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人権監視委員会がジュネーブ州警察を非難

2003年6月にエヴィアンで開催されたG8サミットの期間中にデモ参加者を拘束するジュネーブ州警察官

欧州会議は、スイス警察、特にジュネーブ州の警察官が拘束をする際に不当な暴力を使用したという容疑について批判している。

ヨーロッパ拷問防止委員会 ( CPT ) は、拘束時に殴る、蹴るなどの暴力や警察犬を使用したり、ドラッグを吐き出させるために「絞め技」を用いたジュネーブ州の警察官が相当数いたと強く非難した。

不当な取扱い

 2007年9月24日から10月5日の間にCPTはスイスを訪問し、公式報告を作成した。欧州会議 ( CE ) はその報告に基づき11月13日に、アールガウ 、ベルン、ソロトゥルン、ヴァレー/ヴァリス、チューリヒの各州警察官が「意図的に虐待行為を行ったとする容疑は非常にまれ」だが、ジュネーブ州では「非常に憂慮すべき」状況が続いていると発表した。

 ジュネーブ州の警察官による虐待行為の容疑内容は、「非連続的な平手打ち」から「蹴り、殴打、警棒による殴打、催涙ガスの乱用」とさまざまだ。そしてすでに拘束されたり手錠をかけられている人に対しても暴力が使用されたケースが多数あることが指摘されている。

 さらに報告書は、9カ月の間にジュネーブ州の警察官がドラッグを吐き出させようと「絞め技」を使用したケースが十数件あったと批判している。また、すでに拘束または地面に組み伏せられているにもかかわらず警察犬を使用した例や、窒息しそうになるまで容疑者を水攻めにしたと訴えたケースが2件あり、CPTはこれらを強く非難している。

 公式の医療報告もこれらの容疑を裏付けていることをうかがわせる。2007年の1月から9月までの間に、ジュネーブ州が取調べのために拘置場として使用するシャン・ドロン刑務所に収容された136人には入所時に青アザ、切り傷などの創傷があったことが記録されている。
 「われわれはこのような発見に驚くと同時に憂慮しています。以前はこうした問題はスイスでは1回もありませんでした」
 とCPTの人権保護チーム長のベルギー人マーク・ネーヴ氏は述べた。

緊急処置

 スイス当局は、CPTの報告は「拷問、非人間的または尊厳を傷つけるような虐待行為の防止に非常に重要」であり、CPTが訪問後に作成した推奨案を実施するための方策をすでに講じたと公式回答を行った。またジュネーブ州警察に対し、虐待行為を行わないようCPTの訪問以前に2回通告したとも公表している。

 スイス政府は書面で、CPTの人権保護専門家が面接した拘置者の大半が、拘束、取調べ、拘置の際の警察の取り扱いは適当だったと発言していることを強調した。しかしアムネスティー・スイスの弁護士ドニーズ・グラフ氏は、拘束時の虐待行為は現在も続いており、ジュネーブ州警察の対処は不十分だと述べる。

軽い扱い

 「われわれは今年、警察官による虐待について何件か訴えています。2008年4月のケースは非常に深刻かつ致命的でした。われわれはジュネーブ州警察からの応答をまだ待っています」
とグラフ氏は語る。

 グラフ氏は、ジュネーブ州が警察官による虐待容疑を非常に軽視しているため、全ての関係者に対する政治的介入や別な方策が必要だと述べる。また、ジュネーブ州の警察官に対して人権に関する教育を強化すべきで、虐待行為を許容しないアプローチを導入すべきであると主張する。

 「ジュネーブ州では懲罰手続きや抗告プロセスに問題があります。警察官による虐待行為についての調査は警察内部では正しく機能していません。われわれは第三者による独立した組織が必要と考えています」

 2007年に起きた警察官による虐待行為の訴え30件のうち、処罰対象になったのは1件のみで、裁判沙汰になったケースは皆無と警察は発表している。
「警察官の登録システムをジュネーブ州に導入することも重要です。そうすればどの警察官が虐待行為を行ったかきちんと認識できます」
とグラフ氏は付け加えた。

 この記事の執筆中、ジュネーブ州警察からはこれらの批判に対してコメントはできないという返事が返ってきた。

拘留の状況

 刑務所の環境について、CPTは拘留や施設での矯正の命令を受けている人たちの拘留状況および施設の状態について特に注意を払っており、教育施設にいる青少年の拘留状況も調査した。それらの施設の中には、スイス一過密状態にある刑務所として悪名高いシャン・ドロン刑務所も入っている。

 刑務所訪問の結果、拷問や深刻な虐待の証拠が発見されたわけではない。しかし、狭すぎる上、換気が悪く、設備の整っていない房を改善するためにいくつかの案を提示した。今回の訪問調査の主要目的は、前回2003年の訪問の結果推奨された改善案の実施状況を査定することだった。

 またCPTは、スイス入国を拒否されたにもかかわらずスイスに滞在し逮捕された人たちは、「自由に生活する人たちと変わらない生活環境」が与えられるべきであると主張している。

swissinfo、サイモン・ブラッドレー 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

虐待、非人道的・尊厳を傷つける虐待・懲罰の防止に関する欧州条約の下では、ヨーロッパ拷問防止委員会 ( CPT ) の代表は刑務所などの収容施設へ制限を受けることなくアクセスできる。
またCPTの代表は、部外者立入禁止の建物の内部にも無制限に入ることができ、施設の職員を交えず被収容者に面会できる。
CPTは2007年に条約を批准した国々への「周期的な」訪問を実施した。スイス訪問はその内の1つ。そのほかの訪問国は、スペイン、オランダ、クロアチア、モルドバなど。
CPTは各国を訪問後に、結論と推奨案を記した機密報告書を該当国へ送る。
CPTは、1991年、1996年、2001年と2003年にもスイスを訪問している。

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