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スイスで「ニュース離れ」さらに深刻に メディア品質年鑑

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Keystone / Christian Beutler

チューリヒ大学公共・社会研究センター(通称「fög」)が毎年まとめる「スイスメディア品質年鑑」2024年度版で、スイスでニュースを平均以下の量しか消費しない人の割合は46%と、過去最高を更新したことがわかった。スイスメディア全体の質は引き続き「良好」と評価された。

Fögが21日公表した年鑑によると、公共メディアであるスイス放送協会(SRG SSR、swissinfo.chの親会社)を利用すると答えた回答者の多くは、民間メディアも頻繁に利用していることが分かった。

SRGの報道を見ると回答した人の61%が、民間メディアのコンテンツも利用していると答えた。その一方で、SRGを見ないと答えた人の民間メディア利用は38%に留まった。通勤者向けのメディアやタブロイド紙も、SRGを見ている人の方が消費率が高かった。

オンライン部門でも同様の結果が出た。SRGのみを利用していると答えた人はわずか4%で、通勤者向けメディアやタブロイド紙のみと答えた人(26%)や、定期購読しているメディアのみと答えた人 (8%)よりもはるかに低かった。

Fögのリナーズ・ウドリス調査副責任者は会見で、「公共メディアがさらなるニュースコンテンツの消費を促しているのは明らかだ」と述べた。年鑑では、民間メディアは排除されるのではなく「補完的、補足的に利用されている」ことが示された。Fögのディレクターを務めるマーク・アイゼンエッガー氏は「(SRGが民間メディアを追い出すといった)置き換えの理論は当てはまらない」とした。

コンテンツが届かない問題

アイゼンエッガー氏によると、消費者にコンテンツをますます届けにくくなっているのは、公的メディアと民間メディアの両方にとって最大の課題だ。スイスでは、ニュースを平均以下の量しか消費しない「ニュース離れ」に陥っていると答えた人の割合が過去最高の46%にのぼった。ウドリス氏によると、こうした人々はソーシャルメディアを通じてニュースを入手する傾向が最も大きい。

年鑑の分析によると、メディアのコンテンツは財政的な制約などを理由に集中傾向にある。例えば、地方局などでは同じ記事を複数回使用することが増えている。こうした日々の報道活動の減少により、地方および地域レベルでの多様性が失われつつあることをFögは問題視している。

Fögは、インターネット広告の大部分をかすめ取る配信プラットフォームへの対抗手段として、公共メディアと民間メディアの協力強化を推奨している。

回答者の過半数はオンラインメディアに料金を支払う気がない

また、特にオンライン部門で「支払い意欲(WTP)」の欠如が目立った。回答者の57%は「(オンラインメディアに)料金を支払う気がない」と答え、35%が「料金が月10フラン(約1700円)未満であれば支払う気がある」と答えた。

ネット上の定期購読(サブスクリプション)の平均価格は月 18フランだった。ただ、特定の種類のメディア利用と「支払い意欲」の間に統計的な相関関係はない。

男性と若年層は有料版のネット記事に対し料金を支払う傾向が強かった。また、ニュースや政治に強い関心を持つ人も有料のニュースサイトなどにお金を払う意欲が高かった。

公共メディアは品質と信頼性で高評価

Fög によると、回答者の大半はSRGの報道番組を信頼しており、10 点中 7 点の評価を得た。フランス語圏日刊紙ル・タン(6.8 点)とドイツ語圏日刊紙NZZ(6.6 点)がそれに続いた。大衆紙ブリックはGMX やヤフーニュースと同じ5点だった。

swissinfo.chは10 点中7.4点を獲得し、「スイスメディア品質年鑑」2024年版で評価対象となった27のオンラインメディアで2番目に高い評価を得た。

10点満点中、fögはドイツ語圏スイス公共放送(SRF)のラジオとテレビ番組に、それぞれ7.7点と7.5点の最高点を与えた。ニュース番組「エコー・デア・ツァイト(Echo der Zeit)」は8.1点でトップにランクインし、次に「ランデヴー(Rendez-vous)」(7.9点)が続いた。民間放送テレビ局は6.4点で有料のニュースサイトと同点だった。

通勤向けのメディアおよびタブロイド紙はそれぞれ5ポイントと4.6ポイントで最下位だった。

AIに対する懐疑論

この調査では、国民がジャーナリズムにおける人工知能(AI)の利用に依然として懐疑的であることも明らかになった。スイス人のほぼ4分の3が、ジャーナリズムにおけるAIのリスクは高いと考えている。これは、政治や軍事など社会の他の分野よりもさらに高い。

AIが文章や画像の作成など、ジャーナリズムに直接介入するほど、懐疑的な見方は強くなる。fögのダニエル・フォーグラー調査副責任者によると、おそらくこうした懐疑心が、AI生成のニュースを利用したいと思わない理由の1つとなっている。ただし、回答者の多くは翻訳、データ分析、研究にAIを使用することに賛成している。

2010年から毎年発行されている「スイスメディア品質年鑑」は、メディアの質についての議論を深め、社会におけるジャーナリズムの役割と成果に対する認識を高めることを目的としている。新聞、ラジオ、テレビからオンラインやソーシャルメディアまで、あらゆる種類のメディアを分析する。年鑑の統計は、オックスフォード大学のロイタージャーナリズム研究所の年次「デジタル・ニュース・リポート」に基づいている。

英語からのDeepL翻訳:大野瑠衣子

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