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経済危機で医薬品メーカーもヘルスチェック

試練の時を迎える大手医薬品メーカー swissinfo.ch

大手医薬品メーカーのノバルティスは2008年、その利益を25%伸ばした。一方、ライバル社のロシュは、業績が横ばいにもかかわらずバイオテクノロジーのジェネンテック社買収に躍起となっている。しかし、大手医薬品メーカーの内情は、バランスシートだけでは見えてこない。

スイスの大手医薬品メーカーは、世界が経済危機に直面している中、今後の柔軟性を問われるだろうと経済アナリストたちは見ている。

価格への圧力

 ほかの業種と比較すると医薬品メーカーは、伝統的に不景気に大きく左右されない。ぜいたく品の消費は控えられても、薬は常に必要だと考えられてきたからだ。しかし、世界が金融・経済危機に直面している上、業界が抱える内なる問題が重なる現在、医薬品業界にも「薬」が必要なようだ。

 例えば「ロシュ ( Roche ) 」。2月4日、スイスフランの上昇とタミフルの売り上げが伸び悩んでいることから純利益が5%縮小という発表に、株価が下落した。人員削減こそ発表にはならなかったものの、他国のライバル会社は業績不振で何千人もの解雇を発表している。

 「ラーン・アンド・ボドマー ( Rahn and Bodmer) 銀行」の経済アナリスト、ビルギット・クルホフ氏は、医薬品業界が世界の経済危機の代償を支払うことになるのは時間の問題だとみる。
「各国政府が経済建て直しに資金を投入する中、 ( 医薬品 ) 価格にはより大きな圧力がかかることになるだろう。病院も予算の縮小を強いられ、医薬品会社と価格交渉し、ジェネリック薬を使うようになる」

 ロシュのセヴェラン・シュヴァン最高経営責任者 ( CEO ) は、医薬品業界はほかの業種とは違うと主張する。
「われわれ業界は金融危機にさほど大きく影響されていないことは確かだ。理由は、患者の生活の質を向上し延命する方法を提供しているからだ。とはいえ、金融市場の上下はどうにかならないか」
 と語る。

買収活動

 「ジュリウス・ベアー ( Julius Bär ) 銀行」のクリストフ・エグマン経済アナリストは、金融・経済危機の影響は医薬品業界のコア業務部分では見られないが、現在のベストセラーに取って代わる大ヒット商品がないことを指摘する。

「医薬品メーカー自身が問題を抱えている。多くの医薬品の特許期限が切れる時期が来ており、生産ラインの問題もある」
 エグマン氏は2008年の業績がより良かったノバルティスより、ロシュの方が底堅いという。

 特許の期限に直面しているのは、スイスの大手のみならず、国外の多くのライバル企業でも同じこと。このため、業界内の買収活動が活発になっていた。そんな時期に、このほどの金融危機である。ロシュは479億フラン ( 約3兆7600億円 ) をかけ先月、バイオテクノロジーの「ジェネンテック ( Genentech ) 社」に動いた。これまでも一部の部門で提携していた両者だが、ロシュは完全買収を狙っている。一方、ノバルティスもいくつかの買収のため貯金のキャッシュを崩している。

「医薬品メーカーは巨額のキャッシュフローを持つので、その投資を強いられる。買収のターゲットとなった企業の価値は金融危機で下落した」
 とクルホフ氏は指摘する。

swissinfo、マシュ・アレン バーゼルにて 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

<ノバルティス2008年業績> 売上高 481億6000万フラン ( 前年比+8.9 )、
営業利益 104億1000万フラン ( 同+32.2% )、純利益 94億8000万フラン ( 同+24.8% )、配当 ( 提案中 ) 2フラン ( 同+25% )
<ロシュ2008年業績> 売上高 456億1700万フラン ( 前年比-1% )、営業利益 139億2400万フラン ( 同-4% )、純利益 108億4400万フラン ( 同-5% )、配当 ( 提案中 ) 5フラン ( 同+9% )

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