開発援助への民間協力はどうあるべき?

インドネシアでカカオ栽培に従事する女性たち。スイスとの提携で実現したこのプログラムには、民間の大企業が出資している。写真は、より効率的な育苗方法を学ぶ実習風景 Scpp-swisscontact

スイスは国際協力に関する新戦略を策定し、開発協力に民間経済をより深く引き込もうとしている。その機能のしかたをひも解いてみよう。

このコンテンツは 2020/10/08 08:30

スイスは新戦略「国際協力2021~2024」を策定し、開発援助に民間経済をより深く引き込もうとしている。協調融資プロジェクトの割合は現在5%を占めているが、2024年までにこれを倍増させる意向だ。そのためには、より多くの資金を調達しなくてはならない。貧困を撲滅し、持続可能な未来を追求するために国連が2015年のサミットで採択した「2030アジェンダ」では、持続可能な開発に向けて17の目標を定めている。これによって、資金調達のニーズが高まった。

連邦外務省(EDA/DFAE)のゲオルグ・ファラゴ広報官は「肝心なのは雇用だ」と言う。「開発途上国の雇用状況を見ると、10口のうち9口が民間セクターで創出されている。定収入や仕事がなくては貧困から抜け出すのは無理。そのため、国際協力でも民間セクターがカギとなる」

連邦外務省開発協力局(DEZA/DDC)の新局長、パトリシア・ダンツィ氏によると、開発援助への民間経済の参画は、援助に依存したくない開発途上国自身の要望だ。ファラゴ広報官は次のように説明する。「民間セクターを取り込めば、支援が終了した後も、この方法を永続的に続けていくことができる」

資金調達モデルの仕組み

現在、政府の開発援助に民間セクターが参画する動きが世界中で進んでいる。各分野の専門家らは、どうすれば旧態依然としたパターンを抜け出して公平性を作り出せるかについて、早くから思案してきた。連邦工科大学チューリヒ校協力開発センター(NADEL)に籍を置くフリッツ・ブルッガー氏もその一人だ。

ブルッガー氏は「民間資金の調達は、次の3つのカテゴリーに大別できる」と言う。

  • 融資や資本参加などの直接投資
  • 保証や保険
  • 達成された成果を基にする「実績ベース」の支払い

外務省のファラゴ広報官によると、開発協力局が民間のパートナーと共同でプロジェクトを実行し、協調融資をするという典型的なモデルのほか、「ブレンド・ファイナンス」というアプローチも利用されている。ここでは、民間セクターの投資の促進を狙って、公的資金を戦略的に投入する。「ブレンド・ファイナンスの基本原理は、効果が見込まれるものの投資家を引き付ける力がない案件を支援することにある」(ファラゴ広報官)。

例その1:赤十字国際委員会

赤十字国際委員会(ICRC)も「ヒューマニタリアン・インパクト・ボンド」と称する官民連携(PPP)を実践しており、民間投資家の支援を得て、戦傷者のためのリハビリセンターを運営している。広報動画で、「私たちだけではできない。民間セクターや新しいパートナーの援助が必要だ」と訴える。

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具体的には、次のような仕組みだ。まずICRCが民間投資家向けに債券を発行し、集まったお金でインフラを整備する。5年後にインフラの便益を第三者に評価してもらい、その評価に応じて債券の返済資金を各国政府など「アウトカム・ファンダー」(実績に見合った支援を行う資金提供者)が出す。そのプロジェクトは投資家に利益をもたらすかもしれないし、損失をもたらすかもしれない。「アウトカム・ファンダー」はいわば、ただ寄付をしているようなものだ。スイス政府も「アウトカム・ファンダー」として1000万フラン(約14億円)を支払っている。

「このような発想は、私にとって革命に等しい」と感嘆するのは、元ICRC派遣員でジュネーブにある社会経済開発センター(CSEND)の共同創立者でもあるレイモンド・サナー教授だ。「民間投資家が病院建設への寄付ではなく融資に関心を示すというのは、今まで聞いたことがない。ICRCが公的資金をバックにある程度の投資利益率を企業に保証できるからこそ、民間投資家が冒険的な人道プロジェクトに参加するリスクを背負うことができる」

