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第70回ロカルノ国際映画祭 ロカルノ映画祭2017 現実と映画が一続きにあるような近浦啓監督の『SIGNATURE』世界初上映

ルー・ユーライ(呂玉來)

近浦啓監督の『SIGNATURE』で、中国人技能実習生役を演じるルー・ユーライ(呂玉來)
東京で採用面接を受ける撮影風景

(©creatps)

今年の第70回ロカルノ映画祭では、短編コンペティション部門(Pardi di domani)に、近浦啓監督の映画『SIGNATURE』がノミネートされた。この13分の短編映画は、日本の外国人技能実習制度の裏物語。無邪気なひとりの若い中国人が、技能実習生として日本で働くことを、希望を抱いて東京を訪れ、採用面接を受けるストーリーだ。主役は、中国人俳優のルー・ユーライ(呂玉來)が演じる。今の社会がどう動いているのか、そこに人々がどんな風に生きているのかを描き「現実と映画が一続きにあるような映画を作りたい」という近浦監督に、スイス・ロカルノでワールドプレミアが上映された初日、インタビューした。

スイスインフォ:この外国人技能実習生の脚本を書こうと思った着想のきっかけは何ですか?

近浦啓: 2年前に、ベトナム人の技能実習生のニュースを見ました。発展途上国の支援のために、日本が若者を呼んでビザを発行し、働きながら教育も受け、帰国をした際には祖国のために身に着けたスキルを役立てるという3年間の外国人技能実習制度がありますが、2015年に、あるベトナムの実習生らが、農家の人が飼っていたヤギを盗んで食べたという事件が起きました。そのニュースを知り、スーパーに行って200円出せばお肉が買えるのにもかかわらず、ヤギを殺して解体してでも食べるということに引っかかりを感じました。

それで調べたところ、すべての実習生がそうではないのですが、元々は支援や教育という名目で始まったのに、今では物凄く低い賃金で、教育なんて全くなく、日本人がやりたくないような仕事に就いているという現状を知りました。彼らは祖国から日本へ行くために、ブローカーを通じて150万から200万円借金してでも、祖国で月2万円の稼ぎの10倍の日本で、その借金を1年で返し、残りの2年でお金を貯めて帰れると見込んで日本に来ますが、現実は違います。それに絶望して、実習生が会社から失踪する人が増えています。2015年には、5800人の技能実習生が失踪しました。その中で、最も多いのが中国人の約3800人で、その次に多いのがベトナム人だという話を聞きました。僕でももしかしたら失踪して、不法労働の現場に行くのかなぁ、と思いました。日本人として、僕としては心苦しい思いになりました。

それで、このニュースを題材にして長編映画を作ろうと思い、まず今回の短編映画に至りました。この短編映画は、長編映画の前日譚で、僕にとっては長編映画を作るためのある種の習作に当たります。長編映画『CHENG LIANG(チェン・リャン)』では、異国の東京に来て、絶望的になる主人公の中国人技能実習生が、必死に自分のアイデンティティーも放り出してでも何かをつかもうとします。長編は、この後、ロカルノから東京へ帰ったらすぐに撮影に取り掛かる予定です。

「人間が生きる様子を描き、観ている人々がそこから何かを考えるきっかけを提示したい」と語る近浦啓監督。スイス・ロカルノにて

(swissinfo.ch)

スイスインフォ:この作品を通して、どのようなことを伝えたいですか?

近浦:僕は、自分の映画で何らかのメッセージを発したいとは思っていません。メッセージであれば、言葉にストレートに出した方が効率が良いと思うからです。映画では、人間が生きる様子を描き、観ている人々がそこから何かを考えるきっかけを提示したいと思っています。この映画では、異国の地で、かつ、On The Edgeでギリギリのところでサバイブしようとする一人の若者のある種の哀しさを描きたいと思いました。ただ、それは中国人とか日本人とか関係なく、全ての人に当てはまるユニバーサルなものだと考えています。

僕が映画の題材として興味があるのは、社会の淵(ふち)でもがきながらも必死に生きている人間です。うまくいくように見えるときもあるけれど、大抵が無駄に終わる。決してうまくは生きれないけど、それでも何かいつも、予兆や光を見出してたくましく生きていこうとする人々です。それは、特別な人ではなく、たぶんほとんどすべての人に当てはまることだと思います。僕もその1人だと思いますので、この物語は中国人の若者の話ですが、僕自身の物語でもあります。また、観ている方にも同じように思ってもらえたらとても嬉しいです。

スイスインフォ:「僕自身の物語でもある」ということに関してですが、監督ご自身のことを教えていただけますか?

