スイス プライベートバンキング ベアー銀行の拡大について
UBS銀行のプライベートバンキング部門をユリウス・ベアー銀行(以下ベアー)が買収した。買収額は56億フラン(約5000億円)。運用資産はUBSとクレディ・スイスに次ぎ、2700億フラン(約2兆4000億円)になる見込み。
ベアーは1890年創立の伝統ある銀行。銀行は世界で競争力を上げるために必要な経営規模まで拡大する必要があるとみる英国のバークレー銀行のアナリスト、アンディ・ペマン氏に今回の買収について聞いた。
UBSはプライベートバンキング専門の子会社3行と投資顧問会社GAMをチューリヒのベアーに売却すると発表した。売却が完結するのは12月になる。この買収に伴いベアーは増資し、その後、UBSはベアーの株式の21.5%を所有することになる。ただし、ベアーの経営に立ち入るものではなく、株主としての投票権はない。
swissinfo : 今回の買収は、スイスの金融界にどのような影響を与えますか。
アンディ・ペマン : 国内でスイスの銀行が実力を確実に高め、競争力を養ってきたことは明らかです。今回の買収は、資産運用業務が集中化している動きの一つと見ることができます。以前からこうした傾向はありましたが、今後も続くでしょう。スイスの投資家はこれを、良いものとして受け止めるべきでしょう。
ベアーにとって、この買収の戦略的意味をどう見ますか。
これまでのベアーの経営規模は大でも小でもない、どっちつかずの大きさだと言われてきました。2000年に株式市場の暴落があってからは特に、ベアーはこの問題に悩まされ続けたのです。大手のUBSやクレディ・スイスがプライベートバンキング部門で成果を上げている一方で、ベアーは運用資金の規模が小さすぎたため、業績は上がりませんでした。
過去の例から見ても、ある程度の規模になると銀行は、たとえばマネーロンダリング対策にかかるコストなどが一本化されるなどして、経費が縮小し、効率が上がります。また、顧客のニーズに合わせ、商品を多様化する必要があります。こうした考え方からベアーは買収を決心したのだと思います。
UBSにとってのメリットはありますか。
UBSのような大手にとっては、売却額は同行の純利益の4%にしか満たない小さな取り引きです。興味深いのは、UBSがプライベートバンキングにあまり重きを置いていないということで、売却金を得る方がより多くの儲けがあると見たことでしょう。たとえば、アジア系金融機関とのジョイントベンチャーなどが有望だとみているのかもしれません。
この買収でUBSは、その戦略方針を世界に示したといえます。ベアーを買収することにも、その経営に介入することにも興味がないということです。プライベートバンキングに興味がないのなら、不必要な部門は売却するという明確な戦略の表れです。
UBSはベアーの経営に介入しないと言いますが、UBSからベアーに移籍する人もいます。買収を機会に、ベアーの最高経営責任者(CEO)にSBCウェルス・マネージメント社のハンス・デ・ギーア氏が、UBSのデビット・ソロ氏もベアーに移籍するという人事をどう見ますか。
ハンス・デ・ギーア氏はUBS生え抜きですね。こうした人事はベアーの経営の継続を保証するものであり、ベアー内の改革にもつながることだと思います。経験豊かな銀行家は、行内の弱点を見極めることに長けているはずです。
ベアーは近年、他の同等の金融機関と比較し、業績は振るわないままでいます。新経営陣が本領を発揮するまで時間がかかるかもしれませんし、顧客も一定期間は動きを傍観することでしょう。しかし、それは一時的な問題でしょう。
ベアーは買収資金の調達のため24億5000万フラン(約2170億円)の増資を計画しています。この点についてはどうでしょうか。
市場との兼ね合いです。プライベートバンキングは現在のところ好調ですから、買収によりベアーが投資顧問業務の専門金融機関として大プレイヤーとなり、業務環境もよりレベルアップすることでしょう。
新しい経営陣は好意的に受け入れられていますから、相乗効果も期待できると思います。資本市場に対してはある程度楽観できると思います。よって、増資はベアーに有利な条件で進むと思います。
swissinfo、 ロバート・ブルークス 佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳
<ベアーによるUBSのプライベートバンキング部門買収>
買収額56億フラン。
新ベアーの運用資産は2700億フランへ。
UBSはこの売却で35億フランの利益を計上する見込み。
ベアーは人員1割カットの計画。
ベアーが買収したUBSの子会社は投資顧問専門のプライベート銀行。
売却された会社:
アルマンド・フォン・エルンスト
フェリエー・ルラン
バンコ・デ・ルガノ
GAM
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