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音楽の宇宙飛行士 

サティニ教会のパイプオルガンを練習する早藤眞子さん swissinfo.ch

ジュネーブ郊外の3つの教区でオルガニストを勤める早藤眞子 ( はやふじまこ ) さん(45歳)。ブドウ畑が見渡せる美しい石造りのサティニ教会を訪ねた。オルガン用のスリッパを手に、2階にあるパイプオルガンに案内してくれた。オルガンを前に座ると顔が緊張で引き締まる。静まり返った教会にバッハの神聖な音楽が鳴り響いた。

 「オルガンを弾いていると宇宙飛行士になった気分」と語る早藤さん。オルガンは完成された宇宙を感じさせる楽器という。楽器としては一番大きく、響かせる空間も楽器の一部だからだ。

 曲に合わせてレジスターというボタンを選び、音色を決める。「オーケストラに似た音色を引っ張り出す」には作曲者がどんな音が欲しかったのかを考えなければならない。 

 オルガンがピアノと違うのは「頭でする仕事が多い点だ」という。大音量で弾くため疲れてしまい、ピアノのように何時間も弾けないからだ。オルガンは音楽を頭で設計し、弾くときにはすでに分かっていないと難しい。それでも、弾いてみてから「あれっ、こんな音との組み合わせもあるじゃない」と気づく。

 教会のオルガン奏者を勤めるには牧師さんとの相性も大事という。日曜日の礼拝のプログラムを渡され、早藤さんがその内容によって「福音書のメッセージに合ったもの」を選ぶ。用意に時間をかけ、上手くいったときは会衆に感謝されるのが嬉しい。

 礼拝の場なので「聞く人の心に触れることができる」のがこの仕事の醍醐味だという。「ほかの人と一緒に神の前に心を一つにする」と語る彼女自身もクリスチャンだ。自らが主役でないのが自分に合っているという。

 オルガンとの出会いは夫の転勤でジュネーブに来てから。高校時代からの念願が叶い、マリネット・エクスターマン先生に師事。その世界にのめり込んだ。

 難関といわれるジュネーブ音楽院のオルガニストの資格も特別優秀な成績で合格。オルガンは一台一台、性格が違うので個性が分かるには時間がかかる。「体の大きさ、温かみ、声など基本的に持っている機能は人間と同じ」。「練習を始めるとやりたいことが増えてよっぽどおなかが空かないと帰れなくなっちゃう。でもすごく幸せ」と笑顔が輝いた。

swissinfo、 聞き手 屋山明乃 ( ややまあけの )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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