新内閣の成立
国民党出身のクリストフ・ブロッハー下院議員が入閣。44年保ってきた連立内閣の党配分が崩れた。
本年で引退するカスパー・フィリガー蔵相の後任には、ハンスルドルフ・メルツ上院議員(自由民主党/急進党)が選出された。キリスト教民主党出身の司法相、ルーツ・メツラー氏は不信任となった。不信任となったのは同氏を含めて連邦政府史上3人ときわめて異例のことだった。7人の閣僚のうち、女性はミシェリン・カルミレ氏のみとなる。
「悪ガキというより暴れオヤジ」だとあだ名されたクリストフ・ブロッハー下院議員が入閣した。
10月19日の選挙で第1党に飛躍した国民党は、これまで1人の閣僚を送り込むだけでは不満と2つのポストを要求していた。党の中心的存在であるブロッハー氏がルーツ・メツナー氏(キリスト教民主党)の対抗馬として立候補。必要過半数に2票上回る122票を得て、勝利した。連邦制が敷かれた1848年以来、再選されなかった閣僚はメツナー氏を含め3人となる。きわめて安定したスイスの政治だが、今年は大きくゆれた。
7人の閣僚の任期は4年で、国民議会と全州議会の合同会議により総選挙が行われた年の末にほぼ信任投票の形で選挙が行われる。
40年以来の大地震
スイスの政治は少なくとも、4年前までは極めて安定していた。7人の閣僚は自由民主党(急進党)、社会民主党、キリスト教民主党、国民党の出身者で構成され、それぞれ2、2、2、1席と1959年以来、変化がなかった。配分は国民議会(下院)と全州議会(上院)の両方をあわせた議員数にほぼ比例する。
しかし1999年、国民投票で欧州経済地域(EEA)には加盟しないことを決めて以来、スイスの独自路線政策を提唱する国民党が力を伸ばした。その後も議席を堅実に増やし、今年の選挙では第1党に飛躍した。本日行われた上・下両院合同会議で国民党は、40年以上続いた党の配分を破り、ポストを2つ要求。1999年に史上最年少の35歳で入閣した女性閣僚のルーツ・メツラー氏に挑んだ。
選挙前の世論では、国民党がポスト増を要求することに6割が支持したものの、ブロッハー氏を支持する人は4割だった。
ブロッハーと共に右よりの政治へ
入閣したブロッハー氏は1940年チューリヒ州生まれ。法学博士。化学薬品会社エムスに入社し現在社長を務めるが、入閣後は子どもに会社を譲る意向である。
1974年から地方の政治に参加。77年に国民議会の議員として初当選して以来、国レベルの右派の代表的存在として活躍している。64歳での入閣はスイスでは比較的遅い。
EU加盟に反対し、移民と難民を規制することを提案し、福祉政策に消極的で歳出の縮小を訴えるブロッハー氏は、「自分の主張以外は認めない」(某政治評論家)とこれまで妥協という言葉を知らない。入閣が決まった同氏は
「スイス国家が直面する問題を解決するために、わたしの力の限り努力する」
と演説。普段より比較的「おとなしい」内容だった。
今回の選挙は、連立内閣を構成する3党のポスト配分が新しくなったという「歴史的節目」だけではなく、主張を通すことばかりを続けてきた政治家が入閣することでコンセンサスが伝統のスイスの転機になりそうである。
今年で辞任する財務大臣のカスパー・フィリガー氏の後任者として、ハンスルドルフ・メルツ氏が当選した。大手企業の代表ブロッハー氏と並び、メルツ氏も経済界を代表する人物。来年からは、経済重視の政策が進むと見られる。
来年からの7人の閣僚は次の通り。
モリッツ・ロイエンベルガー(社会民主党/再選)、パスカル・クシュパン(自由民主党/再選)、ジョセフ・ダイス(キ教民主党/再選)、サムエル・シュミット(国民党/再選)、ミシェリン・カルミレ(社会民主党/再選)、クリストフ・ブロッハー(国民党/初当選)、ハンスルドルフ・メルツ(自由民主党/初当選)。年ごとに当番制の大統領は、ジョセフ・ダイス氏。 各閣僚の担当省は今後、7人の間で話し合って決められる。
スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)
来年からの内閣の党配分
国民党2、自民党2、社会党2、キリスト教民主党1。
7閣僚はモリッツ・ロイエンベルガー(社会民主党/再選)、パスカル・クシュパン(自由民主党/再選)、ジョセフ・ダイス(キ教民主党/再選)、サムエル・シュミット(国民党/再選)、ミシェリン・カルミレ(社会民主党/再選)、クリストフ・ブロッハー(国民党/初当選)、ハンスルドルフ・メルツ(自由民主党/初当選)
大統領はジョゼフ・ダイス。信任されていればルーツ・メツナー氏が大統領となるはずだった。
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