スイスの有名な風刺漫画家のパトリック・シャパットさんと、伴侶で記者のアンヌ・フレデリック・ヴィッドマンさんは、カリフォルニア滞在中に死刑囚と出会うことができた。ジュネーブでは現在、死刑囚が描いた絵とシャパットさんや他の風刺漫画家の作品を集めた展覧会が開催されている。シャパットさんは「死刑囚は、絵を描くことで精神の健全さを保っている」と語る。
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ジュネーブの下町パキにアトリエを構えるシャパットさんは今、アメリカの死刑囚が収容されている「死の廊下」についての風刺画の仕上げに追われている。そんな彼にインタビューした。
「『死の廊下』のことは、アメリカではほとんど知られていない。この刑がアメリカという国の司法における『神話』になっていてもだ。我々が展覧会で示そうとしている現実は、まだタブーの状態だ。死刑の日まで待つこの廊下は、アメリカの忘れさられた地下牢のようなものだ」と、シャパットさんは言う。
こうした現状から、「ほとんど知られていないこの世界への窓を開こう」という考えが浮かび、展覧会プロジェクト「死の廊下に開く窓」が立ち上がった(これは展覧会の名前でもある)。そこには、死刑囚たちが自分たちの運命について描いた絵やデッサン、そしてアメリカのメディアで働くトップクラスの風刺漫画家とシャパットさんのデッサンが展示されることになった。
シャパットさんと記者のヴィッドマンさんは2014年、四つの牢獄を訪ね、死刑囚たちから、彼らの「証言」となる絵を入手した。
「ニュースレターを通じて、死刑を待つ約3千人の囚人に、我々のプロジェクトについて説明した。するとそのうち30人が我々にコンタクトしてきた。彼らは、まだしっかりと自分の足で立っている人たちだ。これに対しほとんどの死刑囚は、潰されて植物人間のようになっている。精神を冒されてしまったのだ」と、シャパットさんは説明する。
そして、こう強調する。「出会えた死刑囚たちは皆、現実から遠のく『力』を持っている。アートのお陰だ。刑務所で、デッサンし絵を描くことを学んだのだ。アートは、健全な精神を維持させてくれ、いつか自分の犯罪は見直されるという希望を与えてくれる」。ある囚人がこう言ったと、シャパットさんは続ける。「あなたは、生きていれば希望があると言う。しかし僕にとっては、希望があるから生きている」
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死刑囚 心の中を絵に描く
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スイスの有名な風刺漫画家のパトリック・シャパットさんと記者のアンヌ・フレデリック・ヴィッドマンさんは、カリフォルニア滞在中に死刑囚と出会い、展覧会「死の廊下に開く窓」のために、絵やデッサンを描いてくれるよう依頼した。
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まさにこうした事実が、スイス外務省の支援を受ける、展覧会「死の廊下に開く窓」外部リンクの中に読み取れる。
「集団として人々が共有するイメージにおいて、死刑とは、恐ろしく非人間的で犯罪的な行為だ。犯罪者を閉じ込め、そして最終的には殺す。ほとんどの死刑囚は確かに犯罪者だが、人間なのだ。それに彼らの一部は、間違って死刑囚にされている。彼らの置かれている環境も、ほとんど知られていない。24時間中に23時間も独房に閉じ込められ、孤独にさらされ、そしてそれが数十年も続く」とシャパットさんはコメントする。
「アメリカ人の多くは、死刑をまだ支持している。だが最近、二つのことで考えが揺れてきている。一つは、DNA鑑定のお陰で一連の死刑囚の無実が明らかになったからだ。実際、3カ月に一度の割合で無実が証明された死刑囚が出獄している。二つ目は、2013年~14年に、アメリカの致死薬を欧州連合(EU)がボイコットしたため、刑務所では新しい混合の致死薬を死刑囚に試した。そのため、すぐに亡くならない死刑囚が何人か出て、混乱が起きたからだ」
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風刺漫画家が描く「死刑」の現実
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展覧会「死の廊下に開く窓」では、死刑囚が描いた絵と、ニューヨーク・タイムズなどで活躍する風刺漫画家の作品が同時に展示されている。
スイスの有名な風刺漫画家のパトリック・シャパットさんは、アメリカに滞在し、ニューヨーク・タイムズに風刺漫画を描く仕事を引き受けた。そのときに出会った仲間たちに、「死の廊下」について作品を描いてくれるよう依頼した。
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現在、ジュネーブ外部リンクとモルジュ外部リンクで行われている展覧会「死の廊下に開く窓」では、死刑という事実を通してアメリカ社会の現実が浮き上がってくる。
