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رجل وامرأة
2018年に結婚した夫婦の35%はスイス人と外国人カップルによる国際結婚だ Keystone / Isabelle Rozenbaum

スイス人パートナーとの結婚を機にスイス社会への扉を開けた、スーダン、パレスチナ、ジョージア、日本、メキシコからの移住者が、スイス暮らしの良いところ、悪いところを率直に語った。

連邦統計局によると、2018年に結婚した夫婦の35%はスイス人と外国人カップルによる国際結婚だ。また、国際結婚の夫婦は同じ国出身の夫婦に比べて離婚率が低い。連邦政府は、このような国際結婚は移民の社会統合の度合いを示すものであり、スイス社会がどれだけオープンで、こうした事象を寛容に受け入れる文化が備わっているかが分かるという。 swissinfo.chは、国際結婚相談センターの所長と、スーダン、パレスチナ、ジョージア、日本、メキシコ出身者に、スイス人パートナーとの結婚を機に暮らし始めたこの国で、どのようにしてスイス社会へのドアを開いたかを聞いた。

スイスが我が家に

ゲド・シャリフさんのラブストーリーは厳しい冬の日に始まった。大雪で公共交通機関が麻痺する中、シャリフさんは静まりかえったバス停で、たまたま居合わせた見知らぬスイス人女性と何気ない会話を始めた。2人はやがて家族となり、3人の子供に恵まれた。シャリフさんはこれまでの道のりを、スイス社会と自分自身を探し出す長い旅だったと振り返る。「私は難民としてスイスに来た。難民として来る人は誰でも学校でこちらの言語を学び、言葉を習得するために特別な努力をする。私の場合はスイス人女性と結婚したことで、自動的にスイスの文化や言葉を知るための扉が開いた。今ではスイスが我が家だ」

メキシコからやってきたラウラ・チャベスさんもスイス社会に溶け込むまでの道のりは長く、困難だったと言う。「すべてを一から学ぶ必要があった。あいさつの仕方から法律、コミュニケーションの取り方、食べ物の性質やドレッシングのレシピ…。スイスとメキシコの文化的な違いが大きいからかもしれない」

バーゼル市にある国際結婚相談センター所長のレベッカ・オツィンガー博士は、社会統合は「いくつかの基本的な要因に依存する」という。欧州連合(EU)加盟国の国民は、母国で取得した学位がスイスでも認められるため、生活のスタートを切りやすく、就職先を見つけたり働き始めたりするのが早い。一方、EU、EFTA(欧州自由貿易連合)非加盟の第3国出身者の場合はそれがスムーズにいかず、仕事や社会統合のチャンスを見つけにくい。そのため、パートナーに責任を押し付けることにつながる可能性がある。

専門家は、言語、宗教、肌の色も社会統合の重要なポイントだという。EU出身者は通常、スイスの主要な宗教を信仰しているため、肌の色が黒く他の宗教に属する人が経験するような差別や憎悪のパターンに苦しむことはないかもしれない。しかし、オツィンガー氏は同時に、「個人差も重要な役割を果たしている。人との関係構築や社会統合が成功するかどうかは、本人の教育や文化が関係している。国籍が主な要因ではない」という。

「ソフィアのそばで」

シャリフ・アーメドさんは個人的にも人間的にも、「スイス人女性と一緒にいたことで、結婚や人生観が変わった」。「(…)妻との関係はパートナーシップであり、友情。夫の責任は物質的なものだけではない。スイスでは女性の方が男性よりも稼いでいることもあるからだ。すべてを共有することは素晴らしい。もちろん男性はより努力が必要になるが、それは人間レベルでの付加価値となる」という。

日本出身のユミ・リヒトシュタイナーさんも、スイスでは男性が家事や育児に参加していることを高く評価する。「仕事とプライベートのバランスが取れているのが印象的。日本の労働文化と対照的に、病気の子供の世話のために欠勤しても、職場でのイメージが損なわれない。またスイスでは通常、残業することはまれ。家族と私生活が優先されている」と話す。

