年 フリブ-ル大学
1993~1996年 価格監視委員
1999年 入閣 外務大臣就任。外務相任期中の2000年5月、欧州連合 ( EU ) の二者間条約が国民投票で承認される。また、 2002年5月、国民投票で国連加盟が承認される。
2003年 経済省へ移行。経済相任期中の2005年、EUとの人の行き来の自由化が国民投票で承認される。
2006年 退任

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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