「ブナ サイラ」 ロマンシュ語
人口の0,5%、3万5千人しか使用されていないスイスの第4国語であるロマンシュ語。この度、英国の言語学者が英語とのオンライン辞書を完成、今後、ロマンシュ語への理解を深めるのに役立ちそうだ。
現在のところ、オンライン辞書は4300語収録しているが、数ヶ月後には2倍に増やす予定。紀元前にローマ軍がアルプスを越え、征服して以来、外界から孤立して生き続けた「化石言語」と言われるロマンシュ語は消滅の危機に瀕していると言われるが…
化石言語が国語に
ロマンシュ語は約2千年前から、スイスとイタリア国境沿いのアルプスで話されていた言葉で、言語学的分類でのレト・ロマンス語群の「レト」はケルト系レト族を指している。このアルプス先住民族の言葉がローマに支配されラテン語化され形成された。そのロマンシュ語がスイスの国語になったのは第二次世界大戦前夜の1938年、ムッソリーニのイタリアがロマンシュ語を「イタリア語の一方言」と主張し、グラゥビュンデン州の征服を狙ったのに対し、スイスはロマンシュ語を第4の国語として、イタリアの動きに対抗したという政治的背景がある。
ロマンシュ語ってどんな言語?
響きはイタリア語に近く、ラテン語の古い形のままの単語や言い回しを多く残しているがイタリア語ほど母音過多ではなく、言語学的にはフランス語の方が近い。さらに、ロマンシュ語だけでも5つの方言がアルプスの渓谷ごとに分かれており、1982年に初めてロマンシュ語として標準化された。
連邦政府は1996年に憲法の言語条項を改正し、ロマンシュ語を公用語に格上げするなどこの少数派言語の保護に力を入れているものの、観光業でなりたっている山岳地域ではドイツ語や英語を話せないと就職は難しく、ロマンシュ語は衰退の危機にあると言われている。
どうしてロマンシュ語?
英国出身の通訳兼言語学者のマイク・エヴァンス氏(52)氏はドイツに住んでいた10年前からロマンシュ語を始めた。エヴァンス氏は「私がロマンシュ語を始めたときは英語の辞書もなかった。この辞書が母語がロマンシュ語で英語を習いたい人にも役立てば」と語った。ロマンシュ語保護、普及団体であるロマンシュ同盟のヴェルナ・カリジエ氏も「ロマンシュ語使用者はこれまでドイツ語を通して英語を習っていたので大変役に立つ」と喜んでいる。
エヴァンス氏がロマンシュ語に興味を持ったのはスイスのロマンシュ語圏で休暇を過ごすようになってから。ロマンシュ語の醍醐味は「言語の音、歴史的文化的深み、欧州言語のなかの位置など」と言い、「プロジェクトはお金儲けにはならないが、自分のロマンシュ語勉強に役立った」と語った。
スイス国際放送、 屋山明乃(ややまあけの)
<ロマンシュ語>
– スイスでは南東部のグラゥビュンデン州、アルプス北部の渓谷など限られた土地でしか使用されておらず、使用人口は3万5,000人(2000年の連邦統計局の国勢調査による)。1990年の国勢調査の3万9,600人(0.7%)からさらに減少傾向にある。
– ロマンシュ語といっても、渓谷によって24種もの方言があり、書き言葉も5種類ある。スルセルヴァン(グラゥビュンデンの北), ストセルヴァン(南), スルミラン(中央部), プテール(オーバーエンガディン地方)とヴァラデール(ウンターエンガディン地方) の渓谷ごとに分かれており、オンライン辞書も地方による微妙な違いを記載している。「ロマンシュ語」として統一(標準化)が図られたのは1982年になってから。
– ロマンシュ語はラテン語の古い形のままの言葉を多く残しており、言語系統はインド・ヨーロッパ語族ロマンス系言語のレト・ロマンス言語群の一つに属する。言語の響きはイタリア語に近いがフランス語に近い言語だ。この他、ロマンス語の古い形態を留めたレト・ロマンス語の言語群には北イタリアのドロミテ山岳地帯のラディン語、イタリア北東部のフリウリ語などがある。
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