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山でのハイキングや自然、アウトドアスポーツへの情熱は、スイス生活の最も特徴的な点で、多くの移民も同じようにそれを楽しんでいる。「妻から多くのことを学んだ」と笑顔を見せたのはセルゴ・ミケルトモフさん(30)。「その中でも最も大事なのはウォーキング。ソフィーの隣で学んだんだ」

「山のハイキングはスイスの風物詩の1つ。私はそれまで長い距離を歩いたりしていなかった」とミケルトモフさん。妻のソフィーさんは夫を見つめ、こう言う。「泳ぎ方もね」。するとミケルトモフさんは大きな笑みを浮かべ、きっぱりと否定した。「いいや、泳ぎ方は知っていたよ。ただ泳がなかっただけ」

結婚生活に活かされるスイス外交の極意

もう一つ、移民組が皆同意したのは、スイスの議論の仕方や違いへの対処の仕方が、自国の文化とは異なっているということだ。ビラル・アル・サイフィさんは、「折り合いがつかない問題はない。私がここで学んだのは対話の文化。批判を受け入れ、妥協点を模索するという文化だ。これはおそらく、議論や表現の自由、譲歩という価値観が確立されている政治システムと直接民主主義の性質によるものだろう」と話す。

ジェドゥ・シャリフさんは、それは教育システムと社会の文化によるものだという。「ここの人たちは、子供の頃から率直で恐れを知らずに生きている。ディベートと率直さは教育の柱だ」。

「話を聞くこと、落ち着いた姿勢でいること、相手の意見を受け入れること、相手のニーズを考慮すること、そして間違いを認めること。これらは夫と喧嘩をするときに最も素晴らしいと思う点だ。私は夫からこのような議論の仕方を学んだ。もちろんそれは、職場でコミュニケーションを取る際の一助にもなった」と、ローラ ・ チャベスさんは話す。

一方、日本人女性ユミ・リヒシュタイナーさんは、議論や喧嘩の仕方に二国間で違いを感じることはあまりなく、主に個人の特徴によるものだという。「でも面白いなと思ったのは、ここの人々は極力調和を保ち、衝突を避け、自分の意見を丁寧かつ間接的に伝えようとしているところ。これは服の選び方にも表れている。常にニュートラルで落ち着いた色を選ぶ。まるで調和を壊したり、他人の邪魔をしたりするのを恐れているかのようだ。日曜日は休息日という規則をしっかり守るのも特徴的。騒音を出さないよう、洗濯機を使うことも許されていない」

スイスの価値観:両刃の剣

シャリフさんの祖父が順応しなければならなかったもう1つのことは、時間と、その価値観だ。「時間を尊重し、私の妻と子供たちに十分な時間を割くのは慣れた。しかしスーダンの男性は、家事をしなくて良いとされている。また誰かと待ち合わせるときは、午後、としか言わない。そこには3時間の幅がある。ここでは家族のためにきっちりと予定を立て、家族同士であっても時間厳守が求められる。ここでは誰も時間通りだから、遅れると心配される」

ビラルさんもまた、時間を守ることや法律を尊重することはポジティブな価値観と捉えている。だが、それが生活の中での自発性の欠如や驚きの要素の欠如につながることもあるという。それにはラウラ・チャベスさんも同意だ。「ここでの穏やかな自然の生活を素晴らしいと思うが、自発性、色、音楽、ダンスが恋しい。メキシコで音楽はどこにでも、時間に関係なく存在している」

オツィンガー博士は、スイス社会の価値観は「諸刃の剣」だと説明する。「安定性、安全性、法と時間の尊重は、移民にも高く認められた価値だが、同時に障害を生み出す。何かを売るために店を開こうとすると、証明書や許可証が必要になり、これらのポジティブなことがネガティブなことになってしまう」。

スイス社会を理解し、そこに溶け込んでいくための最良の方法は、チームでできる趣味を盛ったり言語をマスターしたりすることだ。オツィンガー博士は「子供の存在もまた、スイスの人と知り合いになりやすい」と言う。「子供がいなければ、飼い犬が見知らぬ人ととの会話のきっかけになってくれる」








(英語からの翻訳・大野瑠衣子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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