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大きく背伸び 第4回チューリヒ映画祭

シルべスター・スタローンなら映画祭の魅力も十分上がるというもの。第4回チューリヒ映画祭 Keystone

9月25日から10月5日まで、第4回チューリヒ映画祭が開催される。初日には、ハリウッドのアクションスター、シルべスター・スタローン氏が市内の映画館に敷かれた赤いカーペットを踏むという。

また、審査員長にはピーター・フォンダを任命するなど、映画スターが中心の映画祭というイメージがチューリヒ映画祭には強くある。

映画祭は多すぎか ?

 スイスにはロカルノ国際映画祭のほか、ゾロトゥルン、ニヨン、フリブール/フリブルクなど数多くの有名な映画祭がある。スイスにこれ以上の映画祭が必要なのかという疑問は、4年前の初回からあった。後発の不利をカバーするかのように主催者は、大スターを呼び込むなど話題作りには力が入る。しかし映画祭のアートディレクター、カール・シュペーリ氏は記者会見で、その「ハリウッド的な」ゴージャスさをあえて主張しなかった。
「若い才能のある監督を評価したい。チューリヒで受賞した映画が、他国の映画祭でも上映されていることは誇りだ」

 キュレーターのニコライ・ニキティン氏が言う「ドキュメンタリードラマ、メロドラマ、ロマンチックコメディーなど多様な作品が揃った」フィクション映画 ( デビュー部門と若手監督部門 ) には16本、新に設けられたドキュメンタリー映画には8本の作品が参加する。ヨーロッパを中心にアメリカ、アフリカ、アジアから選ばれたこれらの作品の中から、10人の審査員の選考を経て、3部門の最優秀賞「ゴールデン・アイ ( Gloden Eye )」 が決まる。

 予算は初年度の3.5倍に膨れ、350万フラン ( 約3億3000万円 ) となり、上映劇場も2カ所、5スクリーンに増えた。チューリヒのエルマー・ゲルバー市長は「ベルリン映画祭を目指して頑張って欲しい」というコメントを日刊紙「ターゲスアンツァイガー( Tages Anzeiger ) 」に出し、助成金を今年初めて出した。これに対し総責任者ナディア・シルトクネヒト氏は
「チューリヒ映画祭はまだ生まれたて。公共の助成金は必要だ。資金がもっとあれば予算が1100万ユーロ ( 約17億円 ) のベルリン映画祭にも近づくことができる」
 と言う。

評価が極端に分かれたことが評価

 シルべスター・スタローン氏にはこれまでの俳優としての業績を讃え「ゴールデン・アイコン賞 ( Golden Icon )」 が、オスカーを2度受賞しているギリシャ人監督コスタ・ガブラス氏には「賞賛賞 ( A Tribute to…) 」 がそれぞれ贈られる。映画祭ではスタローン氏の「ロッキー」や「ランボー」、ガブラス氏の「告白」や「アーメン」といった2人の代表作も上映される予定だ。

 ゴールデン・アイコン賞をスタローン氏に決めた理由をシュペーリ氏は
「個人的には、僕らの世代のアイドル。しかしそれとは別に、スタローン氏は評価が極端に分かれる映画俳優だからこそ注目された。この点を評価した」
 と言う。スイスの映画産業はフランスやイタリアなどと比べても明らかに小規模で、しかもスイスで一番若い映画祭が、ハリウッドスターや有名監督に賞を与えることについてシュペーリ氏は
「スタローン氏自ら、チューリヒでの受賞式に来られないようであれば受賞はなかった。また、特別なギャラを払ってはいない」
 と断言する。連絡も通常のエージェントを通して行ったという。

 企画にスターを意識しているチューリヒ映画祭は、連邦文化局 ( BAK/OFC ) のニコラ・ビドー氏やマスコミなどから「華」がないことを批判されるロカルノ映画祭とは対象的だ。ロカルノ映画祭の主催者のマルコ・ソラーリ氏は「スターを招待することに資金を費やすのではなく、映画祭の質に力を入れるべきだ」と今年のロカルノではビドー氏と激しくやり合った。

 ロカルノ映画祭には毎年約19万人の映画ファンが集まる。一方、チューリヒ映画祭は2万7000人の予想にとどまる。映画の華やかさをアピールする映画祭が今後、映画ファンにどれだけ認められていくのか。将来が楽しみである。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

9月25日~10月5日
チューリヒ市内の2軒の映画館でコンペ参加作品他約70本が上映される。
入場料 21フラン ( 約2100円 ) 。
監督などがインタビューに答えるイベント付きの映画上映や、ハリウッドスターとのガラ・ナイトなども企画されている。
連邦政府からの助成金は5万フラン ( 約500万円 ) 。そのほかチューリヒ州と市からも援助を受け、公的資金は予算の8%を占める。
一方、ロカルノ国際映画祭への連邦助成金は135万フラン ( 約1億3500万円 ) 。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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