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スイスの銀行 世界の税務官吏へ立候補の案

Keystone

スイス銀行協会 は年次総会の場で、スイスがタックスヘイブンであるという非難に対処するための提案を打ち出した。スイスが欧州連合 ( EU ) と税制に関して取り決めている仕組みを改良し、銀行顧客の納税総額を銀行が肩代わりして各国政府に支払うという案だ。

スイスは過去数カ月間にわたって各国から、銀行の顧客情報に対する守秘義務が、外国人の資産隠しと脱税に悪用されていると非難されている。今年上旬スイスは他国と歩調を合わせ、経済開発協力機構 ( OECD ) の規定に従い、経済犯罪捜査に全面的に協力する ことに同意した。

銀行が国税局の代理?

 スイスがタックスヘイブン ( 租税回避地 ) の国としていまだに掲載されている「グレーリスト」から外してもらうよう、各国との租税条約を個々に見直し、やっとその目的達成にこぎつけようとしているが、スイスの金融界にはいまだ汚点が残った状態だ。スイス銀行協会 ( die Schweizerische Bankiervereinigung ) の最高責任者 ( チーフ・エクゼクティブ ) ウルス・ロート氏はスイスの銀行の名誉回復のため、名義を伏せた上で外国人顧客が支払うべき税金を集め、まとめて各国に支払うというサービスを始めることだと提案している。
「わたしたちの提案は、タックスコンプライアンス ( 納税の遵守 ) の義務を負った個人のプライバシー権を守り、一方で、各国の税徴収の面で手助けすることでバランスを取ろうとすることにある」
と9月15日、チューリヒで開催された年次総会の場でスイスインフォに語った。

 「顧客がそれぞれの政府に支払わなければならない税金は、源泉徴収の形で銀行が預かる。これを銀行がスイス政府に支払い、スイス政府は各国に分配する」
 他国の税制を見直すような野心的な計画は、2008年にEU貯蓄課税指令で2008年に徴収した7億3800万フラン ( 約658億円 ) より、カバーする分野は広く、利益、株の配当、投資、利子なども対象としている。

 「検討をしたところ、複雑であり運用にはコストがかかることも分かったが、実行できるという結論が出た」
 とロート氏は語った。

世界の変化に対応

 スイス政府はこの提案に興味を示し、関係当局に対し外国にこうしたサービスを提供できるかどうか検討するよう指示したという。スイス銀行協会は当初、スイスの銀行が外国政府の税務官吏になるという提案に否定的だった。しかしロート氏はEU域外でこうした制度が進むであろうと見ていることを認めている。

 「世界は変化している。税制の強化に関心が集中していることは確かだ」
税制強化の典型的例として挙げられるのは、アメリカでUBS銀行の行員が脱税ほう助をしたと認め、スイスの金融界全体にダメージを与えたことだ。

 ロート氏はまた、2008年は短期間でスイスの銀行全体の利益が31%縮小したものの、それも回復すると確信しているという。スイス国立銀行 ( SNB/スイス中銀 ) の直近の調査によると、 今年はスイス全体で見て、資産運用部門での損失は出ていない。

 「業務レベルは保てると確信している。もしルクセンブルクやシンガポールが同じ道を歩まなければ、スイスにとってより困難なことになる」

マシュ・アレン 、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、佐藤夕美 )

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スイス銀行協会は9月15日、スイスの銀行の健康度を測定した「銀行バロメーター」を発表した。これによるとスイスの銀行の収益は全体で31%縮小し、490億フラン ( 約4兆3700億円 ) にとどまり、1997年以来最悪の業績となった。資産運用部門と併せ株価の下落が大きく影響した。有価証券の資産総額は最も縮小し38%その価値を失った。
とはいえ、スイスの銀行は昨年末の時点で4兆フラン ( 約357兆円 ) の顧客資金を運用し続けている。今年に入り株価が上昇し、運用資産は3.6%その価値を上げた。
困難な時期においても銀行は1.2%の増員を図ったが、今年は2%削減になると見られる。
貸し付け部門は順調で2008年の貸付額は前年比3%増の8億4500万フラン ( 約754億円 ) だった。

スイス国立銀行 ( SNB/スイス中銀 ) は不景気の中、金利を凍結したままである。政策金利である3カ月物金利を0.3%に保ち、誘導目標を0%から0.75%の幅としている。国内総生産 ( GDP ) の伸率は昨年6月の予想マイナス3%から上方修正し、現在は1.5~2%と予想している。物価は物品とサービスを合せ、マイナス0.5%を予想している。

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