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スイスのコンテンポラリーダンスを彩る振付師

Gregory Batardon

マリー・キャロリン・オミナルさんは今夏、スイスのコンテンポラリーダンス界における花形の1人として、複数の作品を並行して手掛けている。その作品はローザンヌ公演を始め、ヨーロッパツアーでも公開される。

このコンテンツは 2021/07/27 08:30
Ghania Adamo

ダンススタジオに並んでいたのは、トゥシューズではなく5足のスニーカーだった。なぜバレエシューズの代わりにスポーツシューズがあるのかと問われると、オミナルさんは微笑みながらこう答えた。「私は裸足で踊るので、何を履くかは関係ない。でも今靴を履いていないのは、地面に直接触れて土のエネルギーを感じるため」。オミナルさんはジュネーブに住むダンサーで、同時にパーフォーマー、振付師としても活躍している。

確かに、いくつものプロジェクトを同時進行させながらマルチに活躍するオミナルさんにはエネルギーが必要だ。6月末にローザンヌでダンスパフォーマンス「Sugar dance(シュガー・ダンス)」を公演したあと、現在は「Eurêka, c’est presque le titre(仮訳:エウレカ、それはほとんどタイトル)」と「Pièce en Forêt(仮訳:森の中の作品)」2作品の振付けを手掛けている。

Veronique Valdes

「森の中の作品」は7月初旬にローザンヌで開催されたシティフェスティバル「Festival de la Cité」のプログラムで公開された。一方「エウレカ、それはほとんどタイトル」は「誇り」の作品だという。「この作品は、今年25周年を迎えるバーゼルのティンゲリー美術館に依頼されてできたもの。私と2人のアーティストに舞台企画がゼロから任され、私のパートはダンスと彫刻を組み合わせたものを作った。今年の夏の2カ月間、ヨーロッパツアーでベルギー、オランダ、ドイツ、フランスの美術館・博物館で公開する。公演に合わせて、ティンゲリーの作品が展示された平底船がパリからバーゼルまで川の旅を続けながら、4カ国に立ち寄る」

フェリーニの世界

音楽的で演劇的なスタイルの「シュガー・ダンス」は、イタリアの映画監督フェリーニの世界観、特にそのドキュメンタリー調の映画「道化師」を舞台に呼び起こす作品だ。フェリーニはオミナルさんが好きな映画監督の1人。「彼のファンタジーだけでなく、彼自身と演技の関係に敬服する。『シュガー・ダンス』で私は、舞台の裏側、つまり集中する瞬間、緊張、孤独など、アーティストが舞台に立つ前に経験するものを表現したかった」。

2013年の振付作品、「Triomphe de la renommée(仮訳:名声の勝利)」では、観客を1人ずつ受け入れ「2人きり」になって、振付パフォーマンスと親密な時間、繊細な感情の15分間を見せた。

そのスタイルは決してイノセントなものではなく、むしろそこには自己賛美のようなものさえ見えるのではないか?そのような問いに対し、「まさか!これはアンディ・ウォーホルの有名な言葉、『将来、誰でも15分間は有名になれる』を遊び心で表現したもの」とオミナルさんは言う。

オミナルさんは2019年に連邦内務省文化局(BAK/OFC)から卓越したダンサーに贈られるスイスダンス賞を受賞して、名声の時を経験した。だがオミナルさんは、「名声?違う。賛辞ならOK。賞は一般の人には何かの目安になるかもしれないが、受賞者には必ずしもそうではない。私の場合、受賞の前と後で何も変わっていない。私はいつも疑問に突き動かされ、常に自分に多くの疑問を投げかけている」と、あくまで謙虚だ。

「私は1815年生まれ」

とはいえ、そこには成熟がある。それはたゆまない努力の結果であり、年齢など関係ない。いずれにせよ、マドモアゼルMCH(オミナルさんは自分をこう呼ぶ)は自分の年齢を気にしない。「何年生まれ?」と聞くと、笑いながら「1815年」と答え、「私は、死というオプション付きの永遠の存在でありたい。いつかある番組で聞いた言葉だけれど、この哲学はとても正しいと思う」と話した。

フェリーニの世界にインスピレーションを得たダンスプロジェクト、「Sugar dance」 Laura Laucella

ダンサーの母親を持つオミナルさんは子供の頃、アイスホッケーかF1の選手になりたかったという。フラフープを見て、「レーシングカーを作ろう!」と思うほどだったが、8歳の頃スポーツへの熱は落ち着いた。その後、スペインのアントニオ・ガデスや英国のアナ・ウィリアムスの公演を見て、舞台に興味を持った。

チューリヒ・ダンスアカデミーに入学した後、ロンドンのランベール・スクール・オブ・バレエ・アンド・コンテンポラリーで学んだ。2000年代初頭にロンドンから帰国し、スイスのダンスシーンに活力を与えたスイス・フランス語圏の振付師ジル・ジョバン氏とも作品を作った。現在ジュネーブに住むオミナルさんは、スイスの振付け界の花形の1人だ。最新作「Fragment et Instantanés(仮訳:破片と一瞬)」では、映像、絵画、彫刻の世界など、異なるジャンルを組み合わせ、それをダンスを投影させている。「私は誰の真似もしない」。オミナルさんはそう話す。

国際的な振付師の集まり

ジョバン氏はオミナルさんについて、「自分をさらけ出し、常につながりを持ち、国際的なシーンで果敢にも自分の場所を築いている人」だと言う。手厳しいことで知られるジョバン氏の言葉としては、素晴らしい評価だ。「スイスのコンテンポラリーダンスには真のアイデンティティがない。だからと言ってクオリティが悪いと言っているわけではない。その反対。だが、私たちよりも主張の強いフランスの振付けやドイツの芸術の影響をある程度受けていることは確かだ」

それでも、スイスのコンテンポラリーダンスは、助成金の助けもあり順調に世界へと活動の幅を広げている。ジョバン氏は、「スイスは裕福な国。経済的支援や海外進出という点では、十分に助けられている」と認める。「しかもフランス語圏には、スペインのラ・リボ、ブラジルのギエルム・ボテイオ、ベルギーのシンディ・ヴァン・アッカーなど、様々な国籍の振付家が集まっている。だがドイツ語圏は話が違う。例えば、チューリヒは、私の目には『野暮ったい街』にしか見えないが、コンテンポラリーダンスのスターであるニュージーランドのシモーヌ・オーターロニーを引き留めることができなかった」

オミナルさんを始め、ヴァン・アッカーやボテイオなどの国際的なダンサー・振付家たちが、スイスのコンテンポラリーダンスが思う存分花を開かせるための肥沃な土壌を作り続けている。

(仏語からの翻訳・由比かおり)

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