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WHOはコロナの教訓を生かせるか?

コロナ
新型コロナウイルスの起源はいまだはっきりしていない Copyright 2023 The Associated Press. All Rights Reserved

世界保健機関(WHO)は21~23日、ジュネーブで年次総会を開く。WHOは新型コロナウイルスの起源の調査を続ける一方で、新たなパンデミックの予防・備えを目的とした新条約の政府間交渉を実現させた。しかし、合意までのハードルは高い。

現代史上最悪のパンデミック、新型コロナウイルス感染症の発生から3年以上が経過した。だがその起源は依然、明らかになっていない。最初に流行が確認されたのは、動物が売買されていた中国・武漢の市場だが、中国は情報開示が不透明だと批判されている。WHOの調査チームはコロナ発生から1年間、立ち入りを許可されなかった。ウイルスはコウモリから武漢の市場で売られていた動物を中間宿主として経由し、ヒトに感染したとの見方が科学者らの間で優勢だが、米国の一部情報筋は武漢の研究所から流出したとの見解を再度示した。

ジュネーブにある世界保健センター(Global Health Centre)外部リンクの共同研究所長スーリー・ムーン氏は「中国政府がなぜもっと早く、オープンに広く情報を共有しなかったのか、厳しい目が向けられていると思う」と話す。「これがWHOの評判を落とすとは思わないが、それよりもなぜこの政府がもっと早く、またはオープンに情報を公開しなかったのか」

同氏はこの一連の流れの中で、最近の奇妙な出来事に特に注目する。今年3月、国際的な研究者チームが、GISAID外部リンクと呼ばれる遺伝子データベース上に新たな中国のデータが一時的に登録されているのを発見、ダウンロード外部リンクしたと発表した。このデータは、食用として武漢の市場で生きたまま売られていた野生のタヌキがウイルスを媒介した可能性が高いことを示すものだと言う。このデータはこの直後にGISAIDから削除されたが、中国人研究者の独自の報告書外部リンクに使われ、これは後に英科学誌ネイチャーに発表された。

感染症専門家で新たな中国のデータに基づいた報告書の共同執筆者でもある豪シドニー大学のエドワード・ホームズ教授は、公表の遅れについて「怒りと失望」が入り混じった気持ちだと話す。「このデータは2020年初めには作成されていたのに、公表まで3年かかった。これは決して容認できない」とswissinfo.chに語った。

起源解明には遅すぎる?

このいわゆるタヌキデータは「起源が動物由来であることを裏付ける入手可能な証拠のうちおそらく最も強固なもの」だとホームズ氏は指摘する。「重要なのは、このデータが2019年、華南海鮮卸売市場に複数の野生動物がいたことを示している点だ。これは当初言われていたことと正反対だ」と同氏は話す。「さらに市場にいた野生動物のうちの数種は、新型コロナウイルスに感染しやすいことがわかっている。データは市場にいた動物がウイルスに感染していたことを証明するものではないが、市場に動物由来の起源がいたのなら、まさに予想通りの結果だったことを示している」

しかし、新型コロナウイルスの起源解明は果たして可能なのか。それとも手遅れなのだろうか?ホームズ氏は「今となっては、特定の動物による起源を見つけるには時期を逸したと言えるだろう」と話す。「ウイルスはおそらく中間宿主となる動物集団間で急速に広がったのだろうが、今その集団内では存在しないだろう。なくなったのだ。これを追跡する唯一の方法はウイルスそのものよりも、過去の感染を証明するウイルス抗体をこの動物集団の中から見つけることだろう。しかしこれらの動物がどのような種なのか、どこから来たのか、あるいは2019年末に生きていた動物が今日も生きているのか、はっきりとは分からない」

エイズウイルス(HIV)など、他にも起源がはっきりしない病気があるとムーン氏は指摘する。コロナのケースは正真正銘、科学的な課題があるとする一方で、存在する全ての情報が共有されているのかもまた不明だという。同氏は「綿棒1本、情報のかけら1つまで共有されていたら、発生の起源を突き止め、その強力な証拠をつかむことができるのか?答えはノーかもれない」と指摘し「これが問題を難しくしていると思う。そしてもちろん、非常に政治的だ」と話す。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は3月、コロナウイルス起源に関して「絶えず政治化」していることを非難し、改めて科学者に任せるよう呼びかけた。同氏はジュネーブで報道陣に対し、WHOは調査をやめるつもりはなく、WHOの科学諮問団(SAGO)は昨年、やるべきことを数点勧告したと話した。

