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マネーロンダリング取り締まり スイスの実態

マネーロンダリングの舞台となるのは銀行ばかりではなく、弁護士から宝石商までお金に携わる業種に広がっている。クリストフ・バルジガー撮影 swissinfo.ch

スイスの銀行や保険会社が、犯罪に関係する資金を洗浄すること(マネーロンダリング)に利用されていると常に話題となっている。スイス当局は、マネーロンダリング防止法により、こうした資金について、疑わしいと思われる場合はすべて、報告の義務を課すなどしてこれを取り締まっている。

1998年までは銀行のみに報告の義務が課せられていたが、現在は金融機関全体に同じ義務が課せられている。改定後も、違法なケースが多く出現しており、担当のマネーロンダリング管理局の役割が問われている。

マネーロンダリングといえば、主に外国の独裁者や犯罪組織の「汚れたお金」を綺麗に洗浄することが思い浮かぶ。特にスイスでは、銀行顧客の情報をむやみに外部に漏らさない「守秘義務」が課せられているため、これを逆手に取り、犯罪資金をクリーンにするほか、脱税などに利用する人もいる。これを取り締まっているのがマネーロンダリング管理局。6年前には、取り締まりの対象を銀行から保険会社、カジノなどに広げたがその成果は上がっているのだろうか。

ヤクザ、石油王、そして政治家

 日本のヤクザ、五菱会(ごりょうかい)系の組織に所属し、「ヤミ金融の帝王」と呼ばれた梶山進被告がスイスの銀行口座に預けた資金が昨年末、凍結された。チューリヒ州検察局が凍結した金額は、6,100万フラン(約51億円)。ほとんどがヤミ金融で違法に得た収益と見られる。

 6月9日には、スイス大手銀行のクレディ・スイス・香港の元幹部が、組織的犯罪処罰法違反で日本の警察に逮捕された。同容疑者は、梶山被告と共謀して46億3,500万円分の割引金融債を同行の口座に入金し、資金を隠したと見られている。

 また、米経済誌フォーブスの長者番付では26位、資産総額80億ドルというロシアの大富豪、石油大手のユコス社長だったミハエル・ホドルコフスキー氏は、石油輸出に絡む不法行為や脱税の疑いでロシア当局から昨年10月末に訴えられた。スイスの銀行など金融機関にも同氏の「疑わしき」資金、総額62億フラン(約5,270億円)が預けられていることが判明した。スイス国籍のアパティット社との取引代金も含まれていると見られている。同社は脱税および非合法組織への資金提供などの疑いがある。

 ロシア当局の要請を受けスイス検察は本年3月末、口座を凍結したが、逆にホドルコフスキー被告の弁護団に訴えられていた。連邦最高裁判所は6月16日、このうち20億フラン(約1,700億円)について、凍結の解除命令を下した。

 こうした犯罪や脱税に絡む資金のほか、政治家の私服を肥やすためにもスイスの銀行が使われる場合がある。パレスチナのヤセル・アラファト議長が3億フラン(約255億円)をスイスのプライベート銀行に預金していることが、6月10日付けのドイツ語圏の経済週間新聞キャッシュで報道された。

 同紙によると、1997年5月2日、ラマラのアラブ銀行にパレスチナ自治政府の公式便箋を使った書面でジュネーブの口座へ1,600万米ドルの支払いの指示があった。その後、同ルートで900万米ドルの送金が何回かあった。同資金は、ヘッジ・ファンドや有価証券、企業への資本参加などに投資されたという。しかし2002年2月18日、口座からお金はすべて引き上げられた。1993年の暫定自治宣言(オスロ合意)以来、直接資金援助として5,000万フラン(約42億5000万円)以上のお金がパレスチナに流れたが、「アラファト議長が立場を利用して、個人の財産を増やしていったことは間違いがない」と同紙は見ている。 

撲滅にはほど遠い スイス当局の戦い

 スイスの金融機関はマネーロンダリング防止法により、入金があった場合、組織犯罪などに係わっている疑いがあるだけで、当局へ報告する義務がある。銀行のみに課せられていたこうした義務を1998年4月から、保険会社やカジノにも課せられるようになって6年が経つ。

 マネーロンダリング管理当局は年間、数百件のマネーロンダリングの疑いがある資金の流れを調査しているが、2003年に営業差し止めとなった機関は7件だった。「件数が実態をあらわしているわけではない」と語るのは、同管理局のディナ・バレギール氏。3年前から、銀行以外の金融機関を担当する。マネーロンダリングとしての事件が管理局から摘発される件数は少ないが、これは「各金融機関が、顧客情報を徹底して集めるようになったため。マネーロンダリングが目的の客は、受け付けなくなっている」と今の制度が効果的に機能していると自信がある。

 通常、管理局は企業の届け出リストや新聞などの報道を通して、違法行為を発見しているが、警察などの関係当局および個人の通報も寄せられるという。

 今後の課題としては、不動産業界、宝飾取り扱い業、画商、公証人や弁護士に対する報告義務の徹底が挙げられる。

 それでも起こるマネーロンダリング。金額が高いことや、摘発された人が世界でも有名な人であることが多いスイスのマネーロンダリングは、常に世界から注目を浴び続けるであろう。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

2004年6月9日に逮捕されたクレディ・スイス・香港の元幹部は、2006年3月22日にあった東京地裁の判決公判で無罪となりました。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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