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「地球の限界」を守れ スイスで国民投票 

デモ活動をする人々
Keystone / Peter Schneider

スイスでは2月9日、「地球の限界」を越えない経済活動の是非をめぐり国民投票が実施される。今後10年以内にスイスの経済活動を自然の回復能力の限界に収めるよう義務付ける内容だ。反対派は、同案はスイスの繁栄を損なうと主張している。 

スイスは昨年、5月27日に「アース・オーバーシュート・デー」を迎えた。これは地球が1年間に生み出す生物資源を人類が使い果たしてしまう日を示したもので、国際環境団体NGO「グローバル・フットプリント・ネットワーク」が毎年発表している。スイス連邦政府も公認の指標だ。言い換えると、世界の人々がスイス人と同じ水準の暮らしをした場合、地球2.5個分の資源がなければ生き延びられなかったということになる。 

こうした状況を改善すべく、左派・緑の党(GPS/Les Verts)青年部は2023年2月、イニチアチブ(国民発議)「地球の限界を越えない責任ある経済のために(通称:環境責任イニシアチブ)外部リンク」を提起した。来月9日、国民投票にかけられる。 

いかなるスイス市民も、イニシアチブ(国民発議)を起こして憲法改正案を提案できる。それには、10万人の署名を18カ月以内に集める必要がある。その後、提案の是非が国民に問われる。イニシアチブが可決されるには、憲法の改正という重大な決定であるが故に、国民と州の過半数の賛成が必要だ。 

提案の内容は? 

環境責任イニシアチブが提案するのは、連邦憲法に「スイスの経済活動を、自然が持つ回復能力の範囲内に抑える」との条文を追加することだ。国民投票で可決されれば、自然の回復力ぎりぎり(限界)を超えて資源を消費したり、汚染物質を排出したりしてはならなくなる。 

地球の限界を越えずに経済活動を行うには、資源の消費によって引き起こされる環境負担を大幅に削減する必要がある。具体的には、国は1人当たりの二酸化炭素(CO₂)排出量を9割以上削減しなければならない(グリーンピース・スイス調査)。 

政府と各州には、この目標を達成するために10年の猶予が与えられる。イニシアチブ発起人委員会は具体策を提示していないが、社会的な不公正を引き起こすようなことは避けるよう政府当局に促している。 

「地球の限界」とは?

「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」は、地球環境が健全な状態を保てる限界の範囲を9つの要素で示したものだ。ストックホルム大ストックホルム・レジリエンスセンターのヨハン・ロックストローム博士らが2009年に提唱した。 

スイスの環境責任イニシアチブでは、この9つの要素のうち、気候変動、生物圏の健全さ(生物多様性・生態系のバランス損失)、淡水利用、土地利用変化(森林面積の残存率)、生物地球科学的循環(窒素やリンの流出)の5つに焦点を当てている。 

グリーンピースの最近の調査によると、スイスはすでに生物圏の健全さ、気候変動、淡水利用、生物地球科学的循環で限度を超えている。 

賛成派の意見は? 

緑の党青年部は、環境保護を優先事項として憲法に明記し、経済と社会の枠組みとして機能すべきだと主張している。 

同イニシアチブは、栄養価の高い食料、飲料水、きれいな空気といった、人間の生活に不可欠な要素の保護を目的としている。 

>「スイスの気候変動対策は人権侵害」 欧州人権裁判所が異例の判決 

発起人委員会は、経済活動には地球の限界に対する大きな責任があるとみなす。経済活動が自然の回復能力をはるかに超えた資源を消費しており、環境危機や異常気象、取り返しのつかない生態系の変化をもたらしているためだ。 

反対派の意見は? 

政府と議会は、同イニシアチブに反対している。特に「10年以内に」という点が行き過ぎだとの見解を示した。イニシアチブが可決されれば、政府は経済・社会的に悪影響を及ぼす厳しい措置を取らざるを得なくなる。政府は「国家にとって持続不可能な、莫大で不均衡な変革コストを生み出す」と主張している。 

政府はまた、憲法にはすでに持続可能性に関する条項がいくつか含まれていることを強調している。既存の規定はバランスが取れており、追加の必要はないという。 

一方、経済団体エコノミースイスは、資源消費を無理に抑え込むことは貧困につながると指摘している。「地球の限界を超えない」というイニシアチブの要件を満たす国は、現在わずか15カ国しかないとも反論。アフガニスタン、ハイチ、マダガスカルなど、経済的および政治的に不安定な状況の国ばかりだとする。

政界・業界の反応は? 

環境責任イニシアチブは、緑の党、左派・社会民主党(SP/PS)、社会民主党青年部(JUSO)、グリーンピース、小規模農家組合、市民団体「スイス気候シニア」など、幅広い政党およびNGOが支持している。それに加え、スイス人科学者83人も支持を表明した。 

ただ、左派政党と環境保護団体以外にはほとんど浸透していない。議会での議論において、右派・国民党(SVP/UDC)、中道右派・急進民主党(FDP/PLR)、中道右派・中央党(Die Mitte/Le Centre)、さらには中道派・自由緑の党(GLP/PVL)が同案に異議を唱えた。ビジネス界も反対を表明している。 

欧州諸国の現状は? 

フランス、イタリア、ドイツ、オーストリア、オランダ、スウェーデンなどの欧州諸国では、すでに資源保護に関する法的枠組みが強化されたか、強化に向けた取り組みが行われている。例えばフランスの環境関連の規制を定めた環境法典(Code de l’Environnement外部リンク)には、地球の限界に配慮する枠組みの中で、エコロジカルフットプリントの実質ゼロを達成するとある。またドイツは持続可能性戦略2021年で、地球の限界がすべての政治的決定の基礎となるとしている。 

▼環境責任イニシアチブの説明動画

編集:Samuel Jaberg、英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子 

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