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スイスの人口、900万人へ向けて急増 総選挙の争点に

通勤客でごった返すチューリヒ駅
通勤客でごった返すチューリヒ駅 Keystone / Michael Buholzer

スイスの人口が今年、900万人を突破する見込みだ。移民増加率の高まりを背景に、欧州他国を突き放すペースで人口が伸びている。その勢いは、10月の連邦議会総選挙にも及びそうだ。

最新の統計によると、非永住外国人を含めたスイスの人口は893万5707人。予測を3年上回るハイペースで急増しており、今年中に900万人を突破する見通しだ。

要因は、移民の増加だ。スイスでは欧州連合(EU)との人の往来の自由などを背景に、昨年1月から6月にかけて移民が21%増加した。

次回総選挙の争点

10月に連邦議会総選挙を控えるスイスでは、人口増が争点の1つになっている。特に声高なのが第1党の国民党(SVP/UDC)で、移民の増加を「行き過ぎた流入」だとして痛烈に批判。この流れにブレーキをかけたい構えだ。

国民党のマルコ・キエザ党首は仏語圏のスイス公共放送(RTS)に対し「インフラやエネルギー供給が足りず、家賃も上昇している。管理や制御のない移民流入が原因だ」と語り、「スイスは国土が狭い。1千万人を抱える余裕はない。今の900万人ですらこの状態だ。1人当たりの所得低下が進んでいるが、それはスイスの豊かな暮らしが失われつつあることを意味する」とも述べた。

移民なくして成長なし

人口増と同時に、高齢化も進んでいる。ベビーブーム世代が定年を迎え、年齢の中央値は50年間で31歳から40歳超へと上昇。労働市場に大きな影響を与え、空前の人手不足に陥っている。

スイス雇用主連盟(SAV/USI)にとって、移民は国の経済成長に不可欠だ。同連盟でチーフエコノミストを務めるシモン・ヴェイ氏は、RTSに対し「今は移民に歯止めをかける時ではない」との考えを示した。「人口はもちろん増えている。しかし、スイス国民はパートタイム勤務を望む傾向があるため、今の高い生活水準を維持するには移民が必要だ」

地球規模の問題

しかしこの生活水準と環境保護を両立させるのは、非常に難しい課題だ。緑の党(GPS/Les Verts)は、人口増はスイスだけの問題ではなく、国内の人口を1千万人に制限するのはナンセンスだと反論する。

ヴァロンティーヌ・ピトン下院議員(ヴォー州)は、こう語る。「人口の増加が環境に負荷をかけているのは事実だが、地球全体で大気に影響を及ぼす温室効果ガス排出と同じく、この問題も世界規模で評価すべきだ。人口増加に対抗するにはむしろ、その負荷を抱える国々に対して開発援助を行うべきだ」

人口増は、環境・経済・エネルギー・インフラをめぐる戦略的な課題だ。総選挙を控える今年、移民が再び政治的な争点になるのは驚きではない。

「スイスは移民の国」

それに対しジュネーブ大学の人口統計学者ミシェル・オリス教授は、同じくRTSの報道番組で、「スイスは移民の国だ」と当然のように答えた。純移動(移入人口から移出人口を差し引いた数)が増えているのは特記すべき問題ではなく、「もともと来年か再来年には、900万人に達すると予想されていた。これは第二次世界大戦後から続く人口増加の流れの延長線上にある」と続けた。

同氏によれば、最近スイスに来た移民のほぼ6割が大学卒業者で、「高度な資格を要するポストの欠員を埋めてくれている」。一方で、「中程度の資格を要するポストでは、スイスの二元職業訓練制度がうまく機能しており、移民労働力はあまり必要とされていない」という。

しかし、ほどなく900万人に達する人口がインフラを圧迫する中で、スイスが超えるべきではない上限は存在するだろうか?これに対し同氏は「いつか限界に達し、人口過多に陥る可能性は当然あるが、それはずっと先の話だ。40年前、人口密度が最も高い国はオランダだった。現在、人口密度が世界一で、インフラの圧迫が最も深刻なのは、世界最貧国の1つでもあるバングラデシュだ」と回答。現在スイスが直面している課題は「国があらかじめ余裕をもって対処してこなかったツケであり、先を見据えた投資が十分に行われなかった結果として生じたものだ」と締めくくった。

仏語からの翻訳:奥村真以子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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