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さあ、春が来た!自然も人も大忙し

若草を食む牛たち、カツィス(Cazis)にて swissinfo.ch

永遠に続くかと思われた冬も、日照時間が延びるとともに少しずつ終わりを告げる。谷に吹く南からの風フェーン(Föhn)が何ヶ月も大地を覆っていた雪を根こそぎ取り去っていくと、私たちの村にも春がやってくる。

 その前に、いい報せを持ってくるのは、たいていキツツキだ。森の奥から「トゥルル、トゥルル」と、彼らが忙しく働く音が聞こえてくると、春も近いなあと思う。森を歩けば、溶けた雪の間から、力強い生命力で新芽が姿を現している。私は東京育ちで、森の四季などには疎かった。ここに引っ越してきて、週末の度に散歩をする事で自然の移り変わりを肌で感じるようになった。

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 雪が消えると同時に、近くを流れるアルブラ川(Albula)、ライン河(Rhein)は水量を増し、色も変わる。春らしい川の色は灰緑色。これは氷河が雪とともに溶け出して、山のミネラルが川の水に混じる時に出る色だそう。このミネラルをたっぷり含んだ水が大地を潤して、冬の間に眠っていたヨーロッパを緑豊かな美しい大陸に変えていくのだ。

 牧畜の盛んなスイスの田舎らしい春の風物詩は、ちょっと暖かくなったと思えば必ずやってくるハエと、農作業を始める人たちが散布する「有機肥料」(つまり牛の糞)の臭い。空高く放物線を描いて撒かれる堆肥には、はじめは仰天したけれど、地域の野菜や穀物には命に関わるような危険な化学肥料を使っていない、その安心料と思う事にしている。

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 忙しく働き出すのは牧農家の人たちだけではない。スイスの家庭では、春は大掃除の季節と決まっているらしい。例えば、窓ふき。冬の間には、どんなに汚れていても、怠惰な私に恰好のいいわけがある。「だって、窓を拭こうとすると、一瞬で凍ってしまうんだもの…」

 春になり、窓の外の水滴が凍らないようになるのを待っていた勤勉なスイスの主婦たちは一斉に窓をピカピカに磨き出す。家中も徹底的に掃除をして、復活祭を迎える。だから、スーパーマーケットでは、この時期には必ず清掃用品のセールがある。これが、私のような横着者にも「そろそろやらないとまずいかしら」と重い腰を上げる、いいきっかけを与えてくれる。

 雪に覆われて使えなかったバルコニーの家具の手入れをしたり、新芽を出す直前の庭木の手入れをしたりするのもこの時期だ。せっせと働くスイス人を見ていると、つくづく勤勉な国民性だと感心してしまう。

 

 そうやって忙しく過ごすスイス人の横で、自然は素晴らしい色の響宴を見せてくれる。レンギョウ、スイセン、梨、桜、タンポポ、林檎、リラ、ニワトコ。牧草地が若緑に萌えたち、牛たちが外に連れ出されて優雅に草を食む、スイスの田舎生活で最も美しい季節がやってくる。

ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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