スイス人が見た日本の金融危機
金融危機が世界中に吹き荒れる中、世界の都市に住むスイス人たちにその国の危機状況を聞いた。今回は日本でワインの輸入販売を手がけるマックス・プティジャン氏に登場してもらった。
プティジャン氏は、スイス、イタリア、フランス、アメリカなどから主にワインを輸入販売する会社「アルコトレード ( Alcotrade ) 」の経営者。得意先はデパート、ホテル、レストランなどだという。
swissinfo : ワインを主に輸入販売していらっしゃいますが、2008年はどんな状況でしたか?
プティジャン : 輸入業者としては、上がり下がりの激しい年でした。これは為替レートの変動のせいです。今まで日本円は、ほかの貨幣に比べその価値が低く見られていたのではないかと思います。それが金融危機を契機に、外国為替市場が一気にその価値に気付いた。円高になり、輸入ワイン価格を落とせたはずですが、わが社ではそれがうまくいかなかった。
また、原油価格が急騰し、輸送費が跳ね上がりました。すべてが値上がりし、収益が減りました。その結果、慎重な経営に転換せざるを得なかった。会社の構造を編成し直し、2007年と同じ収益を上げるのにやっとでした。つまり経費を削減し、社員は同じ給料で2倍働いた訳です。
現在、どの得意先もワインのスットック量を最小限に抑えようとしています。実は注文件数は増えているのですが、1件ごとの注文量が少なくなり、そのためトータルでは収益は減っています。
swissinfo : 歴史的には、景気はいつも上がり下がりを繰り返してきましたが、今回の金融危機は特別だと思いますか?
プティジャン : 我々の世代は絶望的な危機をまだ経験していません。時に景気後退の小さな波はありましたが、まだ「津波」には出会ったことがなかった。しかし、ここ日本は、ほかの国に比べるとその被害が今後も少ないと思います。全体的には2月、3月になったら状況はさらに悪化するのではと予想しています。
世界には、極端な金持ちが多すぎます。贅沢三昧な生活を送りながら、さらにもっと欲しいと要求する。少しはこの金融危機で、正常な感覚を取り戻してくれたらと思います。
ところで、今は現金を持っている人が王様だという状況ですが、1年後この現金の価値が維持されるとは誰も保証していない。答えは簡単です。仕事の数に対し、労働者の数が多すぎるのです。例えば女性は家にとどまって子どもの教育に専念し、夫が仕事に集中できるよう助ければ労働人口は減ります。
swissinfo : 世界はこのまま恐慌の奈落に突き落とされていくのか、それともやがて復活するか、どちらの考えを支持しますか。
プティジャン : 私はもともと楽観主義者です。たとえ失業率が20%になろうと、残り80%の人は働いているのだからと考えるほうです。もちろんすべての人がこの金融危機の影響を受けるのは確かです。しかし歴史は景気と不景気を繰り返してきました。ですから今は景気が上昇するのを待つだけです。それに、失業率は20%になるとは思っていません。またここ日本は、危機対処法を充分に準備してきたという感じを受けます。
swissinfo : この危機から学ぶことで、より健全な金融体制が誕生すると考えますか?もしそうだとしたらどのような体制だと思いますか
プティジャン : もし、最悪の事態になって今の金融体制が崩壊したら、為替レート変動を無くすために、唯一の貨幣のみが存在するような世界が生まれ、現在の外国為替市場での取引が廃止されるようになるでしょう。
残りの経済体制は変わらず、競争が支配し強者が勝つ仕組みは残ると思います。銀行は本来の基本的業務のみに専念し、金持ちの資産運用を行なわないという体制です。
swissinfo : 政治経済界では、長期にわたり経済成長を信仰のように崇めてきました。これは現実主義、それとも理想主義に基づいているのか、それとも単なる「まやかし」なのでしょうか。
プティジャン : 経済成長を絶えず信奉するのはまちがいです。恐らくこの金融危機は、人生には物質主義以外のほかの価値があるということを教える良い機会になるのではないでしょうか。シンプルな美しさ見つけてを尊ぶ、例えば私をじっと見つめてみるといったことをすれば、新しい価値感が生まれるのではないでしょうか。
swissinfo : 日本で、今の金融危機から抜け出すには何が必要でしょうか
プティジャン : この国は、納税者が汗水たらして働いたお金を無駄遣いする官僚たちが少なくなれば、すべてうまく行くと思います。もし政府によって無駄に使われたお金が、納税者のポケットにそのまま残っていれば、金融危機は起こらなかったと思います。
それと、もう一度念を押しますが、日本には本当の意味での他国のような金融危機は起こっていないと思います。ただ市場が飽和状態になっているだけです。日本人は1世帯に2台のテレビと5つの携帯を持ち、世界のより良い製品を享受しているのですから。
swissinfo、聞き手 ジョルジュ・バウムガルトナー 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳
スイスのバーゼルに生まれる。およそ20年前から日本に住んでいる。
10年間オランダの運輸関係の会社に勤務した後、輸入会社「アルコトレード ( Alcotrade ) 」を設立する。
アルコトレードはワインの輸入を主に、ビールとラクレットチーズの輸入販売なども手がけている。
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