スイスの視点を10言語で

成功者がスイスを語る  ロギテック・ボレル会長

リスクがなければ面白みもなし:ボレル氏がスイスにはっぱをかける. sef.ch

コンピュータ・メーカー、ロギテック社のダニエル・ボレル会長はスイスで最も有名なビジネスマンの1人だ。彼は起業家の星として、ビジネスを起こす誰もが仰ぎ見る存在である。

スイスインフォとのインタビューでボレル会長は、スイスでのビジネスの強みと弱み、そして55歳以上の市民からは選挙権をはく奪するべきだという持論について語った。

スイス生まれのロギテックは、現在コンピュータのマウス生産で国際的に知られるコンピュータ・メーカーである。ボレル氏は、同社の創設のほか、大学ランキング付け会社スイス・アップ(SwissUp)の創設者としても知られている。

swissinfo: もし今、20歳に戻れるとしたら、どんな会社を作りますか?

 ぜひ戻ってみたいね。今の世の中は、私が会社を初めに作った頃よりもずっとオープンでわくわくするような事が一杯あるからね。例えば、スイスに関していえば、バイオテクノロジーの分野で新しい技術や研究が非常に進んできている。あまり詳しくないけれど、ナノテクノロジーの研究もビジネスに繋がる可能性として面白いと思う。

swissinfo: またスイスで起業しようと思われますか?

 どこで起業するかという事は大した問題ではないね。ロギテックの本社は現在カリフォルニアにあるけれど、今でもスイスで素晴らしいエンジニアを見つけることが少なくない。重要なのは、どのくらいの規模、どんな種類のビジネス、誰を顧客にするか、ということをしっかり把握することなんだ。

 資金調達の面でも、スイスはかなりいい線を行っている。もちろん(世界のコンピュータ頭脳が集まった)シリコンバレーとは比べ物にならないが、ここには潤沢な資金がある。だから、スイスでビジネスを開始して、徐々に拡大し、最終的に世界を征服する、というのを目指すのはどうだろう。

swissinfo: スイスの強みは何でしょうか?

 違う分野の技術を掛け合わせて1つの製品を開発する能力に長けていることかな。教育システムの中で、我々は様々な分野に目を向ける訓練を受けている。例えば、学校を卒業したエンジニアは、ソフトウエアからハードウエア、機械技術や光学に至るまで、非常に広い範囲にわたった技術をモノにしている。米国の技術者はこれに比べて狭く深く、という傾向がある。

swissinfo: それでは、スイスが他国と違う特徴は、教育システムといえるのでしょうか?

 その通り。スイス政府は教育を経費や支出と考えるのではなく、未来への重要な投資と捉えるべきだ。充実した教育こそが、我々の生活水準をここまで高いレベルに保っているのだ。スイスは地下資源が豊富にあるわけではないので、付加価値の高い仕事をしなければならない。最も高い付加価値の商品を作れるよう、ベストを尽くすべきだ。

swissinfo: 反対に、スイスがもっと改善するべき点はどんなところでしょうか。

 正直に言って、ここは起業家にとってはあまり良い環境とは言えないと思う。「失敗する」ということをあまり好まない国民性だから、リスクを取ることに臆病だ。また、地域の繋がりが強く、競争社会にさらされていない。人々は自分で起業するより、大きな会社に所属している方を好む傾向がある。

swissinfo: 最近スイス航空が買収されましたが、このようにスイス企業が国際市場の競争に負けるのは、ご指摘のようなスイスの国民性が関係していると思われますか?

 世界は今、すごい勢いで変化している。ここで言えるのは、その変化の中でスイス航空は以前よりも利益を出せなかったという事実があることだ。昔は、かかった経費をそのままチケットの価格に上乗せし、それでも利益が出ていた。しかし、今日はチケットの価格を先に設定してそこから経費がどれくらい使えるか、というようなことを考えなければだめな時代なのだ。よっぽど競争力がないと生き残れない。

swissinfo: 以前、55歳以上の市民は選挙権を剥奪されるべきだとコメントされたことがありますが、なぜそのように思われたのですか?

 今、私は55歳だから、やっと堂々とこの発言ができるというものだ!年を取ると、これまでとは違った視点で世界を見ることになる。私が今日、ある決断をしたとしよう。しかしながら、その決断によってどのような結果になったかを、私は見ないで死ぬかもしれないんだ。だから、私は自らの結果をかぶる若い世代の手に、すべての決断を任せるべきではないかと思うんだ。

 インドのような国では、25歳以下の人口が全人口の5割以上も占めている。このような国とスイスではずいぶん世界の見方が違うのではないかと思う。

swissinfo: スイスの若い起業家に一言アドバイスをお願いします。

 今後のいかなる起業も、グローバルビジネスにならざるを得ないだろう。グローバルなビジネスを考える時、スイスはあまりに小さい。何をやるにしても、世界を視野に入れた経営戦略が必要になってくる。特に君達がニッチビジネス(隙間産業:既存の大きな産業の隙間にある新しい市場を狙ったビジネス)を考えるとしたら。旅をしなさい。世界を発見しなさい。

Swissinfo クリス・ルイス(チューリヒにて) 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

ロギテック社は1981年創業。従業員6,500人。04年4月から05年3月末までの1年間の売上げは14億8,000万ドル(1,590億円)、純利益1億4,900万ドル(約160億円)。本社はカリフォルニア、欧州支社はスイス、ローザンヌにある。

スイスの強みは、幅広い分野が習得できる教育システムである。しかし、一方で、スイスはその閉鎖性から脱却する必要がある。今後のビジネスはいやがおうでも国際的競争となることを知るべきだ。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部