9・11に引き続き起きた事件の数々、どう対処したのか

9・11当時の連邦大統領(環境・エネルギー相兼務)、モリッツ・ロイエンベルガー氏 Keystone

2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ事件後、スイスでは悲惨な事件や事故が異常なまでに続いた。

このコンテンツは 2011/09/10 15:00
ゲアハルト・ロプ, swissinfo.ch

ツーク州での銃乱射事件に始まり、ゴッタルド道路トンネルの火災事故、クロスエアー旅客機の墜落事故などが立て続けに起きた。9・11当時の連邦大統領(環境・エネルギー相兼務)、モリッツ・ロイエンベルガー氏に話を聞いた。

swissinfo.ch : 2001年の秋、あなたはスイスの連邦大統領を務めていました。9・11をはじめ、その後スイス国内で起きた数多くの悲劇的な出来事をどのように受け止めていましたか。

ロイエンベルガー : 連邦大統領の私にとってそれは大きな政治的挑戦だったが、私はその挑戦を受けたいとも思った。国の代表者である私に何が要求されているかをその都度理解した。一つ一つの事件だけでなく、その積み重なりが多くの人びとを絶句させ無力感に陥れた。スイスのような直接民主主義の国でも、こうした状況下では連邦大統領が象徴的な存在として国民の気持ちを代弁することを期待される。

swissinfo.ch : つまり「子どもを慰める父親」的な役割を果たさなければならなかったということですか。

ロイエンベルガー : そう言うと家父長的な響きがあるかもしれないが、まさにそういうことだ。人々は強い感情に揺さぶられているのにそれを言葉にできないでいる。彼らは自分たちの代わりに誰かが語ってくれることを望んでいた。

swissinfo.ch : 9・11当時「こんなことはありえない・・・」と思いましたか。

ロイエンベルガー : ・・・ニューヨークの映像には本当に目を疑った。SF映画を見ているようだった。そして、その後に起きた事件や事故の数々が、ついに私に「いったいいつまで続くのか」と公の場で言わせた。これは一部のメディアからは政治家としてあるまじき発言と非難されたが、多くの人びとが同じように思っていたため逆に歓迎された。

swissinfo.ch : 数多くの恐ろしい出来事の中で個人的に一番辛かったものは何ですか。

ロイエンベルガー : 個人的にはツーク州議会で起きた銃乱射事件が一番堪えた。私は床にまだ血痕が残る生々しい事件現場を訪れた。そこには遺体が並んで横たわり、そのうちの数人は私も知る州議会議員だった。これはスイスの直接民主主義に対する攻撃だった。

swissinfo.ch : 何千人というアメリカ人の死よりもツーク州議会議員の死の方が重かったということですか。

ロイエンベルガー : これはごく人間的な反応だと思う。知人が巻き込まれた身近な事件の方が、大西洋の反対側で起きた不幸よりも強い衝撃を与えるものだ。だからといって、アメリカの友を軽んじるわけではない。

swissinfo.ch : ツークの事件はスイスに何をもたらしましたか。この事件はスイスを変えましたか。

ロイエンベルガー : ツーク州政府は再発リスクを回避する目的で犯人とその動機を分析した。その結果、例えば州政府に不満を抱く市民を考慮してオンブズマンの役職が導入されるなど、州政府は責任を取ろうとした。また、安全面の充実も図られ、いくつかの州と連邦政府は議事堂の警備を強化した。

swissinfo.ch : 連邦政府の場合は随分時間がかかりました。

ロイエンベルガー : 連邦政府はとにかくいつも時間がかかる。この議論には実に2年も要した。さらに面白いことは、決定したはずの安全措置がその後さらにもう一度議論されたことだ。安全規定を強化すべきかどうかという案件に対し、連邦内閣は僅差で賛成可決した。このことは、政治的な最高機関ですら時間がたてば、危機意識が薄らぐということを示している。

swissinfo.ch : 次にスイス航空について。ここでは1人の犠牲者も出ませんでしたが、スイスにとってある意味トラウマとなる出来事でした。

ロイエンベルガー : その通りだ。ただ、2001年の秋を振り返る際に、スイス航空の事件が人災の一つに数えられることに私は違和感を覚える。スイス航空の件はまったく質が異なる。

当時、私はスイス航空の問題を突き放して見ていて、政府がスイス航空の救済に乗り出すべできはないと考えていた。しかし、スイス航空が運航不能になったその瞬間、私はそれまでの考えを改めた。どれだけ多くの従業員や下請け業者が犠牲になったかということを認識した。現実が私たちの目を開かせ、思い込みを一掃するということは時としてある。

swissinfo.ch : その後、ゴッタルド道路トンネルの火災事故とバッサーズドルフ(Wassersdorf)付近での飛行機墜落事故が起きました。連邦環境・運輸・エネルギー・通信相(UVEK/DETEC)を担当していたあなたにとってはこの事件も管轄区内でした。当時、どんなことを考えましたか。

