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ワイン作りを変える新しい収穫機

ジュースライナーは走りながらワインを作る. HSW

チューリヒ州のヴェデンスヴィル ( Wädenswil ) にある「ライフサイエンス・設備マネージメント学校 ( HSW )」 が、ワイン作りのほとんどの作業を畑でする機械を開発した。

名付けてジュースライナー ( Juiceliner ) 。ブドウを収穫し、ブドウ液を搾り出し、ろ過までを一気にするため、作業は効率的に進み、ワインの質も良くなるという。

 HSWによるとジュースライナーは「ワイン作りを飛躍的に変える世界的な発明であり、ブドウを収穫しながらブドウ液を搾り出し、同時にろ過もするので、ワイン作りが最適の行程でなされる」という。

ジュースライナーにできること

 これまでも、ブドウの収穫と液を搾り出す作業を同時にする機械はあった。ところがジュースライナーは、畑でブドウ液のろ過までしてしまう。ろ過されたブドウ液は、デキャンター・システムにより、備え付けのタンクに流し込まれ、絞りかすや種は畑に直接捨てられ、肥料となる。

 HSWはドイツの民間企業、エロ機器製作所 ( Ero Gerätebau ) とヴェストファリア・フード・テック ( Westfalia Food Tec ) の2社と共同で、この機械を開発した。HSWの飲料工学の専門家が、ワイン製造の分析を請け負った。「3者による共同開発で、ジュースライナーは特許を取るまでに至った」とHSWの広報担当ビルギット・カメーニッシ氏は誇らしげだ。

環境と経済の両立

 ワイン作りの課題は、ブドウの収穫からブドウ液の加工までの行程をいかに短時間で済ませるかにある。短時間であればあるほど、ブドウの葉の混入が少なく、バクテリアの繁殖を防ぐことができる。ジュースライナーにより、ブドウの収穫から搾り出しとろ過までを一貫して行うことで、この課題をクリアした。
カメーニッシ氏は「従来のブドウ収穫と液搾りの一体型機械と比較して、畑での仕事が楽になるわけではないが、ワイン倉庫で行われていたブドウ液のろ過の手間が省けたことは大きい」と言う。しかも、絞りかすなどを直接畑にまいて、肥料に使えるという利点もある。

 昨年、ドイツで試験運転がなされたが、ブドウ液の質は申し分なかったという。今年はドイツとチリでも試験が予定されている。

 ただし、スイスでジュースライナーが活躍するには、まだ時間がかかりそうだ。「スイスのブドウ畑の多くは細かく区切られていて、急斜面を利用し段々畑になっている。今回開発されたジュースライナーが入ることは不可能で、意味もない」とカメーニッシ氏は明かす。しかし、スイス国外のブドウ畑は、機械で収穫する規模のところが多く、ジュースライナーの需要はあるはずだ。さらに、エロ機器製作所は、傾斜25%の畑でも使えるジュースライナーを開発する予定だという。

swissinfo、ジャン・ミシェル・ベルトゥト 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

ジュースライナー開発には、欧州連合 ( EU ) の技術促進計画から25万ユーロ ( 約3700万円) の助成金が出ている。
ジュースライナー1台の末端価格は35万ユーロ (約5000万円 ) の予定。
見込まれる年間販売台数は80台。
2009年に市場に出る予定。

<ライフサイエンス・設備マネージメント学校 ( HSW ) >
- チューリヒ州立の高等専門学校。所在地、ヴェデンスヴィル市。
- 一般学生向けの教育、成人教育、実践を目的とした研究開発とサービスを行っている。
- バイオテクノロジー、化学、設備運営学、食品工学、環境学の学士号が取得できる。

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