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最低法人税率、スイスに募る危機感

スイスは外国企業誘致に新たな道を模索しなくてはならなくなる? Keystone / Peter Klaunzer

世界共通の最低法人税率導入に向け論議が進む中、多国籍企業の拠点が集まるハブであるスイスの地位に、暗雲が漂い始めた。

このコンテンツは 2021/05/04 08:30

米国が「世界各国は企業への課税率を最低でも21%とすべき」と発言したことで、法人税の国際最低税率導入に向けた動きが強まった。国際会計事務所KPMGによると、スイス各州の平均法人税率は現在約15%だ。

経済連合エコノミースイス(economiesuisse)の税制専門家フランク・マルティ氏はswissinfo.chに対し、「税率が21%になれば外国からのスイス向け投資に歯止めがかかると予想される」と語る。「スイスは天然資源に乏しく、海にも面していない小さな国だ。小国は自らの資産を活用する権利を与えられるべきで、税はその基本だ」

法人税に世界共通の最低税率を課すという構想が浮上したのは数年前だ。だが最近になって、経済協力開発機構(OECD)や主要20カ国・地域(G20)で税率設定への動きに勢いが増した。

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G20やOECDは企業に対し、本社所在地だけでなく利益を上げた国でも課税をするための方策を協議している。こうした措置がもたらす潜在的影響の評価は、詳細の出ていない現時点では難しい。しかし、スイスにとって明らかなのは、売上や利益の大半を国外で生み出しているネスレやロシュといった企業からの税収の損失につながる可能性があるということだ。

マルティ氏は、年内にもG20/OECDレベルで最低税率の合意に至るとみて、スイス政府に対し最低税率15%以下での決着を目指し徹底抗戦するよう促している。

スイスはこれまで「シンプルで明確かつ穏健な解決策他のサイトへ」を呼びかけてきた。ウエリ・マウラー財務相は2年前、OECD案はスイス経済に最大50億フラン(約5千980億円)の損失他のサイトへをもたらす可能性があると警告していたが、改革についての議論は歓迎する姿勢を示している。

今後、企業の課税方法で国際的合意に達した場合、現実問題としてスイスはそれに従うほかない。KPMGスイスのペーター・ユーベルハルト氏によると「これまでのところ最低法人税率に反対している主要国は皆無だ」。

今回提案されている最低税率は、企業の海外利益を対象としている。こうした利益に最低基準未満の税率を適用する国があっても、親会社の所在地国が最低税率まで上積み課税できるというルールがあるため、タックスヘイブン(租税回避地)が提供する税制上のメリットは帳消しとなる。

KPMGスイスは、スイスが多国籍企業に対する求心力を維持する唯一の合理的手段として、企業向けインフラ拡充に投資するよう推奨している。

優位性の損失

2019年末時点でスイスに拠点を置く外国企業グループは約8765社他のサイトへで、雇用者数は50万人以上。総取引高はスイス系多国籍企業の2倍に上る。

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多国籍企業誘致競争におけるスイスの優位性後退他のサイトへの兆しは既に見え始めている。2019年には米大手コンサルタント会社マッキンゼーが、他の国々に追い越されつつあるスイスの現状他のサイトへに警鐘を鳴らした。近年スイスでは、外国の持ち株会社を優遇する法人税の改革を余儀なくされたり他のサイトへ欧州連合(EU)からの労働者受け入れ制限が国民投票で可決他のサイトへされたりするといった動きもみられている。

スイスの高い生活水準や中立性、大学のネットワーク他のサイトへなどは外国から企業や働き手を引きつける他のサイトへ要素だ。しかし、EUとのぎくしゃくした関係他のサイトへは、欧州ブロックへのアクセスを狭めかねない。

「既に物価の高い国」

法人税引き上げが実施されれば、スイスの人件費やオフィス賃貸料の高さを税金の安さで相殺する余地も小さくなる。スイス米国商工会議所のマルティン・ナヴィル会頭は「スイスは既に物価の高い国だ」と言い、こう続ける。「その上、税金まで高くするのはスイスにとってマイナスでしかない。既にスイスに根を下ろした企業が一斉に脱出するとは思わないが、新規進出は減るだろう」

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税率引き上げ構想推進の中心にいるのがジャネット・イエレン米財務長官だ。イエレン氏は最近、米経済紙ウォールストリート・ジャーナルの寄稿他のサイトへ記事で「米国はバミューダ諸島やスイスより税率を下げられるかどうかではなく、有能な労働者、最先端の研究、最高水準のインフラを生み出せる能力で戦うことになる」とし、「十分な数の主要経済国がお互いに税率切り下げをやめ、国際最低税率に合意した時点で初めて、税率面での破壊的な競争が幕を閉じる」と語った。

ナヴィル氏は、イエレン氏は「ちゃんと宿題をしなかった」と言う。つまり、スイスでは、もはや人為的な税率引き下げといった税制上のトリックは用いられていないという主張だ。

同氏はまた、米国が法人税改革に熱心なのは、新型コロナウイルス禍で疲弊した同国経済の再生に数兆ドルも費やしているためだと考える。借金返済には増税が必要だが、米国が企業の税負担を増やすなら、「他の国々にも増税がなければ米国企業が不利になる」というわけだ。

一方、多国籍企業や強国による小国の税収の横取りに抗議の声を上げているスイスの非政府組織(NGO)パブリック・アイは、こうした論調には取り合わない。

アンドレアス・ミスバッハ同NGO広報担当は「最低税率に関する議論の加速は非常に心強い」と話す。

「スイスは、税の優遇措置を使って企業を呼び寄せるという戦略のツケを払うことになるかもしれない。しかし、他国から税収を奪うというやり方が永遠に続かないことは予想できたはずだ」

(英語からの翻訳・フュレマン直美)

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