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ピアジェ スイス高級時計はなぜ売れるのか

時計と宝石を組み合わせたピアジェの腕時計. Piaget

2005年には123億スイスフラン(約1兆1300億円)という記録的な輸出額に達したスイス時計産業。これらのスイスブランドが世界の高級時計市場を独占しているといっても過言ではない。

その多くの高級時計ブランドを所有するリシュモン・ジャパン・グループのブランド、ピアジェ(Piaget)のスイス人ビジネスマンにインタビュー。

 スイス時計産業を支えているのは何といっても高級時計だが、日本はスイス時計の輸出先3位に位置するお得意さんだ。ピアジェにとっても売り上げの17%を占める日本市場は大切な顧客だ。その日本戦略を聞いてみた。

 ピアジェは日本で高級時計とジュエリーと同じくらい売れているので、「ピアジェ」の名前をジュエリーメーカーと思っている人もいるに違いない。しかし、ピアジェはスイス発祥の多くの伝統的時計産業と同じく、1874年にジュラ州に創業した時計職人が作った家族企業から始まった。

swissinfo : カルティエ、ジャガー・ルクルト、ボーム・アンド・メルシェ、IWCやヴァシュロン・コンスタンタンなど多くの高級時計を所有するリシュモン・グループにとって日本の市場はどのくらい重要なのでしょうか。

ジャカール : むろん、要(かなめ)市場です。リシュモン・グループの売り上げの30〜40%がアジア・大西洋地域で次に日本が17%そしてアメリカが15〜16%と続きますからね。日本の人は特に高級品が好きなようです。日本人にとっても高級時計イコールスイス時計という認識が根付いているようです。スイスの時計産業の歴史は長いですからね。

swissinfo : なぜ、スイスの高級時計はこんなに強いのでしょう。

ジャカール : スイスの高級時計の正統性は長い歴史、伝統と技術に支えられています。高級時計のほとんどが機械式でクオーツではありません。クオーツの腕時計は電子回路が針を動かすため、動きの精度は高いものの、月並みなものです。

一方、機械式の腕時計はぜんまいじかけの歯車が時を刻み、針を動かすため(手巻きと自動巻きとありますが)チクタクの音が聞こえ、動きに生命が吹き込まれます。さらに、カレンダーなど精密で複雑な機械仕掛けが入ってくると尚更、難しくなり長年培われたスイス職人の技術が必要となってきます。

この他、ピアジェなどのジュエリーでもある腕時計には宝石宝飾技術のノウハウも必要になってきますから、「ある日突然、高級時計を作る」というわけにはいきません。

swissinfo : 携帯電話やコンピュータに時間が表示されている今、腕時計を売るのは難しくないのでしょうか?

ジャカール : だからこそ、高級時計がもてはやされるのでしょう。今や、時計は時間を教えてくれるだけではないのです。宝石のような装飾的役割やステータスを示すだけでなく、「完璧なものを求める」といった保持している人の人柄を表すものです。美しいデザインや複雑な機械式のメカニズムの腕時計を買うことにより、職人芸、夢や美学を手に入れるのです。

また、日本人は伝統的に職人に対する尊敬があるので、手で作られたオリジナルピースが重宝されます。日本人とスイス人でクオリティー、精密さや正確さなどといった多くの価値観を分かち合いますから、通ずるものがあるのでしょう。その意味で「スイス製」ということは重要です。

swissinfo : 今まで日本で売られた最も高い時計は何でしょうか。

ジャカール : 実はつい最近、女性客に1億7600万円の腕時計を売ったのが記録です。この時計は5カラットの大きい台形ダイヤモンドが二つもはめ込まれており、全体的にもダイヤモンドが散りばめてある腕時計です。

swissinfo : 日本の消費者の特徴は何でしょうか。

ジャカール : 日本人の消費者は本当に要求の高さでは世界一だと思います。例えば、香港なら消費者が最も興味があるのは値段の交渉です。しかし、日本ではお客さんは虫眼鏡で傷がないかを確かめるほどの完璧を追及します。数時間後には傷がついてしまうかも知れないのでしょうが、購入する時点で「完成品」を買いたがるのです。

swissinfo : 日本の時計市場の特徴を教えて下さい。

ジャカール : 日本では時計販売が特別な環境の中で行なわれるのが大きな特徴です。例えば、香港では時計を買いたかったらお店に行き、交渉をするという単純な形で行なわれます。

日本ではブランドやデパートが企画するフェアーを通して購入が行なわれます。このようなフェアーは通常、高級ホテルで行なわれVIPが招待されます。フェアーは顧客が買いに来るだけでなく、そこは彼らの社交の場でもあるのです。ピアジェでも年に何回かそのような行事を企画し、顧客を食事に招待し、新しい製品を披露します。このようなやり方は本当に日本だけの特別なものです。ピアジェでも「五感」をテーマにこの間、ホテル・グランハイヤットでやりました。

また、デパートに所属している外商や外販が顧客の自宅を訪ねて新製品を売るというやり方もユニークです。売る人と買う人の間に特別な関係が生まれ、そのなかで消費が行なわれるのです。日本では新しい商売の仕方を教わるので僕にとっても新鮮で本当に面白いです。

swissinfo : 日本でビジネスをしていて難しいのは何でしょうか?

ジャカール : そうですね、今言ったとおり、仲介業者が多いことです。ですから、把握するのが難しい市場といえます。また、ブランドと顧客の間に入ってくる人が多いので結果的にむろん、消費者にとっては高くつきます。それでも、特別扱いのサービスがついている日本のやり方が日本人消費者に合っているのでしょう。


swissinfo 聞き手  屋山明乃(ややまあけの)

– リシュモン・ジャパンのピアジェブランドのCEO、ニコラ・ジャカール氏は時計産業の発祥地、ジュラ州出身。香港などの勤務を経て来日、4年目。

– 日本ではピアジェは8店の専門店(銀座、三越日本橋、西武池袋、新宿伊勢丹、横浜そごう、名古屋三越、大阪そごう、新潟伊勢丹)と60件のテナントを通して購入できる。

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