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ルツェルン・フェスティバル、東日本の被災地支援に新プロジェクト


鹿島田芙美(かしまだ ふみ), ルツェルンにて


今回発表された移動式コンサートホール「ARK NOVA」のスケッチ ()

今回発表された移動式コンサートホール「ARK NOVA」のスケッチ

ルツェルン市の複合コンサートホール「ルツェルン・カルチャー・コングレスセンター(KKL)」で8月9日、東日本大震災の被災地に向けた音楽プロジェクト「ARK NOVA – A Tribute to Higashi Nihon~東日本への贈り物~」の概要が発表された。

このプロジェクトには国際的にもその名を知られる日本人建築家磯崎新(いそざき あらた)氏が参加している。

 同氏が設計した移動式コンサートホール「アークノヴァ(ARK NOVA)」が2012年春から日本の被災地を回り、音楽と共に希望を届ける。

 プロジェクトを主催するのは世界的に有名な音楽祭「ルツェルン・フェスティバル(LUCERNE FESTIVAL)」。今回の発表は今月10日から始まる音楽祭に先立って行われたもので、同プロジェクトには日本のアーティスト・マネージメント会社大手の「KAJIMOTO」が共同企画・提案をした。

膨らませるコンサートホール

 プロジェクトの目的は、移動式のコンサートホールと共に被災地を巡り、音楽や芸術作品で人々に希望と自信をもたらすこと。「芸術の力で被災地の方々の役に立てたら」と、磯崎氏は苦難な状況にある人々に救いを差し伸べるノアの箱舟をイメージして設計した。

 設置・撤去が比較的簡単でなければならないということを前提に、コンサートホールは伸縮性があり風船のように膨らませられる構造にした。膨らませて建物を設置するという技術はすでにテニス会場などで用いられているという。

 大きさは長さ72メートル、幅40メートル、縦23メートル。500席から700席の収容数を計画している。費用は400万から500万ユーロ(約4億4000万円から5億5000万円)が見積もられており、寄付金で賄われる予定だ。

 デザインはインド系イギリス人彫刻家のアニッシュ・カプーア氏が担当。カプーア氏の1991年の作品「リヴァイアサン(Leviathan)」は空気で膨らむ巨大なモニュメントで、それが今回のホールのモデルとなった。同氏は現在、2012年開催予定のロンドンオリンピックでシンボルとなる彫刻を制作中だ。

 ホールの音響デザインは永田音響設計の豊田泰久(とよた やすひさ)氏が担当し、舞台コンサルタントにはイギリスに本社を置くシアター・プロジェクト(Theater Projects)のデヴィッド・ステープルズ取締役会長が携わる。

 コンサートをできるだけ無料で開催できるようにするため、被災地での公演はスポンサーや寄付者による支援金で運営する予定。ルツェルン・フェスティバルは主に公演のプログラム作りに携わる。

スイスからも被災地に希望を

 今回のプロジェクトを企画したルツェルン・フェスティバルは伝統あるスイスの音楽祭だ。毎夏の催しには世界各地から著名人が集い、毎年8万人以上の人が一流のクラシック音楽を聴きにルツェルンにやってくる。

 そのルツェルン・フェスティバルが移動式コンサートホールによる日本の被災地支援をなぜ始めようとしたのか。「3.11の出来事には我々も深く心を痛めた」と、ルツェルン・フェスティバルのミヒャエル・ヘフリガー芸術総監督は語る。

 「ルツェルン・フェスティバルを通して日本と密接な関係を築いていたため、自分たちが出来る事で被災地復興に貢献したいと強く思った。もちろんこの悲劇をなかったことには出来ないけれど、音楽や芸術を通して被災地の人々に新たな希望と自信を与えたい」

 そこでヘフリガー氏はこれまで仕事で関係のあったKAJIMOTOの梶本眞秀氏に連絡。共同主催の「アークノヴァ」プロジェクト構想に取り掛かった梶本氏は、世界的に有名な建築家の磯崎氏にコンサートホール建築を依頼したところ、磯崎氏も快く承諾してくれた。

 今回の企画は多くの政治家から賛同を受けている。昨日の発表会では近藤誠一文化庁長官のビデオメッセージが会場の巨大スクリーンで流され、近藤文化庁長官は被災地復興のためさまざまな支援が必要だと訴えた。また小松一郎在スイス日本国特命全権大使やルツェルン市長のウルス・シュトゥーダー氏なども出席し、「アークノヴァ」プロジェクトの支援を表明した。

 プロジェクトの発表と同時に、会場ではクラウディオ・アバド氏率いるルツェルン祝祭管弦楽団がマーラーの交響曲第10番からアダージョを演奏。多くの観客も訪れ、1800人以上を収容する大ホールはほぼ埋め尽くされた。これらの様子は東京国際フォーラムや同プロジェクトのホームページ上で生中継された。

 日本放送協会(NHK)は8月下旬、「アークノヴァ」プロジェクトのドキュメンタリー及びアバド氏やルツェルン祝祭管弦楽団の公演を扱ったテレビ番組を放送する予定だ。

ルツェルン・フェスティバル

1938年、ルツェルンの湖畔トリプシェン(Tribschen)にあるリヒャルト・ワーグナー邸宅前で開かれたガラコンサートが始まり。コンサートは年3回あり、春の音楽祭「Ostern」、夏の音楽祭「Sommer」、秋のピアノ音楽祭「Piano」の三つの音楽祭がある。世界中から著名な演奏家や指揮者を招き、質の高い公演を実現。伝統的なクラッシック音楽に限らず、現代音楽をプログラムに取り入れたり、若い音楽家を招待したりもしている。

ルツェルン・フェスティバルの組織として、クラウディオ・アバド氏指揮によるルツェルン祝祭管弦楽団やピエール・ブーレーズが監督を行い、若手演奏家を育てるルツェルン・フェスティバル・アカデミーがある。

磯崎新氏の略歴

1931年生まれ。世界で最も影響力のある現代建築家の1人。

東京大学数物系大学院建築学博士課程を修了後、現代建築の巨匠と知られる丹下健三氏の研究室で働き、1963年に磯崎新アトリエを設立。

1960年代には日本国内で多くのプロジェクトを手がけ、その後バルセロナ、オーランド、ベルリンなどさまざまな地域で活動の幅を広げる。

swissinfo.ch



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