国連に 海と洞窟のアートを
その部屋に入ると、天井からさまざまな色の「鍾乳石」がつららのように垂れ下がっている。これはジュネーブ国連ヨーロッパ本部の人権理事会が使う第20号会議室の天井レリーフで、今もっとも注目されているスペイン人のアーティスト、ミケル・バルセロー氏が制作した作品だ。
11月18日スペインのファン・カルロス国王、潘基文 ( パン・キムン ) 国連事務総長、スイスのパスカル・クシュパン大統領など700人の貴賓列席のもと、その開幕のセレモニーが行なわれた。
マルチな世界像
「海と洞窟、それは表面性と内面性を表しているが、その基本的な宇宙観をまずは表現したかった。垂れ下がった鍾乳石のような形は、赤、黄、紫など、色も形も1つとして同じものはない。それはまるで、人権委員会に集まる異なる言語と異なる意見を持つ人々のようだ」
とバルセロー氏は語り、究極的には「マルチな世界像」を表現したかったという。
さらに海水が入り込むマヨルカ島の洞窟のイメージが基本にあると、この島出身のアーティストは言う。3万5000キログラムの絵の具を、鍾乳石のように天井から垂らし、しかも会議中の人の頭に落ちないような安全性を図るには、技術的にもかなりの困難があったという。アトリエで一年間研究し、現場で13カ月間かけ20人のアシスタントを使って制作した。
会場の入り口から見ると、すべての「鍾乳石」は緑色がかったグレーで、反対に議長席から見るとさまざまな色が見えてくる工夫がされている。バルセロー氏はまずあらゆる色を天井の「鍾乳石」に噴射し、その後で緑色がかったグレーを入り口側から片面だけ噴射したからだという。その緑色がかったグレーのせいで、多色にもかかわらず、落ち着いた、宇宙的な広がりを見せる作品に完成している。
費用の点でも例外的なプレゼント
国連には今までもメンバー国から、絵画、タピストリーなど、さまざまな美術品が贈られてきた。しかし、こうした現代美術のインスタレーション・アート的なものは珍しく、また約2000万ユーロ ( 約24億6000万円 ) かかった費用の点においても例外的な寄贈となっている。
もともと2005年にジュネーブを訪れたファン・カルロス国王が、国連内の他国の寄贈品の質の高さに感動し、スペインからも国を代表する芸術品を贈りたいと考えたことからスタートしたという。
いずれにせよ、今後「人権と、異なる文明が調和する会議室」と呼ばれるようになる第20号会議室は、国連の名所の1つ、しかも何度見ても飽きない芸術品を眺められるような名所になることは間違いないようだ。
swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )
900平方メートルの天井に、3万5000キログラムの絵の具が使用されている。
20人のアシスタントと共に2007年4月に作業を開始した。
総額約2000万ユーロ ( 約24億6000万円 ) の資金は基金「オヌアルト ( ONUART ) 」が出資した。うち4割はスペイン政府が、残り6割はスペインの銀行やテレコムなどの企業が負担した。
マヨルカ島出身のスペイン人アーティストで現在51歳。
1980年代から国際的に有名になり、ある作品は90万ユーロ ( 約1億1000万円 ) で売却されたという。
数年前から、マヨルカ島とパリなどを行き来して活動している。
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