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操業短縮も配当はOK スイス上院が可決

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操業短縮で助成金をもらっている企業が配当を行ってもいいのか、議会では大きな議論になった © Keystone / Ti-press / Alessandro Crinari

新型コロナウイルス危機の影響で操業短縮制度が認められた企業でも、配当は可能―。6日の連邦臨時議会で、国民議会(下院)は同案を否決したが、全州議会(上院)が同案を可決した。

スイスの多くの企業は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で財政難に陥り、操業短縮を余儀なくされている。スイスでは現在、国内労働人口の3分の1にあたる約190万人の労働者が同制度の適用を受けている。

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スイスの操業短縮制度とは

このコンテンツが公開されたのは、 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により大量の失業者が出るのを防ぐため、スイス企業から操業短縮制度の申請が殺到している。どのような仕組みなのだろうか?

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操業短縮制度の申請が認められれば、企業に対し国から助成金が出る。ただ助成を受けている立場の企業が配当を行っているのはおかしいー。これが臨時議会では激しい議論になった。操業短縮制度が認められた企業に対し、今年と来年の配当禁止を求める動議について、国民議会は僅差で可決(賛成93票、反対88票、棄権11票)。一方、全州議会は反対31票、賛成10票、棄権1票でこの案を否決した。

国民議会の過半数が、全員が協力しなければ危機から脱出できないという意見だった。左派・社会民主党(SP)のマテア・マイヤー議員は「この困難な時期に、利益は個人のもの、損失は社会のもの、とするのは不品行だ。個々の利益を守るために操業短縮制度が使われてはならない」と訴え、動議を支持した。

経済関係者からの強い反応

配当禁止を支持した国民議会の投票結果は経済界に衝撃を与えた。それが結果的に全州議会に「修正」を迫る圧力へとつながった。社会民主党のパウル・レヒシュタイナー全州議会議員は「昨日から今日までの間、雇用者団体からの反響はすごかった」と振り返る。

「この困難な時期に、利益は個人のもの、損失は社会のもの、とするのは不品行だ」 マテア・マイヤー、社会民主党議員

スイス雇用者連合(UPS)は、このような配当禁止は、企業運営に対する国の介入であり、憲法が保障する経済活動の自由を侵害する、と主張する。同連合のフランス語圏代表、マルコ・タデイ氏は「このアプローチは解雇につながるリスクをはらむ。その点で、雇用を守るという操業短縮制度の理念に反する」と批判する。「操業短縮は補助金ではなく、保険だ。企業はそのための保険料を支払った。贈り物ではない」

その一方で国民議会では、失業保険料の引き上げを避けるため、連邦政府が総額60億フランの財政拠出を行う案を承認した。マテア・マイヤー氏は「企業はこのお金の恩恵を受ける。配当を放棄する十分な理由になる」と話す。

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配当を行った企業はどこか

操業短縮制度の恩恵を享受しながら配当を行った大企業は、セメント製造LafargeHolcim外部リンク(ラファージュホルシム)、時計製造スウォッチ・グループ、自動車サプライヤーのゲオルグ・フィッシャーなどだ。3社とも、2019年の好調な業績に基づき、株主に通常通り配当を行うことを決めた。スウォッチ・グループは「社の財政手段を慎重に検討し」、配当は2018年と比べ3割削減したという。ラファージュホルシムは、危機時に固定費の​​削減に成功したため、操業短縮制度の恩恵にはほとんどあずからなかったと回答した。

「このアプローチは解雇につながるリスクをはらむ。その点で、雇用を守るという操業短縮制度の理念に反する」 マルコ・タデイ、UPS

スウォッチ・グループは、操業短縮制度を雇用主と被雇用者の両方が財源を負担する「保険」とみなす。「この20年間で、スウォッチ・グループはこの保険に数億フランを拠出し、 使ったことはほとんどない」。労働時間の短縮を余儀なくされた労働者には、賃金の8割が失業保険から支払われる。スウォッチ・グループは、残りの2割を会社が負担すると強調する。

全州議会の過半数は、経営者側と連邦政府の意見、つまりいかなる禁止にも反対するという立場をとった。ギー・パルムラン経済相は「企業に操業短縮と配当支払いのどちらかを選択させるのは逆効果になる」と述べた。「この危機の時期にさらなる不安定を生み出してしまう」

危機下の理想的なツール

しかし、両院はある1つの点では意見が一致する。操業短縮制度は非常に効果的で、実績のある手段ということだ。2009年の金融危機後、スイス連邦工科大学チューリヒ校の景気調査機関(KOF)が実施した調査では、労働時間の削減により短期間・長期間で解雇を回避できたことが分かった。

KOFのスイス労働市場部門の責任者ミヒャエル・シーゲンターラー氏は「前回の危機のとき、操業短縮制度が使われなかったら国内失業率はさらに0.5%上昇していただろう」と分析する。コロナ危機では、その20倍以上の企業が操業短縮制度に頼るが、「この制度がなければ失業率はすでに10%に達していたと推定される」

「操業短縮制度がなければ、失業率はすでに10%に達していたと推定される」 ミヒャエル・シーゲンターラー、KOF

現在の状況は経済全体に影響を与えているため特別だ、とシーゲンターラー氏は指摘する。すべてのセクターが直接的な打撃を受けているといい「これは失業を抑制する操短に最適な制度だと思う。経済を凍結し、危機が終わった後に通常の軌道に戻せるようにすることを目指しているからだ」と話す。ただし、操業短縮制度は比較的短い期間を前提としているため、危機が短期間のものであればうまくいくという。

「一部のセクターでは、実際そうだろうが、輸送などに与える影響は恒久的なものになりえる。新型コロナウイルスへの恐怖で、多くの人が数か月、数年にわたって公共交通機関を避ける可能性があるからだ」。その結果、一部企業では大幅なリストラを行い、解雇につながることが考えられる。

しかし、パンデミックの進展は依然不透明で、予測を立てることは非常に困難だ。シーゲンターラー氏は「望むべくはV字回復型の不況モデルであること。そこでなら操業短縮制度が理想的な手段になる」と話した。

(翻訳・宇田薫)

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