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スイスの視点で振り返る日本関連の記事

スイスのメディアが報じた日本のニュース

抱擁する岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領
11月の日韓首脳会談で抱擁する岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領。NZZはこの写真に「1年半前はこのようなシーンは考えられなかった」との説明を添えた Keystone

スイスの主要報道機関が先週(11月27日〜12月3日)伝えた日本関連のニュースから、外交やビジネス、科学技術に関連する4本を選んで要約・紹介します。

【報道されたトピック】

  • 東洋発祥の昆布茶が普及した歴史を解説(11/29)
  • 硫黄島新島の噴火活動を撮影(11/29)
  • 富士通、省電力半導体で電力不足を回避(11/30)
  • 『ゴジラ-1.0』がスイスで公開(11/30)
  • 米軍オスプレイが墜落(11/30)
  • 世界最大の核融合実験炉の試験運転を公開(12/1)
  • 東京から得る過密都市のヒント(12/2)
  • 日韓首脳、歴史問題を超えて協力強化へ(12/2)
  • サッカーの小野伸二選手が引退(12/3)

この中から今回は①日韓関係②富士通の省電力半導体③核融合実験炉の試験運転を公開④東京から得る過密都市のヒント―をご紹介します。

対立する2国家が突如手を結ぶ

岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するために訪問中の米サンフランシスコで、今年7回目となる首脳会談に臨みました。ドイツ語圏の日刊紙NZZは両首脳が抱擁する写真を掲載するとともに、歴史問題で関係が悪化していた両国が急速に接近する背景を読み解きました。

きっかけは2022年5月の尹氏の大統領就任。選挙期間中に公約した「米国と協力し、北朝鮮や中国に対抗できるようにするための両隣国間への戦略的接近」を実践するため、それまでの二国間対立を脇に置くことに。この機を捉え、岸田氏も軍事・外交、経済分野と包括的な関係拡大を推し進め、「氷河期の再来を阻止」しています。

さらに日米間との三国同盟も推進。共同演習や、北朝鮮のミサイル攻撃に対応しています。NZZはこの背景に「米国防衛における日韓の統合強化を通じて、ドナルド・トランプ氏が大統領に再選されても同盟関係を確保できるようにする」という「暗黙の了解」があると分析しました。

半導体ビジネスの協力拡大もこうした安全策の1つです。ただ韓国の最高裁判所が11月末、日本に強制売春婦に対する損害賠償請求の免除を認めた下級裁判所の判決を覆したことを挙げ「二国の関係が実際にどれほど安定しているかはまだ分からない」とも指摘しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

生成AIによる電力不足を半導体で解決 富士通のMONAKA

2026年の実用化を目指して富士通が開発中の省電力CPU(中央演算処理装置)「FUJITSU-MONAKA(仮称)」。NZZは、富士通が開発を急ぐ背景を「突然の人工知能(AI)ブームによって引き起こされた電力不足から救う」ためと解説しました。

オープンAIのChatGPTを始め世界中で生成AIの開発が進むなか、業界では「2年以内に電力不足に陥る」(オープンAIの共同創設者イーロン・マスク氏)と警告されています。ソフトバンクの宮川潤一最高経営責任者(CEO)も、AIアプリが効率化しなければ2030年には石炭火力発電所が580基必要になると指摘しています。

NZZによると、11月初旬にヴィヴェック・マハジャン最高技術責任者(CTO)はMONAKAの消費電力が同等モデルの10分の1にとどまると話しました。同社が最小プロセッサに注力するのは、ライバルの米IBMがコンピューティングパフォーマンスの向上を狙ったAI専用半導体「Northpole」を開発する動きをにらんだものだとNZZは解説しました。

富士通にとっての課題としてNZZが指摘したのは「画像処理半導体(GPU)メーカーの米エヌビディアの牙城を崩せるか」。現在はAI向けデータセンターの大部分をエヌビディアやAMDが席巻しているものの、機械学習に的を絞ったMONAKAのように用途を限定した半導体では電力効率が重視され、伸びしろは大きいとの専門家の見方も紹介しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

日欧共同プロジェクト「JT-60SA」

量子科学技術研究開発機構は1日、茨城県那珂市にある核融合実験炉の試験運転を公開しました。日本と欧州の共同プロジェクトであるJT-60SA外部リンクの現状を、ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーが仏AFP通信の記事を転載する形で報じました。「日欧の500人を超える科学者・エンジニア、70社以上の企業のコラボレーションの成果」(プロジェクト副主任のサム・デービス氏)です。

核融合は化石や原子力に代わるクリーンな発電になる可能性があります。一方、記事では環境団体から非効率・複雑・高価であるとの批判があることも紹介。市場化までにはまだ数十年かかり太陽光など他の再生エネルギーの推進も必要なこと、原子力に比べわずかではあるが放射性廃棄物が出ることも指摘しました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

スペースが少なくても快適に暮らすヒント

スイスのエリザベット・ボーム・シュナイダー司法相はNZZ日曜版(11月26日付)のインタビューで、難民の大量流入への不安に対し「人口1200万人のスイスをおそれることはない」と話し、反響を呼びました。日本在住のフリージャーナリスト、フェリックス・リル記者はこの騒ぎをてこに、東京には「スイスよりもはるかに狭い空間に4倍の人口が住んでいるが、長い時間をかけて他の人々とうまくやっていくための解決策を編み出してきた」として10個のヒントを列挙しました。

リル氏が注目したのは「特定のニーズを自宅で満たす必要がなければ、狭さはそれほど重要ではない」ことです。例えば安いコインランドリーがあるので大型の洗濯機を置く必要がなく、安いファストフードレストランがあり狭いキッチンも気になりません。カラオケやラブホテルなど「ストレス発散や性的交渉さえも外部化できる」と紹介しました。

ペットを飼うスペースがない代わりに猫カフェがあり、いつでもどこでもコンビニやスーパーが営業しているため食料倉庫は不要。交通網が発達しているため自宅に駐車場も要りません。墓すら高層ビル化している東京の実情をユーモアたっぷりに語りました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

話題のスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイスの労働力不足、依然深刻」(記事/日本語)でした。他に「夢破れて:スイス、冬季オリンピック招致の失敗の歴史」(記事/日本語)、「Marlon Brando’s $5m Rolex held in Swiss dispute with Christie’s」(記事/英語)も良く読まれました。

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今日のテーマ:カーボンオフセットの仕組みは必要?

気候変動対策として、排出量を売り買いする「カーボンオフセット」の仕組みは必要不可欠なのでしょうか?それともお金の無駄なのでしょうか?

このテーマに対して、現在「オフセットは良心の呵責を和らげるが、良い解決策とはまったく言えない!」(イタリア語圏読者)や「このシステムがどのように機能しているのか、そしてクレジットの対価を実際に受け取る側にとってどのような意味があるのかを知っているので、自分や家族の生活を『相殺』しています」(英語圏読者)といった意見が出ています。

ご意見やご感想、取り上げて欲しいテーマなどのご要望がありましたら、お気軽にこちらのメールアドレスまでお寄せください。

次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は12月11日(月)に掲載予定です。

校正:上原亜紀子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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