経済格差広がるスイス社会
スイスでも年々貧困層の増加が心配されている。この傾向が社会に与える影響を社会学者に取材した。
連邦統計局の最近の発表によると、スイスの貧困層は100万人、人口の7人に1人だ。2004年には8人に1人の割合だった。
ジュネーブ大学の社会学者で州議員でもあるピエール・ヴァイス教授と、同大学社会学部学長のフランツ・シュルトハイス教授に今後のスイス社会について聞いた。
swissinfo : スイスでは経済格差が広がっており、今後失業率や社会福祉コストが倍増することが懸念されています。お二人は現在、社会不安が高まっていると思われますか?
ヴァイス : 一般的に言って、1990年代から市民の生活水準はずっと上がってきましたがどうやら最近になって良い時代にも終わりが来たようです。一方で社会福祉国家として健康保険にかかる予算は1970年代から変わらず増加を続けています。
結果的に市民全体の負担が多くなっており、このため消費も減っています。けれど、どこの時点で見るかで評価は変わります。50年前の生活水準と比べたら、現在、状況が非常に悪くなったとはいえないかもしれません。
シュルトハイス : けれども、人々の不満が増えていることは事実ですね。スイスは比較的恵まれているのですが、雇用市場は今後も不安定になっていくでしょうし。近隣のフランスやドイツ、イタリアはひどい状況ですが、スイスはそこまでいっていません。しかし、程度はどうであれ、不満の根っこは同じです。賃金は低いままなのに、生活費は上がっていくのです。
このカテゴリーに入る人々は年々増えています。彼らはさぼっているわけではなく、必死で働いているのに、毎月の家賃や電話代、保険料などを払うことができないのです。
swissinfo : 昔より生活が苦しくなったと考える人が増えているように思えるのですが。
ヴァイス : 現実と人々の感じ方の間に差があるのは興味深いことですが、今後が心配ですね。
シュルトハイス : スイス全土で不安感が広がっている一方で、今まで享受できていたサービスや生活レベルを維持できなくなっています。これは対策を真剣に考えなくてはいけない危険なシグナルだと思います。
swissinfo : 社会の不満が爆発する限界線というものはあるのでしょうか。また、本当に社会が崩壊する前に、人々はどれくらいの期間を耐えることができるのでしょう。
シュルトハイス : 貧困層が急激に増えた19世紀に、あらゆる角度からそのような研究が成されましたが、予測が当たったことはありません。だから私もここで同じ試みはしないことにしましょう。
けれども、社会の経済格差を是正することができなければ、なんらかのしっぺ返しがあるということだけは言えるでしょう。決定的な社会的敗者は、心理的に問題を抱えたり、悪くすれば精神的におかしくなったりします。これは当事者の家族にも深刻な影響を与えてしまいます。
近い将来にスイスで不満が爆発して革命が起こるというようなことはないでしょうが、私たちはこのような直接的でないしっぺ返しを覚悟しなければなりません。
ヴァイス : 労使の社会契約的な視点から言えば、労働条件などから言っても現在の状況が理想的だとは到底言えません。現状に不満を抱えているシグナルは、社会のあちこちに見ることができます。これを無視し続けることはできません。
政治は両極端に行っている傾向があります。右派の国民党と左派中道の社会民主党は連立内閣の中でも票を伸ばしていますが、これはお互いに反対の主張を繰り広げているからです。
しかし、政府が適切な政策を行うことができれば、これ以上不満が先鋭化することはないでしょう。
swissinfo、ピエール・フランソワ・ベッソン 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
有力人道支援団体のカリタスは社会保険システムを改善するよう、緊急声明を出した。
世界の平均富裕層の年収(出所:世界銀行):
スイス 81万7000フラン(約7400万円)
デンマーク 72万5000フラン(約6500万円)
スウェーデン 64万7000フラン(約5800万円)
米国64万6000フラン(約5800万円)
ドイツ 62万6000フラン(約5600万円)
ネパール 4800フラン(約43万円)
エチオピア 2480フラン(約22万円)
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