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アゼルバイジャンでの開催にスポットライトが当たる

ユーロビジョンが開催されているバクーの「クリスタル・ホール」 AFP

欧州放送連合(EBU)が毎年企画する歌謡曲のコンクール「ユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest)」がアゼルバイジャンで開催されている。

旧ソ連に属していたアゼルバイジャンにとって、こうしたコンクールの開催は自国の発展を世界に披露する絶好の機会。しかし、それは同時に国内の人権侵害を暴露する契機にもなっている。

 イスラム教徒が大半を占め、石油資源に恵まれた国アゼルバイジャン。イルハム・アリエフ大統領とその一族は、「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」(以下ユーロビジョン)開催に資金を惜しまなかったといわれている。

 ドイツ語圏の日刊紙ノイエ・ツルヒャー・ツァイトゥング( NZZ ) によれば、その額は6億フラン(約497億円)に上る。

 在アゼルバイジャン米大使が「マフィア」と決めつける大統領一家は、ユーロビジョンを完全に手中に収めている。大統領夫人はユーロビジョン開催組織委員会の会長を務め、長女の夫であるポップ歌手エミン・アガラロフ氏も舞台に上る。

 国境なき記者団(RSF)スイス支部のテレーズ・オブレヒト氏は、こうしたアゼルバイジャンを「東洋の専制体制と旧ソ連の共産主義の間に立つ政治モデルを利用する独裁者の手に握られている国」と定義づける。

人権侵害

 フランス語圏の国営放送(RTS)はそのドキュメンタリーの中で、首都バクー(Bakou)のいくつかの地区が破壊され、土地がたいした補償もなく強制的に買収されている事実を報道している。

 石油資源に恵まれたこの共和国のサクセスストーリーを世界に見せるために行われたこうした「洗浄」を、スイスのドイツ語圏の新聞は酷評する。前出のNZZは、「アゼルバイジャンは開かれた近代国家だという顔ばかり見せようとしている。だがその裏で、人権侵害が行われている」と指摘。

 同じくドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー ( Tages  Anzeiger ) は、大統領を侮辱したとして暴行を受け投獄されたラッパーについて報告している。前出のオブレヒト氏も、「メディアの自由もアゼルバイジャンには存在しない。現在7人の記者が入獄中だ」と語る。

 こうした海外からの批判に対し、大統領のネット報道サービス「アゼルバイジャン.az(azerbaijan.az)」は、「西欧のメディアとNGOによる反アゼルバイジャンのキャンペーンに過ぎない」と書く。一方で「政府はユーロビジョンの期間中、社会・政治的な安全には全力を尽くす」というメッセージを送っている。

有効なスポットライト

 アゼルバイジャンが置かれている現在の状況のなかで、本当にユーロビジョンを開催する必要があったのだろうか?「国連(UN)、欧州連合(EU)など、どの公的機関もアゼルバイジャンに制裁を加えるとは言っていない。コンクールを開催した国が次の年のコンクールをオーガナイズするといった規則は、この46年間変わっていない。アゼルバイジャンでも同じことだ」と、欧州放送連合のイングリッド・デルタンル事務局長は明言する。

 デルタンル事務局長は、一方で「ユーロビジョン開催は、その国のよい側面と影の部分を同時に見せる機会になる。一言で言えば「有効にその国にスポットライトを当てているのだ」とも話す。

 「国境なき記者団」もアムネスティー・インターナショナル(AI)も、こうした考えに賛同し、AIスイス支部のナダイア・ボーレン氏はこう語る。「我々はキャンペーンを行うことで、ほとんど知られていないこの国の人権侵害の状況を世界に広めようとしている。圧力をかけることで、平和運動家などを含む政治犯を釈放できたという経験もあったからだ」。だが、現在まだ13人の反政府主義者が暴力的尋問を受け拘束中だともいう。

イベントは開かれた政治に寄与する?

 「間違えてはならないこと。それはユーロビジョンのような催し物は結局、その国の今置かれている状況をそのまま映像的に伝えてしまうということだ。それは同時に反政府主義者にとっても自分たちの声を伝える機会になっている」とボーレン氏は続ける。この考えにはターゲス・アンツァイガー紙も同意する。「アゼルバイジャンは今回多額の費用を国のイメージアップに使った。特に高額な広告に投資した。だが、政府を批判する動きを抑え込むことはできなかった 」

 最近、国際的な文化やスポーツの催しが、独裁政権の国々で開催される傾向が広がっている。中国やロシアでのオリンピック、バーレンでのF1グランプリ、カタールでのサッカーW杯などだ。

 これらは、アゼルバイジャンのユーロビジョン開催に関し「反体制派にとっても有効な出来事」と分析したような効果があったのだろうか?オブレヒト氏はこう結論する。「こうした独裁政権の国々では、巨大なイベントを開催するために必要な資金は、例え賄賂を使ってでも用意する。しかし、開かれた政治が行われるようになるかといえば、まさにオリンピック開催後の中国がそうであるように、あまり期待できない」

スイスはエネルギー資源においてアゼルバイジャンと緊密な関係にある。

2008年、スイスは1000万フラン(約8億円)をアゼルバイジャンの人道援助、技術開発、経済開発援助に使った。

スイスのミシュリン・カルミ・レ前外相は2006年にアゼルバイジャンを訪問し、三つの2国間協定を結び、移民問題に関する共同声明を発表した。元スイス大統領のパスカル・クシュパン氏やハンス・ルドルフ・メルツ氏は2人とも、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ現大統領と会談している。

(仏語からの翻訳・編集 里信邦子)

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