ポリオの予防接種を受けるパプアニューギニアの子供。ワクチンと予防接種のための世界同盟「GAVIアライアンス」は、世界銀行、世界保健機関(WHO)、国連児童基金(ユニセフ)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、支援国、開発途上国、民間企業、研究機関の官民連携 Keystone / Gavi/brendan Esposito

例その2:開発金融機関

国家が民間から資金を集める方法を示すもう一つの例は、国際開発金融機関(MDB)だ。これは国家が創立した組合銀行で、「普通」の銀行がリスクを恐れて拒みそうな開発途上国への融資を行う。

参画国には裕福な国々が多いため、MDBの格付けも高くなる。このため途上国融資のリファイナンス(借入金の組み換えや借り換え)資金を集めやすい。これも公的資金をテコに多くの民間資金を国際資本市場で調達する仕組みの一つというわけだ。

5つのステップで見る国際開発金融機関(MDB)モデル 01)個人が企業の株を購入するのと同じように、有志の国家グループがMDBの資本の一部を購入する。 02)開発プロジェクト用の資金額を増やす目的で、MDBが国際資本市場で起債する。大手MDBは富裕国を持ち分所有者とするため、最高の格付け(「AAA」)を取得でき、資本市場でも非常に低利率で起債できる。 03)MDBが開発途上国向けのプロジェクトに対して貸し付けを行う。その際、起債に必要な費用に少額のマージンを上乗せするが、その金額は開発途上国が直接民間から融資を受ける場合より低い。 04)開発途上国の受供者が貸付金を返済する。MDBは貸し付け(と他の投資)によって得た収入で、プロジェクト準備や開発研究を含むすべての事務経費をまかなう。 05)持ち分所有者がMDBに対して支払うものはほかにはなく、MDBがすべて自己負担する。持続可能な開発目標などを達成するために追加の貸し付けを行う余裕がMDBにあると持ち分所有者が判断した場合、同機関が資本市場で再び起債できるよう、持ち分所有者はMDBの自己資本額の増額を決定することができる(ステップ2)。 ETHZ, NADEL

スイスは複数のMDBに名を連ね、かなり大きな影響力を持っている。

より良い手段は「ピープル・ファースト」

しかしながら、開発協力への民間参画は、現在も賛否両論に分かれる。支援国の中にはあまり良いリターンを得られなかった国もある。「当初PPPに求められたのは『バリュー・フォー・マネー』、つまり投資家は出資額に見合うリターンを得ようとしていた」とレイモンド・サナー教授は説明する。「これが汚職やちゃんとした目標のないインフラプロジェクトにつながった」

そのため、現在は官民連携のあり方を再考する動きが広がっている。例えば、国連欧州経済委員会(UNECE)は「ピープル・ファースト官民連携(PfPPP)」というコンセプトを創案した。PPPは「2030アジェンダ」の目標に組み込まれるべきもの、つまり社会や環境保護に役立つ投資でもあるべき、という発想だ。

自身もUNECE事務局のメンバーであるサナー教授は次のように話す。「今は『バリュー・フォー・ソサイエティ』『バリュー・フォー・ピープル』、つまり社会や人々に見合う価値も追及するべきだ。PfPPPインフラプロジェクトが社会や環境にもメリットをもたらすべきであるのは明白だ」

ときに秘密裏に行われる評価

では、「ピープル・ファースト」がきちんと実行されるためにはどうすればよいのか。

「査定を行うこと」。これがサナー教授の答えだ。

スイスは経済協力開発機構(OECD)の国際基準に則り、自国が融資しているプロジェクトを中立的な立場の専門家に査定させている。そして、政府はプログラムの効果について連邦議会に報告する。連邦外務省のファラゴ広報官によると、開発協力局はこれに加え、2012年から22年までの間に民間協力に関する制度的な大規模な査定の実施を計画している。

「とは言え、そのような査定はこれまでほとんど見たことがない」とサナー教授は言う。査定結果を公開する義務はなく、「散見される」程度。「体系的な査定なくして、スイスが融資している大規模プロジェクトで得た教訓を明らかにすることはできない」と批判的だ。

成功した点は何か?

改善できる点は何か?

「このような問いへの答えは得られないままだ」(サナー氏)

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