近浦:僕は幼少期をドイツで過ごし、その後日本でも、九州、関西、そして関東へと移転する機会が多くありました。その度に、それぞれのコミュニティーへ「外から来た人間」として馴染む必要がありました。また、僕の性格上、すぐに馴染めるかといえば、そういうわけでもありませんでした。例えると、パーティーに呼ばれて行ったものの、真ん中の盛り上がっているところにはなかなか入ることができず、壁側の椅子に腰掛けて真ん中を見つめていることが多いタイプです。この映画の主人公のキャラクターを造形する時に、僕のこうした経験が反映されていると言えるかもしれません。

スイスインフォ:映画を撮影する際、どんなことに一番配慮しましたか?

近浦:舞台となる渋谷は、現在の渋谷のストリートの空気感をそのまま切り取りたいと思いました。海外の人にとって一番有名な14年前のソフィア・コッポラ監督の作品『ロスト・イン・トランスレーション』の渋谷と今は違います。通常、劇映画ですと被写界深度(ピントが合っているように見える範囲)を浅くして背景をぼかすことが多いですが、この映画ではできるだけ深くして、中東、アジア、ヨーロッパから来ている人、いろいろな人が映るようにしました。

渋谷を歩く撮影シーン。中央は主役を演じるルー・ユーライ
『SIGNATURE』より

(©creatps)

また、渋谷は東京オリンピック開催に向けてだいぶ変わるのですが、オープニングの歩道橋を歩いている時に見えた工事現場は、2020年に向けて完全に変わります。今だからこの景色なので、それを映像の中に記録しておきたいという思いもありました。

個人的に僕がそういう映画を観たいなと思うんです。現実と映画が一続きにあるようなもので、これは2010年の映画と言われたときに2010年を感じられるような。

スイスインフォ:『SIGNATURE』を撮るのに大変だったことは?

渋谷でルー・ユーライを動かすことが、一番大変でした。ああいう場所でゲリラ撮影をすると、ややもすればドキュメンタリーのようになりますが、ドキュメンタリーを作りたいわけではなかったので、あくまでも劇映画としての構図、流れを作ることにこだわり、検討を重ねました。そして、中国人のことをすべて分かっているわけではないので、中国人の若者ならどうするのかというのが、僕の頭の中で創造しているものと違う動きをする可能性もありまして、その文化とか人々をつぶさに見て勉強して作る必要がありました。

実際、一番撮影時に大変だったのは、冒頭、彼が静止しているところから歩き出し、渋谷の街並みが見えて、奥に銀座線の黄色い電車が入ってくるシーンです。電車のタイミングを合わせるのがものすごく大変でした。

スイスインフォ:なぜ主役にルー・ユーライを選んだのですか?

近浦:役者として、非常に重要な「顔」が良かったからです。これは「イケメン」とかそういうことではなく、言葉にしづらいものです。彼が醸し出すイノセンスは他に代えがたいものがあります。2016年5月に、主人公のオーディションを北京で行いました。そこでルー・ユーライと会った時に、一目で彼だと決めました。

外部リンクへ移動

ロカルノ国際映画祭で初上映された「Signature」予告編動画

「Signature」予告編

また、プライベートでもこの一年で何度も会いました。とても思いやりがあり、そして知的な方です。実は本人も役者だけでなく映画監督をやっています。とても繊細な映画を作る監督でもあります。

スイスインフォ:他に今後どのような作品を作りたいですか?

近浦:今、この世界で起きていることを、個人的な人生の一端の物語にしたいです。あくまでイメージですが、たとえば、シリアで空爆、というニュースがあるとすれば、そのニュースからだけでは見えてこない物語を映画にしたいと思っています。その空爆の日に初めてのキスをする男の子と女の子の話というような。

それと、可能な限り、越境して映画を撮っていきたいと思っています。今の時代はまさにそのような時代だと思っているからです。次は、フランスで、日本人女性とフランス人女性のある事故をきっかけとした関係の映画を作ろうと考えています。

今日は、僕が10代のころからずっと注目してきたロカルノ映画祭の第70回という節目の一部になれて嬉しいです。

近浦啓

映画監督。
2006年、東京にて制作会社クレイテプスを設立。様々なブランドのデジタルコミュニケーションの企画・設計、制作に携わる。
2013年、短編映画『Empty House』で、初の監督作品を発表。
二作目の短編映画『なごり柿』は、世界最高峰の短編映画祭であるフランスのクレルモン・フェラン国際短編映画祭のコンペティション部門にノミネートされる。
最新作である『Signature他のサイトへ』は、ロカルノ国際映画祭、トロント国際映画祭の短編映画部門に入選。

近浦啓ホームページ他のサイトへ

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