関税交渉、グランドセイコー…スイスのメディアが報じた日本のニュース

スイスの主要報道機関が先週(4月28~5月4日)伝えた日本関連のニュースから、①日本に吹くトランプ嵐②分散投資先、日本は選択肢?③「スイス製」に挑戦するグランドセイコー、の3件を要約して紹介します。
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日本に吹くトランプ嵐
ドナルド・トランプ米政権の提起した相互関税をめぐり、各国が米国との個別交渉に当たっています。その試金石として日本の対米交渉に注目が集まるなか、フランス語圏スイスの大手紙ル・タンに,、スイス・ジュネーブ出身のアントワン・ロート東北大学教授が日本の不安定な状況を分析する寄稿が掲載されました。
ロート氏は、ロシアのウクライナ侵攻で世界秩序が大きく変化する中、同盟国である米国がかつてない攻撃力で国際秩序を揺るがしていることは「日本政府にとって大きな恐怖である」と位置付けます。米政府高官は中国との関係で日本との同盟は依然として不可欠だと述べているものの、「米ホワイトハウスがウクライナを裏切り、北大西洋条約機構(NATO)を軽んじている今、米国が日本や地域の安全保障に対する義務を尊重するのかどうか、疑わずにいられるだろうか?」と日本の不安を代弁します。
「グローバル化によって世界が平和になり、国際的な威信は軍事力ではなく商業的な成功や優れた統治により生まれる」という米国が冷戦後に掲げてきたビジョン。日本はこれを「必ずしも実行に移されたわけではないが」受け入れてきました。そのビジョンに米国自身が強い敵意を抱くようになった今、日本や同盟国はどのような役割を果たすことができるだろうか、とロート氏は問いかけます。
石破茂政権は関税交渉において「二国間協力の経済的・軍事的利益を相手国に思い出させようとしている」ものの、永田町は合理的な合意に達する可能性に懐疑的です。トランプ氏が要求する在日米軍への拠出拡大や、自動車・農産物の非関税障壁に関する「トランプ氏の誤解」を受け入れることを断固拒否。「ホワイトハウスの高圧的な態度と、既存の規範や協定を蔑ろにする姿勢が、不信感と嫌悪感を広く生んでいる」
またロート氏は、日本はこの対米交渉が「教科書的な先行事例」になることを強く意識し、欧州やアジアのパートナーと対応を調整している、と指摘します。ただし「国際舞台で日本が取るべき立場についての考察は始まったばかり」。少数与党を率いる石破氏は対米交渉を誤ったり夏の参院選で敗北したりすれば辞任に追い込まれる可能性があり、「国難」であることは確かだ、と結びました。(出典:ル・タン外部リンク/フランス語)
分散投資先、日本は選択肢?
トランプ政権のもたらす不確実性は金融市場を揺らし、投資家に不安を与えています。ドイツ語圏スイスの日曜紙ゾンタ―クス・ツァイトゥングのマネー面には、資産の分散として日本市場に投資すべきかどうか尋ねる読者質問に、経済・金融ジャーナリストのマルティン・シュピーラー外部リンク氏が答えました。
読者の質問は「分散投資として『バンガードFTSE日本UCITS ETF』などが考えられます。日本市場に投資すべきだとよく聞くのですが、いい考えだと思いますか?」というもの。シュピーラー氏の回答は「いいえ」でした。
シュピーラー氏は、日本が米国、中国、ドイツに次ぐ第4の経済大国であることから「分散投資のために、日本の株式市場に投資することは意味があるかもしれない」とみています。しかしかつては米国に次ぐ第2位を誇っていた日本も、長い衰退期を経験しています。そして「米国の関税引き上げは日本経済にとって新たな問題であり、成長力強化への期待に水を差す可能性がある」と続けます。
読者が挙げた商品について、同氏は「トヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソニーグループ、日立製作所、三井住友フィナンシャル・グループなど、日本の大手・中堅企業の株式にアクセスできる」と説明。「トータルコストは年率0.15%と控えめ」なため、これに加えて「さらなる可能性を秘めた高成長の新興市場への投資」を提案しました。
その一例として「アムンディ MSCI 新興市場II UCITS ETF Dist」を挙げつつ、「米国の関税政策により、このリスクも非常に高い」と注記しました。(出典:ゾンタ―クス・ツァイトゥング外部リンク/ドイツ語)
「スイス製」に挑戦するグランドセイコー
「技術と熟考を融合させた哲学を掲げ、スイスの巨人たちの間で道を切り開こうとしている日本のブランド」――イタリア語圏スイスの地方紙コリエーレ・デル・ティチーノは、スイス国内でも存在感を増す日本のグランドセイコーについて、同社のフレデリック・ボンドゥー欧州社長に話を聞きました。
4月上旬にジュネーブで開催された見本市「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ(W&W)」で、グランドセイコーはスプリングドライブムーブメント「キャリバー9RB2」を搭載する腕時計2製品を発表しました。年差±20秒の精度を、記事は「ゼンマイ駆動ムーブメントではこれまで達成できなかった技術的なマイルストーン」と紹介。ボンドゥー氏は「私たちのアイデンティティは、職人の卓越性と美的純粋さという2つの柱に基づいている」と語りました。
「本当の試練は、世界の時計製造の中心地であるスイスとの直接比較」だと記事は続けます。ボンドゥー氏は2020年の欧州社長就任時、セイコーの社長に「うちの子をあなたに託します。ヨーロッパでゆっくり、でも丁寧に育ててください」と言われたと明かします。その言葉は「グランドセイコーを単なるブランドとしてではなく、守り育てるべき文化遺産として扱うよう呼びかけるもの」だったと解釈しています。
ボンドゥー氏は「私たちはスイス製を模倣・対抗したいわけではない」と強調します。「私たちは異なる言語を使った代替案を提案したい。ゆっくりとした、瞑想的な、人間と自然のつながりを語る言葉だ」。これは今日の欧州でかつてなく大きな共感を得ているビジョンだと言います。
同社は現在、スイス国内に4カ所(ジュネーブ、チューリヒ、ベルン、アンデルマット)の店舗を置いています。転機になったのは、2022年のW&W初出展。スイス側から招待を受け取ったことは「一種の承認であり、同時に挑戦でもあった。日本のブランドでスイスに参入することは決して当然のことではないからだ」と振り返ります。
スイス市場への参入には忍耐、強固な関係、綿密な戦略が必要だとのこと。ボンドゥー氏は「スイスの市場は非常に競争が激しいが、私たちをオープンに迎え入れてくれた。私たちは脅威ではなく、補完的なものとして認識されている」と自信たっぷり。米国の関税政策という不安要素もありながら、「大切なのは時計を作ることだけではない。信頼を築くことだ」と強調しました。(出典:コリエーレ・デル・ティチーノ外部リンク/イタリア語)
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話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「ジャッキー・チェンさんに名誉豹賞 ロカルノ映画祭」(記事/日本語)でした。他に「バーゼルで『カラオケ路面電車』走行 欧州歌合戦に合わせ」(記事/日本語)、「スイスの防衛産業、中立性逃れ国外へ移転」(記事/英語)も良く読まれました。
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は5月12日(月)に掲載予定です。
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校閲:大野瑠衣子

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