米国の指紋採取義務付け スイスが個人情報で影響懸念
テロ対策の一環として、米国が9月末から査証(ビザ)取得を免除しているスイスなど27カ国からの短期滞在者にも入国時の指紋採取や写真撮影を義務付けることに対し、スイス政府は個人情報への影響を懸念している。
また、米政府が米国に入国する航空会社に搭乗者の個人情報の提供を求めていることについても、スイス当局は批判の声を強めている。
9・11同時多発テロ以来、米国は段階的に安全管理策を強化し、様々なデータ監視の取り組みを行っているが、個人情報流出への懸念が最大の課題となっている。スイス当局は現在、連邦で規定された個人情報保護法の観点から、米国と2国間協議を行っている。
米入国管理強化策
現行の米入国管理強化策は、長期滞在や留学・就労などでビザを持つ外国人だけが対象。入国する際に人差し指の指紋をスキャナーに押し付けて採取し、デジタルのカメラに向かって顔写真を撮影する。こうした生体情報が出入国管理システムに送られ、テロリストや犯罪者などの記録と照会される仕組みだ。
9月末からこの強化策の対象が、ビザの取得を免除されている短期入国者にも拡大する。
この他、米政府は現在進めている航空機テロ防止プロジェクトのために、入国する航空会社に、搭乗者の宗教やクレジットカード情報などを含んだ個人情報の提供を求めている。こうして蓄積される膨大な個人情報を管理、解析し、テロの動きを見つけ出すのが米政府の狙いだ。
スイスのデータ保護委員会ハンスペーター・テール委員長は、米国のこうした入国管理強化策を「不適切だ」と批判する。
「入国する旅行者のIDが必要であれば、パスポートに記されている生体情報で十分なはずだ。まして、入国先の当局がこうした生体情報をデータ—ベース化する必要などないはず」と同委員長は話す。
個人情報流用の懸念
テール委員長は、個人情報がデータ—ベース化されれば、他目的で流用される懸念があると指摘する。
先月、米インターネットサービス大手アメリカ・オンライン(AOL)の社員が同社の顧客情報を盗んだ疑いで司法当局に逮捕されたばかり。この社員は、顧客が同社のインターネットサービスを利用する際に使う登録名9,200万件を盗み出し、迷惑メール業者に販売していたという。
スイスで定められた個人情報保護法をもとに、スイスと米国当局は現在、2国間協議を行っている。だが、現状では旅行客の合意を基に個人情報を米当局に提供するしかない、とテール委員長は話す。
「2国間協議が終わるまでは、米国の措置は止められない。入国する際に生体検査や個人情報の提供を求められると知った上で、渡米するかは各旅行者が判断することだ」と同委員長は話している。
スイス国際放送 イソベル・レイボルト—ジョンソン 安達聡子(あだちさとこ)意訳
米国は今年1月から、ビザを持つ外国人入国者に対し、電子的な指紋採取と顔写真撮影を義務付けている。
9月末からはビザ取得が免除されているスイスなど27カ国からの短期滞在者にも対象を広げる。
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