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無料新聞の淘汰

5月4日、最後の「.ch」紙の発行となった。 Keystone

無料新聞の「.ch」が廃刊となった。大きな理由は経済状況の悪化だ。5月4日に廃刊が発表され、翌日の5日からすでに街頭から消えた。編集部と出版部の社員合わせて69人に影響が及ぶが、失業者に対する支援は予定されていない。

「プンクトCh ( Punkt Ch AG ) 」社評議会の4日の発表によると、失業の対象となるのはそのうちの61人。最終的な廃刊の決定は、共働権を持つ社員の意向によるという。この共働権は大量解雇が発表されたときに行使されるもので、社員はこの先2週間で経営を続ける方法を模索することができる。

無料新聞の過剰供給

 しかし、エルンスト・ブオプ評議会長は
「こうして法律を守っているのだが、チャンスはあまりない」
 という見方だ。評議会は「.ch」の創刊当初、2011年には採算が取れるようになると見込んでいたが、慎重に検討した結果、この目標は達せられないと判断した。そのため数十億円単位の投資が必要になったが、投資家にはその準備がなく、廃刊を決定したという。

 編集長のロルフ・レープ氏は、編集部の動揺は大きいと語る。
「再スタートは好調だったし、その後の展開も悪くなかった。これなら行けるという確信もあり、情熱を持って仕事に取り組んでいた。だが、今の経済状況を考えると、評議会の決定もある程度仕方のないことだと思う」

 「.ch」の廃刊決定を受けて、メディア関係の労働組合「コメディア ( comedia ) 」と「インプレッスム ( impressum ) 」は「失業者に対する公正な支援」を要求している。コメディアはコミュニケで、「現在のような経済的に難しい状況では、企業は特に大きな義務を負っている」と発表した。しかし、ブオプ氏はスイス国営テレビドイツ語放送のニュースで、失業者に対する支援は予定されていないと語っている。

 また、インプレッスムも今回の廃刊を招いたのは経済状況だけではないとみており、
「市場は無料新聞であふれており、新聞社は過剰供給を敢えて受け入れている。無料新聞の過当競争の尻拭いがマスコミ関係者に押し付けられるのは非常に残念だ」
 と発表した。

 この批判は特に「.ch」のライバル紙、「タメディア ( Tamedia ) 」社の無料新聞「ニュース ( News ) 」に向けられたものだ。これに対し、同社の広報担当であるクリストフ・ツィンマー氏は
 「『ニュース』紙は、『ターゲス・アンツァイガー ( Tages Anzeiger ) 』『バーズラー・ツァイトゥング ( Basler Zeitung ) 』『ベルナー・ツァイトゥング ( Berner Zeitung ) 』という新聞社の提携グループに新たな読者をもたらすためのもの」
 と語った。

わずか2年で…

 「.ch」は2007年9月半ばに配布が始まった。しかし、読者数がなかなか増えず、2008年10月に一新して再スタートを切ることになった。新しいコンセプトと歩行者に直接手渡すという配布方法によって、読者数は数カ月の間におよそ40万人まで倍増した。

 2009年1月、株主は「.ch」をこれまでの「メディア・プンクト ( Media Punkt AG ) 」社に代わって新たな経営体で再スタートさせた。以来「.ch」は、スイスの街頭におよそ2000個の新聞ボックスを設置して無料新聞を配布していた。

swissinfo、外電

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