スイスの銀行には強い逆風が吹き、成長が滞っている。業界全体の純利益や預かり資産は増えているが、内実は異なるようだ。
このコンテンツが公開されたのは、
スイス銀行家協会は30日、年次報告書「バンキング・バロメーター」最新版外部リンクで2017年の銀行業界の業績を発表した。スイス国内の銀行253行合計の純利益は98億フラン(約1兆1千億円)と、前年に比べ24%増えた。預かり資産も1割近く増え、7兆3千億フランに達した。
銀行家協会のアウグスト・ベンツ副会長氏は、「銀行を取り巻く環境は不透明だと表現されるが、再び成長に向かう兆しがある」と述べた。
PLACEHOLDER
だがデータを詳しく見てみると、成長よりもむしろ停滞が見られる。純利益が増額したのは赤字に陥る銀行が前年より減ったに過ぎず、株主に分配される利益が増えたわけではない。黒字決算の銀行の収支は前年に比べ特段の変化はなかった。
また銀行家協会は、預かり資産の増加もスイスの銀行に資産を預ける顧客が増えたわけではなく、為替変動で資産価額が増えたに過ぎないことを認めた。国際会計企業KPMGとザンクト・ガレン大がまとめたプライベート・バンキング調査でも同様に、昨年は差し引き213億フランが流出したことが分かっている。
銀行家協会によると、イギリスのEU離脱(ブレグジット)などさまざまな地政学的リスクの影響で、銀行業界は成長が滞っている。来年以降もEU証券市場に参加するための要件として課されたスイスの銀行法改正も、まだ結論が出ていない。
銀行員の海外流出
米国発の貿易戦争も金融市場への圧力となっている。銀行化協会は、スイス中央銀行のマイナス金利政策も悩みの種となっていると打ち明けた。昨年、スイスの銀行はマイナス金利政策により前年より5億フラン多い20億フランを中銀に納めた。
スイスの銀行で働く人はフルタイム換算で9万3554人と、前年比7.7%減った。8行がスイス市場から撤退したことが一因だ。
大手銀行UBSは、事務職員約1000人をビール(ビエンヌ)やソロトゥルンなど人件費が安い地域に移すと発表した。移転先のオフィスは「銀行」と定義されなくなり、職員も銀行家協会の統計にカウントされなくなった。これを除くと、業界全体の労働者数は微減にとどまる。
2018年上半期はスイスの銀行が国外で従業員を増やしたため、国内のフルタイム換算の労働者数はさらに減っているという。近い将来に従業員を増やす予定がある銀行は3分の1程度にとどまる。
おすすめの記事
スイス、国立大留学生の学費を3倍に引き上げへ 下院委員会が可決
このコンテンツが公開されたのは、
スイス下院委員会は連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)の留学生の学費をスイス人学生の3倍に引き上げる案を可決した。27日に始まる夏期本会議で審議する。
もっと読む スイス、国立大留学生の学費を3倍に引き上げへ 下院委員会が可決
おすすめの記事
FIFA、脱スイスに向け定款改正
このコンテンツが公開されたのは、
国際サッカー連盟(FIFA)は17日、本部をスイス・チューリヒ以外に移せるよう定款を改正した。
もっと読む FIFA、脱スイスに向け定款改正
おすすめの記事
ウクライナ平和サミットの舞台スイス・ビュルゲンシュトック 地元住民は離心
このコンテンツが公開されたのは、
6月15~16日に開催されるウクライナ平和サミットの舞台として、ルツェルン湖を望むホテル「ビュルゲンシュトック・リゾート」が注目を浴びている。かつては庶民も受け入れられる高級リゾートして地元に愛されていたが、近年は事情が違うようだ。
もっと読む ウクライナ平和サミットの舞台スイス・ビュルゲンシュトック 地元住民は離心
おすすめの記事
スイスで花粉症増加 気候変動・大気汚染が背景に
このコンテンツが公開されたのは、
気候変動の影響で、スイスで花粉症患者が増加している。有症率は2割で、経済損失は最大で年間6900億円に上る。
もっと読む スイスで花粉症増加 気候変動・大気汚染が背景に
おすすめの記事
ユーロビジョン、「ノンバイナリー」自認のスイス代表優勝 イスラエル参加に抗議も
このコンテンツが公開されたのは、
欧州国別対抗の音楽祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」の決勝が11日、スウェーデン南部マルメで行われ、「ノンバイナリー」を自認するスイス代表のNemo(24)が優勝した。会場周辺ではイスラエル参加に対する大規模な抗議活動も行われた。
もっと読む ユーロビジョン、「ノンバイナリー」自認のスイス代表優勝 イスラエル参加に抗議も
おすすめの記事
スイス北東部でオーロラ観測
このコンテンツが公開されたのは、
