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「ナイフが突きつけられている」 関税交渉の大失敗、スイスで非難合戦 

関税の一覧を示すスクリーン
ホワイトハウスがスイスに課した39%の関税は、スイスに衝撃を与えた Keystone / Jean-Christophe Bott

スイスのカリン・ケラー・ズッター大統領は、ドナルド・トランプ米大統領との交渉に失敗したことで国内で激しい批判を浴びている。

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スイスの建国記念日にあたる1日(スイス時間)、米国がスイスに対し予想外の39%の関税を課すと発表したことで、スイスでは非難合戦が勃発している。

スイスのカリン・ケラー・ズッター大統領は、トランプ政権との貿易協定締結への交渉で大きな誤算があったとして非難されている。米大統領の怒りを買ったとして、スイスの巨大な製薬業界を非難する声もある。

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FT

「ナイフが突きつけられている」――あるスイスの元外交官はこう話す。

7月31日深夜、ケラー・ズッター氏はトランプ氏と「悲惨な」電話会談を行なった、と事情に詳しい複数の関係者が語る。

30分にわたる会談は、3カ月・数百時間に及ぶ交渉の締めくくりだった。スイス当局はイギリス並みの10%の関税になると確信していた。その代わりにトランプ氏は、スイスが建国記念日を祝っていた1日、世界最高水準の39%を発表した。

スイスのメディアはこぞってケラー・ズッター氏を批判。ドイツ語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングは会談の失敗を同氏にとって「最大の大失態」と呼び、タブロイド紙ブリックは「1515年のマリニャーノの闘いでフランスに敗れて以来のスイスの大敗北」とまでこきおろした。

スイス政府関係者は、ジェイミーソン・グリア米通商代表部(USTR)代表やスコット・ベッセント財務長官との協議が順調に進み、暫定的な合意に達したと思い込んでいたため、不意を突かれたと明かす。スイスは4月、1500億ドル近い対米投資を約束する用意があるため、早期の貿易協定締結を確信していると述べた。

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輪番制の大統領職を今年兼任するケラー・ズッター財務相は7月、米国高官との会談を確保するのに苦労している他の多くの国とは異なり、「トランプ大統領へのアクセス」を見つけたと述べた。

事情に詳しい2人の関係者によると、スイス側はトランプ大統領の基準である10%の関税率で合意する用意があったという。この交渉アプローチ外部リンクは、7月4日にスイス連邦閣僚が承認した。

だが31日の電話会談でトランプ氏が気にかけたのは唯一、スイスがアメリカに対して抱える390億ドルの貿易黒字と、「非常に裕福な」スイスがさらに何を提供できるかということだけだった。

「トランプ氏が10%では不十分だという点を最初の1分で明らかにしたため、電話会談は立ち行かなくなった。トランプ氏の話はスイスがアメリカからお金を盗んでいるということだけに集中した」と関係者の1人は明かす。「ケラー・ズッター氏が言えることは何もなかった」

グリアUSTR代表は1日、トランプ氏の署名を待つだけの文章を確かに作ったとするスイス政府の考えを「誇張」だと述べた。米ブルームバーグ通信の取材に「すべてが合意されるまで何も合意されない」と語った。

その結果、39%という衝撃的な関税率となった。これは世界的にみても最高レベルであるだけでなく、トランプ大統領が4月に「解放の日」と称して発表したスイスに対する31%をも大幅に上回る。それに比べ、他のほとんどの国は8月1日時点の関税率は4月より引き下げられた。

スイス自身はこれまでにすべての工業製品の関税を撤廃しており、アメリカは時計、チョコレート、機械などで最大の輸出先となっている。ネスレ、ロシュ、ノバルティスは何千人ものアメリカ人を雇用しており、対米投資も活発だ。

きんの輸出は、精製や貿易のためにスイスを経由することが多く、米国との貿易不均衡の主な原因となっている。だが金も医薬品もトランプ大統領の「相互関税」の対象外だ。

「問題は、スイスが合理的で誠実な提案をしなければならないと考えていることだ。私たちは国際的なパワーポリティクスが苦手なのだ」と、交渉に詳しい関係者は語る。「他国のように現実的でない大きな誓約をすることに不安があった。今回は手痛い教訓だった」

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ケラー・ズッター氏に非難の嵐が押し寄せる一方、経済界では製薬業界への批判も上がる。影響力を持つ同業界が、交渉をめちゃくちゃにしたとする。

スイスの時計メーカー、ブライトリングのジョージ・ケルン最高経営責任者(CEO)は、製薬業界がトランプ大統領を苛立たせ、そのためにスイスは「人質を取られていた」と述べた。

スイス製薬部門は輸出の約60%を米国が占める。ノバルティスや、ロシュの米国子会社ジェネンテック(Genentech)は31日、他の製薬会社と同様にトランプ政権から薬価引き下げを要求する書簡を受け取った。スイス企業は今年、米国に数十億ドルの投資を約束した。

グリア氏は1日、製薬業についても言及した。「彼らは莫大な量の医薬品をわが国に輸出している」 

31日は休場だったスイス株式市場は、週明け4日の取引再開に向け損失を覚悟している。ノバルティス、ロシュ、消費財大手ネスレ、高級時計会社のリシュモンとスウォッチはいずれもスイス証券取引所に上場している。

スイス・アメリカ商工会議所は、スイスの投資誓約はより良いディール(取引)につながる可能性があると主張している。

スイス・アメリカ商工会議所のラーフル・サハガル会頭は「スイスの人口は900万人だが、1人当たりの投資額は日本やEUの投資額をはるかに上回る。400億ドルの貿易赤字について話すなら、この点を考慮すべきだ」と話した。

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商工会議所として米スイス間の交渉に何度も加わってきたサハガル氏は、スイスは「他に何を提供できるかを考える必要がある。商工会議所も会談を開けるかどうか模索している」と語った。

Copyright The Financial Times Limited 2025 

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