SAGOはスイスを含む各国の専門家でつくるグループだ。3月18日の声明で、タヌキデータに関し「これがウイルスの中間宿主や起源について決定的な証拠になるわけではないが、このデータはヒトへの感染源となりうる感染リスクの高い動物が市場にいたということの、さらなる証拠となる」と述べた。

パンデミック条約の肝は情報共有とワクチンの公平な分配

WHO加盟国は2021年12月、新型コロナウイルス感染症の教訓を生かす取り組みの一環として、将来起こりうる健康危機から世界を守ることを目指すパンデミック条約について協議を始めることを全会一致で合意した外部リンク。草案を作るため政府間交渉機関(INB)が設立され、今年4月に5回目の会合を開いた。同機関は「ゼロドラフト外部リンク」と呼ばれるたたき台を作ることから始め、2024年5月までに交渉を終えることを目指す。

ムーン氏はswissinfo.chに対し「最も意見が分かれ、微妙かつ重要な問題の1つは、各国政府がデータの共有を約束する代わりにワクチンや薬、診断法の共有を約束する、という取引をまとめることができるかという点だ」と話す。「今のところ取引は成立しておらず、政府はまだそれに同意していない」

データ共有に関するプラットフォームやルールについても、各国政府の合意が必要だと同氏は言う。新型コロナウイルス感染症に関し、最も多く科学的データを保有するGISAIDは民間のプラットフォームだ。このため「脆弱性が高い」と同氏は考える。

各国政府はまた、国際塩基配列データベース(INSDC)外部リンクのような公的プラットフォームについて、科学者の知的財産権保護を強化しより魅力的なものにする必要がある。

現在、パンデミックの定義、知的財産権のルール、資金調達、コンプライアンス調整といった難題が山積みだとムーン氏は話す。だが、ワクチンや医薬品アクセスの代わりにデータを共有するという点が問題の核心だという。これに関する議論では、パンデミック中と同様、南北の分断が見られる。だが同氏は、双方に関係がある中国、インド、ブラジル、南アフリカのような新興中所得国が、妥協点を探る「橋渡し」役を務めてほしいと期待する。

議論に参加できない市民団体

一方、市民団体はこの議論に十分関与できていないと訴える。STOPAIDS外部リンクパンデミック条約における人権のための市民社会連合(CSA)外部リンクのコートニー・ハウ氏は「本当に懸念している。起草委員会の段階に入ったためさらに難しくなった」と話す。

同氏によると、市民社会連合は当初から参画強化を求めてロビー活動を行ってきた。聴聞会やオンラインで参加できる会議の実現など、一定の成果を上げたという。しかし、参加を認められたのは、WHOの公式認可団体(とても長いプロセスを経なければならない)か、加盟国の推薦団体だけだった。さらに2月23日以降は「起草委員会に移り、それが加盟国だけなのでとても心配している」と言う。

「新型コロナウイルス感染症や過去の健康危機への反応を見ると、必ずしもより人権に基づいた反応があるわけではなく、医学的対策へのアクセスには不平等さが見られる」

説明責任がカギ

だが、同氏は市民社会や草の根の組織が、起草段階でも、その後の監視段階でも関与を深める必要があると指摘する。法的拘束力のある条文ができたとしても、実行には加盟国の政治的意志が必要となるという。

「法令の遵守や実施と呼ばれるものはとても重要になる。有効な説明責任を求める仕組みのようなものがなければ、これらの約束は全て机上の空論に終わってしまうからだ」とムーン氏も同意する。

データ共有と健康サービスへの資金支出に関し、拘束力を有する約束事がある一方で、政府がそれに従わなかったらどうなるのか?「例えば英国政府がこの条約に署名したものの、国民保健サービス(NHS)に投資するお金はないと言ったら、誰かが英国に方針変更を強制できるのか?答えはノーだ。しかし、モニタリングや政府がレビューを行う定期的な会議、名指しで非難することは有効だ。それを示す証拠はある。その国がやると言ったことを実行するよう、時間をかけて働きかけるのに使える小さなツールは多い」

英語からの翻訳:谷川絵理花

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