スイス北東部のゼンティス山頂で6日未明、オーロラが観測された。
もっと読む スイス北東部でオーロラ観測
おすすめの記事
ビクトリノックス、刃のないアーミーナイフを開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスアーミーナイフの製造で知られるビクトリノックス社は、世界で広まるナイフ規制強化の波に対応するため、刃のないモデルの開発に取り組んでいる。カール・エルズナー最高経営責任者(CEO)がスイス紙のインタビューで明かした。
もっと読む ビクトリノックス、刃のないアーミーナイフを開発
おすすめの記事
スイス飛行機事故、24%増 紛争地上空ではGPS妨害も
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦運輸省民間航空局(BAZL/OFAC)が3日発表した2023年の航空安全報告書によると、民間・小型航空機の事故件数は9995件と、前年から24%増加した。
もっと読む スイス飛行機事故、24%増 紛争地上空ではGPS妨害も
おすすめの記事
「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦裁判所(最高裁)は先月26日、チューリヒ地方裁判所の判事の1人に対し、気候活動家に関する裁判への関与を禁じる判決を下した。この判事が過去の裁判で活動家への団結心を見せたとして、考え方に偏りがあると結論付けた。
もっと読む 「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
おすすめの記事
スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦統計局は25日、2023年の名目賃金は1.7%上昇したと発表した。インフレ(年平均2.1%)に相殺され、実質賃金は0.4%低下した。
もっと読む スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
続きを読む
おすすめの記事
存在感薄れるスイス・チューリヒの金融業界
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの金融業はチューリヒ州に集中している。スイスで金融関係の仕事に就く人の41%を抱え、金融業の生産高の45%を創出する。だが2007~08年に起きた金融危機は、その優位性を奪い去った。チューリヒ州経済労働局は18日発表した調査報告書にこう記した。
もっと読む 存在感薄れるスイス・チューリヒの金融業界
おすすめの記事
減少続くスイスの銀行数 17年は9行が撤退
このコンテンツが公開されたのは、
スイスでは2017年、外国銀行の支店を含め9行が国内から姿を消した。20年前には400行以上を誇っていたが、今や残るのは253行だ。
もっと読む 減少続くスイスの銀行数 17年は9行が撤退
おすすめの記事
ウェルスマネジメント、英米が王者スイスを追い上げ
このコンテンツが公開されたのは、
富裕層の資産を管理・運用するウェルスマネジメントビジネスにおいて、スイスは世界の中心にあり各国からマネーが集まる。だが最新の調査によると、他国の金融センターの追い上げは激しく、トップの地位はぐらつき始めている。
もっと読む ウェルスマネジメント、英米が王者スイスを追い上げ
おすすめの記事
スイスの銀行秘密、依然として世界一
このコンテンツが公開されたのは、
英国の非政府組織(NGO)「タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)」は30日、スイスが世界で最も秘密の守られる金融センターであるとの報告書を発表した。
もっと読む スイスの銀行秘密、依然として世界一
おすすめの記事
マイナス金利政策への苛立ちは頂点に
このコンテンツが公開されたのは、
マイナス金利政策は金融業界にとって悩みの種だ。それが長引くほど、銀行家からの非難の声は大きくなる。スイスのプライベートバンキングやアセットマネジメントのロビー団体は中央銀行の総裁と財務相を招待し不満をぶつけた。
2015年1月のマイナス金利政策の導入以降、スイス国立銀行(中央銀行)は現金を金庫に眠らせる国内銀行に30億フラン(約3400億円)以上を課してきた。
超法規的な政策金利はこの数年、伝統的な投資に対し大きな損害を与えてきた。銀行や保険会社、資産管理会社や年金基金などが保有する国債がその代表だ。
もっと読む マイナス金利政策への苛立ちは頂点に
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。