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スイスに昔からある「外国人嫌い」

移民法の改定案は67.8%、外国人法の改定案は68%の支持率で、承認された Keystone

左派の歴史学者、ハンス・ウルリッヒ・ジョスト氏にとって、外国人法と移民法改定の承認は、スイス政治の根底にいつもあった「外国人嫌い」がまた頭をもたげてきたにすぎないという。

また、このローザンヌ大学名誉教授は、スイスの人道主義の伝統は、自国にとって都合の良いときだけ使われるともいう。

 右派の国民党 ( UDC/ SVP ) の党首、クリストフ・ブロッハー氏の影響が強い外国人法と移民法の改定は、9月24日の国民投票で、支持率68%で承認された。左派的傾向に傾きやすいフランス語圏の都市で、賛成票の伸びが多少悪かったものの、フランス語圏とドイツ語圏を2分することなく、スイス全州一致で、改定案を受け入れた。「これは驚くに当たらない結果」と語るジョスト教授。スイスインフォのインタビューに答えてもらった。

swissinfo : この選挙で、スイス人は結局、国民党の保守的な考えを支持しているということが明らかになったのでしょうか?

ジョスト : 国民党は、近代的な政治戦略を駆使して、この国に昔からあった「外国人嫌い」の伝統を復活させたにすぎません。グローバル化、社会の近代化がもたらすある種の恐怖、高額な健康費用など、本当は不景気が引き起こす諸問題を「外国人嫌い」に結び付けているのにすぎないのです。

swissinfo : スイスに「外国人嫌い」の伝統があると思われるのですか?

ジョスト : 非常に単純化すると、20世紀の初めから、スイス政治の根底にはいつも2、3の継続的な核となるものがありました。その1つが「外国人嫌い」です。
 
それは第一次大戦前に、外国人問題を扱う際に、ある種の外国人を排除する形で表面化しました。例えば、ジプシーは「災害のもと」と呼ばれていたことが、政府の当時の書類に残っています。

その時以来、この「外国人嫌い」の体系は変わらず、右派政党や極右派政党に定期的に利用されてきました。今回はそれが非常にはっきりと読み取れた良い例です。つまり、隠れ蓑に使ってきた「人道主義の国」のベールがはがされたのです。

swissinfo : けれども、今回の国民投票で支持側に回った人たちは皆、スイスの人道主義の伝統を持ち出してきて、「スイスの人道主義がこれで問われた訳ではない」といっています。思い違いではないでしょうか?

ジョスト : いえ、思い違いではありません。何事も相対的に眺めなければいけません。ドイツ語圏の重要な新聞、どちらかといえば保守的ですが、それさえ「人道主義の伝統はスイスの利益になる限り、また我々のエゴイズムを犯さない限りにおいて、存在する」といっています。

この偽善的人道主義は、フランスから、プロテスタントのユグノー派が逃げて来た時すでに、同じ様にあったのです。スイスはユグノー派に、できるだけ早く帰ってほしいと思いながら、それを口に出さずに迎え入れたのです。

swissinfo : 国民党は、「これで終わった訳ではない。今後も外国人対策を続けていく」といっていますが、「外国人嫌い」の波は、今後もそのうねりを大きくしていくのでしょうか?

ジョスト : 「外国人嫌い」は、もう100年も続いているのですよ。これは、この国の精神性の中に深く「はめ込まれた」ものなのです。

それに、国民党は単に、選挙で成功をおさめたいと思っているだけです。選挙に役立つ限り、この「外国人嫌い」を利用していくでしょう。

swissinfo : スイスを取り巻く国々も、外国人政策を強化しています。こうした動きの中で、スイスの外国人政策の特殊性といったものがありますか?

ジョスト : 特殊性はありません。しかし、しいて言えば、スイスは非常に偽善的です。つまり、いつも人道主義の伝統を口にして、スイス人は「清浄」である振りをし、道徳的退廃の穴に落ち込まないようにしています。ところが、実際はもうこの穴に落ち込んでいるのです。そして、この偽善性が、極端な形で表面化した一例は、第二次世界大戦中の難民政策だったと思います。


swissinfo、マルク・アンドレ・ミズレ 聞き手 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 意訳

9月24日、外国人法、移民法の改正が国民投票にかけられ、68%の支持率で承認された。
外国人法では、欧州連合 ( EU ) と欧州自由貿易連合 ( EFTA ) 加盟国 外に国籍をもつ外国人がスイスで就労する場合、スイス人、EU, EFUTA出身者の中に専門家が見つからないときにのみ採用される、専門家でないといけないというもの。
移民法では、難民を受け入れる際、国籍証明の旅券を持たない人、出身国を偽った人は、申請が簡単に却下され、強制出国を余儀なくされるというもの。

ベルン大学で、哲学と歴史の博士号取得。1981年来、ローザンヌ大学で教鞭をとると同時に、数多くの研究を行った。

兵役では、士官で、戦闘機のパイロットを務めたが、いつも左派的な活動を行ってきた。

スイス人が自分たちの過去、特に第二次世界大戦という過去を、現実的に、真実の目をもって解読できるようにする歴史家グループの一員である。

ローザンヌ大学の現代史科を2005年に退官したが、現在、ヨーロッパレベルでの様々な研究プロジェクトに参加している

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