ロイエンベルガー : ゴッタルドの事故はトンネルの利用に伴うリスクの問題だ。私たちはこのことを率直に認めるべきだろう。このような事故のシミュレーションは何度も行われていた。救助チームもこうした事態に備えていたため非常に手際よく対処した。

クロスエアーの場合のような飛行機墜落事故も、私たちが手にした移動性が持つリスクだ。公判では無罪判決が下されたが、この事故はミスから起きた。私には責任の所在を追及する権利はないが、パイロットの人選を責める気持ちは残っている。

swissinfo.ch : リスク社会が請け負う事故ということですね。こうした複数の事件や事故には関連性があると思いますか。

ロイエンベルガー : 当時、少なくとも9・11とツークの銃乱射事件に関連性があるかどうかを考えた。もしかしたら、テレビで何度も繰り返し映されたビルの崩壊映像やビルから飛び降りる人間の映像が、ツークの犯人のような病んだ人間の衝動を抑制できなくさせたのかもしれない。犯人は不満を持った政治的右派の支持者だった。ただ、ここで右派政党の過激な主張と事件の関連性を認めようとは思わない。それはあまりにも短絡的だ。しかし、こうした議論をはばかってはならない。ノルウェーの連続テロがツークの事件を思い出させたことは確かだ。現在ノルウェーでも同じような議論が交わされている。

swissinfo.ch : 大惨事は社会の結束を強くするとよく言われます。実際にそうだと思いますか。

ロイエンベルガー : 確かにそうだ。ツークの場合は特にそうだった。事件の生存者を訪問した際、こうした結束を感じた。団結しようという意思がスイス全国で見られた。

swissinfo.ch : 当時、何度も弔辞を読むことになりました。ふさわしい言葉を探すのに苦労しましたか。

ロイエンベルガー : そのような言葉はきちんと準備されていなければならない。感情が高ぶっているときは自分の思うままに語ることはできない。ツークの事件現場に向かったとき、例えば私は精神科医でもある友人に電話を掛け、いろいろ話し合った。狼狽と同情だけでは不十分だ。

swissinfo.ch : 2001年から10年たった今年も事故や大災害、そして、人びとの心を掻き乱す事件は世界中で起きています。津波、フクシマ、無数の死者を出している北アフリカ諸国の政治的蜂起、アフリカの飢饉などが思い当たります。多くの人たちはもうニュースを聞きたくないと思ったり、無意識のうちにこうしたニュースを避けようとしています。こうした人たちのことを理解できますか。

ロイエンベルガー : 潜在的な犠牲者としてこうした事件に一喜一憂する一般の人たちと政治家を分けて考える必要があると思う。幸せに暮らしたいと思う人は常に悲惨な出来事を考えているわけにはいかない。そんなことをしていたら神経症になってしまう。不幸なニュースに狼狽しながらも、そこからまた距離を置こうとする人たちの気持ちは理解できる。

しかし、政治家となると話は別だ。政治家は結論を導き出さなければならない。先ほどの連邦議事堂における警備強化がその例だ。政治家がリスクに目をつぶることがあってはならず、政治家はリスクを組織的に排除しなければならない。

2001年の惨劇の秋

9月11日:アメリカで同時多発テロ事件が発生。飛行機3機による自爆テロでアメリカは血の海と化し混乱が巻き起こった。4機目の墜落も含めると、ニューヨークとワシントンではおよそ3000人が死亡した。

9月27日:ツーク州議会での銃乱射事件。被害者14人と事件直後に自殺した犯人を合わせた15人が死亡。

10月2日:スイスを代表する航空会社スイス航空(Swissair)は経営難のため世界中の空港で運航不能(グラウンディング)に。

10月24日:ゴッタルド道路トンネルでトラック2台が衝突し火災が発生。11人が死亡。

11月24日:航空会社クロスエアー(Crossair)のベルリンとチューリヒを結ぶ旅客機がチューリヒのクローテン空港に近いバッサーズドルフ(Wassersdorf)付近で墜落。乗客・乗員33人のうち24人が死亡。

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モリッツ・ロイエンベルガー(Moritz Leuenberger)氏略歴

ロイエンベルガー氏(65)は1995年から2010年までスイス政府の閣僚を務めた。連邦環境・運輸・エネルギー・通信相(UVEK/DETEC)を担当。2001年と2006年には連邦大統領に就任。左派の社会民主党(SP/PS)の党員。

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