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コロナ流行「第2波と同規模にも」 コロナTF新任トップ

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若年層を中心に新型コロナウイルスの感染が再拡大している Keystone / Martial Trezzini

スイスの新型コロナウイルス対策で科学的知見から政府に助言するタスクフォース(TF)のトップが交代した。新任のタンヤ・シュタッドラー氏は今の増加傾向が続けば、昨秋の第2波と同じくらいの負荷が医療機関にかかると予測する。

スイスでは6月末以降、感染力の強いデルタ株の広がりで新型コロナの新規感染者が増えている。ワクチンを接種していない人、10~29歳の若年層に感染が多い。

Tanya Stadler
スイス連邦科学タスクフォースの新座長、タンヤ・シュタッドラー氏(40)。ウイルスが専門で、バーゼルにある連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)生物システム科学工学部の准教授を務める Keystone / Peter Klaunzer

17日時点で500人が新型コロナのため入院中。集中治療ベッドの使用率は7割に達し、14%をコロナ患者が占める。死亡者数は低位にある。

連邦科学TFの進座長に就任したタンヤ・シュスタッドラー氏が17日、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)のインタビューで今後の課題を語った。

SRF:17日には新規感染者数が3150人と、今年の最多を記録した。現状をどう考えるか。

タンヤ・シュタッドラー:「正常化フェーズ」にあるにもかかわらず、非常に難しい状況にあることを示している。ワクチン接種が進んだおかげで入院者数は抑えられている。しかしまだワクチンを受けていない人もたくさんいる。また入院者数も先月は3週連続で倍増し、ひと月で8倍に増えた。

SRF:とはいえ、入院者数は低水準を保っている。

シュタッドラー:最初は極めて少なかったが、今は7日間で30人近い入院患者が出ている。もし来月も3週連続で倍増すれば、最悪期だった(昨秋の)第2波と同じ水準になる。あの時、病院には大変大きな負荷がかかっていた。

SRF:第4波が始まっており、それは猛烈な第4波になるとの見方を示した。

シュタッドラー:今の問題は、急拡大に勢いがついているということだ。毎週、感染が1.5倍ずつ広がっている。問われているのは、このスピードを落とすことができるかどうか。今は夏休みが終わって学校が始まり、秋が近づいている。昨年を振り返ると、これらの要因は事態を遅らせる方向には作用しなかった。

SRF:スイスの人口の半分強が2回のワクチンを接種済みだが、第4の波を止めるのには不十分だ。ワクチン接種率を上げるために何をすべきか?

シュタッドラー:ワクチン接種を受けるか、いずれウイルスに感染するかという選択肢しかないことを人々に理解してもらうのはとても大切だ。(コロナに対する)ワクチンを受けていない人も、病院行きになるリスクは減らないという事実を頭に入れておく必要がある。

実際はその正反対に近い。現在出ている新しい変異株により、ワクチン未接種の人の入院リスクは(昨春の)第1波の時の2倍に高まっている。

連保科学TFは2020年3月、意思決定者に科学情報を提供する目的で設置された。ただその目標は少し変化している。これまでの主な目標は、人々がワクチンを接種するまで感染を防ぐことだった。

12歳以上がワクチンを受けられるようになった今、TFは3つの新目標を掲げている。

  • 医療機関が過負荷になるのを防ぐ
  • スイスでワクチン接種の対象外である12歳未満の子供を守る。シュタッドラー氏によると「コロナウイルスは子供にとって大人ほど危険ではないが、子供も症状が出る可能性がある」
  • 免疫力の弱い人を守る

科学TFのメンバーは当初70人だったが、25人に縮小された。現在は小児科、感染症の専門医、子供のメンタルヘルスなどの分野の専門家が参画している。

SRF:一部の州では、12〜18歳の生徒に対して学校でのワクチン接種を奨励したいと考えている。それは理に適っているのか?

シュタッドラー:一部の州では、若者が予防接種の予約をするのはそれほど簡単ではないと聞いている。したがって、誰もがワクチン接種を受けやすい体制を整えることには意味がある。これ(若者の予防接種)に反対であれば、ワクチン接種をためらわずに拒否すればよく、ワクチン接種することには支障はない。

SRF:TFの新しい目標の1つは、ワクチンを受けられない12歳未満の子供を守ることだ。考えられる解決策として、CO²フィルターやエアフィルター、定期的な検査が議論されている。いずれも州や基礎自治体がまだほとんど採用していない手段だが、増やしていくべきなのか。

シュタッドラー:まったく違和感なく導入できる対策もあるはずだ。子供にとっては、CO²センサーとエアフィルターのどちらが設置されていても違いは全くない。納税者にとってはいくらか負荷が増えるが、これまでの支出に比べればわずかなものだ。我々のアプローチは、スムーズに導入できるものすべてをすぐにでも実行することだ。それはウイルスの循環をできるだけ抑えて学校を開ける唯一の方法だからだ。

スイスの科学者と政治家、一般市民の関係には時として波風が立ってきた。

疫学者のクリスティアン・アルトハウス氏は2021年1月、連邦科学TFのメンバーを辞任した。科学を公平に取り扱うよう政治家に忠告。TFの報告やより厳しい対策を求める助言に対し、連邦閣僚が文句をつけたことに対する不満だった。

TFを辞任したのはアルトハウス氏が最初ではない。初代座長のマティアス・エッガー氏は20年6月、ロックダウン(都市封鎖)の解除は時期尚早だと警告したが政府に無視された。エッガー氏は1カ月後に辞任した。

エッガー氏の後任のマーティン・アッカーマン氏はドイツ語圏の日刊紙NZZ紙に、「ストレスは私がそれまで経験したレベルをはるかに超えていた」と語った。 2020年春の第1波に対してスイスは迅速に対応し世論の支持を得たが、同年秋の第2波には足踏みし、感染爆発を許した。もっと早く対応していれば、病院への負荷は半減しただろうと述べた。

「感染者はずっと少なく、死者もずっと少なかっただろう」

アッカーマン氏は今年、スイスは近隣諸国よりも緩やかな対策で封じ込めることができたとの見方を示した。8月にシュタッドラー氏に座長を引き継いだ。

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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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