スイス、EU拡大で農産物の輸出市場拡大狙う
欧州連合(EU)が来月、東欧など10カ国を新たに加えて25カ国に増えるのを機に、スイスではチーズなど主力の農産物の輸出市場が拡大すると期待されている。
一方、品目によっては安価な輸入農産物の増加も予想されるため、スイス連邦農業局は規模拡大などで国内農業の経営を効率化させ、輸入品との価格競争に対抗できるだけの競争力を付けさせたい考えだ。
スイス政府当局は、構造改革の一環として今後4年間で総額140億フラン(約1兆1,480億円)にのぼる農業予算を計上する。
強まる自由化圧力
スイスの農業は今、大きな岐路に立たされている。農産物の自由化をめぐり海外からの圧力が強まっているからだ。
農業のあり方に決定的な影響を与えるのは、世界貿易機関(WTO、本部ジュネーブ)で決まる貿易ルールと、2国または地域間で結ぶ自由貿易協定(FTA)となる。このうち、WTOで現在行われている多国間交渉は、参加各国の思惑で協議が難航し、当初の目標だった今年末までの交渉妥結は絶望視されている。
それを横目に手っ取り早く貿易の自由化を進めようと、現在FTA交渉が各国で加速。スイスはEUに加盟していないため、EUとFTA協定を更新しながら、欧州域内の貿易の自由化を進めている。
EUとのFTA協定
2007年までに施行されるスイスとEUのFTA協定では、全ての農産物の関税を段階的にゼロにして双方の市場が開放されるほか、農産物の輸出補助金撤廃を目指している。
これにより、ミルクなどEU産の安い農産物がスイス市場に入り、国内の価格競争が激しくなり農家収入を圧迫するなど、スイスの農業を取り巻く環境はさらに厳しくなると予想される。
一方、国内の農業団体は、EUとのFTA協定が欧州向けスイス産チーズの輸出を拡げるチャンスになるとの期待も寄せる。EUに入る新加盟国で消費者の購買意欲が高まっており、高品質のチーズの需要も伸びるだろうと見ているためだ。
ただ、地理的条件でみると山岳地帯であることなど、スイスの農業は競争に不利な状況にあることに変わりはない。スイス農協のハイディ・ブラボさんは「経営規模を拡大して効率化を図りながら、ニッチ(すき間)市場の開拓が欠かせない」と話している。
スイス国際放送 アンドレアス・カイザー 安達聡子(あだちさとこ)意訳
5月に新たに欧州連合に加盟する10カ国:
ポーランド、チェコ、ハンガリー、リトアニア、ラトビア、エストニア、スロバキア、スロベニア、キプロス、マルタ
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