シャパットさんは言う。「非常に暴力的なアメリカの歴史、宗教、制裁についての『アメリカ人の想像』、アフリカ出身者に対する極端な差別などが、死刑という制度を通じて浮かび上がってくる。実際のところ、アメリカでは、死刑の中で最も一般化しているのが『裁判抜きの死刑』だ。つまり、黒人が理由もなく、しばしば警察官に撃たれて死んでいるのだ」
(仏語からの翻訳&編集・里信邦子)
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スイス人風刺漫画家「直接民主制は時にインターネット上の掲示板のよう」
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スイス国民は、すがすがしいほどの「熱意」を込めて投票に臨む。そう笑いながら話すのは、スイスの風刺漫画家パトリック・シャパットさん。しかし、この15年ほどの間に直接民主制が世論操作をもくろむ人々やポピュリストに利用されるようになったと警鐘を鳴らす。
シャパットさんは20年以上の間、ニューヨーク・タイムズ紙国際版、スイス・フランス語圏の日刊紙ル・タン、ドイツ語圏の日刊紙NZZに定期的に風刺漫画を寄稿し、大西洋の両側で読者を笑わせてきた。
最近、家族とともにジュネーブから米ロサンゼルスに移住。風刺画家としての活動を続ける傍ら、南カリフォルニア大学アネンバーグ校スクール・オブ・ジャーナリズムに研究員として在籍している。
swissinfo.ch: ロサンゼルスに暮らしていて、スイスが恋しくなりますか?
シャパット : それは大げさかな(笑)。ただ、まともなスイスのグリュイエールチーズを買えるところをずっと探しているんだ。米国でその名で呼ばれているチーズはチューインガムみたいでね。それを除けば、スイスが恋しいということはない。私たち家族はスイスを非常に身近に感じている。自分がスイス人だと感じるのに、24時間スイスにいる必要はない。
swissinfo.ch : スイス関連の政治風刺漫画を外国で描くのは難しくありませんか?
シャパット : 頭の体操が必要だ。今住んでいる西海岸はスイスの真逆のようにも感じられる場所だから。
スイスのローカルな問題に疎くなるから、長期的にはたぶん良くないだろう。例えば、一括税のイニシアチブ(国民発議)についての議論に四六時中どっぷり浸ったりすることがない。
だが、長い目で見れば、距離は面白いものだ。数年間ニューヨークに住んだ時にも同じような経験をした。ニューヨーク暮らしの結果、私はスイスの制度と和解し、ずっと身近に感じるようになった。
swissinfo.ch : どういうことですか?
シャパット : 合意の形成、妥協案の模索について理解を深めることができた。当時の私は27歳で、スイスのマイペースな政治制度にいらいらしていた。しかし、距離を置いてみるとより良く理解できるようになった。
スイスを一つにまとめているのがスイスの政治制度だ。だから派手さはないし、何かと時間がかかり、合意も多く取りつけなければならない。スイスは努力によって維持されている国だ。いろいろな仕組みがあってこそ(スイスという国が)きちんと機能し、時には少し前進することもある。少なくとも後退することはない。
swissinfo.ch : シモネッタ・ソマルガ連邦大統領兼司法警察相が最近、直接民主制を称えて次のように発言しました。「バスに乗っていて話しかけられると、いつもその話題になる。人々はこの制度に非常に愛着をもっている」と。あなたもそうですか?
シャパット : ソマルガさんとバスで一緒になったことはないが、もし見かけたら自然と近づいていって、直接民主制の話をしてしまうだろうね(笑)。スイス国外ではよくその話をする。丸ごと説明する必要があるからだ。
外国人に1時間かけて直接民主制について話して、相手が納得したなら、それは説明が悪かったということだ。これは非常に特殊な、独特の制度だ。スイスというこの目立たない奇妙な多言語国家に合わせて作られた制度なのだ。
swissinfo.ch: アステリックスとオベリクス(訳注 フランスの人気漫画「アステリックス」の主人公たち)の秘密兵器は魔法の薬でした。スイス国民の秘密兵器は直接民主制なのでしょうか?
シャパット: 直接民主制は素晴らしい。外国ではそう言われている。特に近年、どこの国でも政府への信頼が揺らいでいるので、人々は直接民主制に魅了されている。
swissinfo.ch: しかし、最近の投票から見て、直接民主制は国を安定させる機能を失い、非合理的でポピュリズムに走っていると批判する声もあります。それについてはどう思いますか?
シャパット: 直接民主制とは、スイス国民が主導権を握る制度だ。政府が国民の指図を受け、時には国民を恐れる国は世界でもほぼスイスだけだ。この国の全権を握るのは、気まぐれで時に少し偏った「スイス国民」だ。スイス人はかなり地味な国民だが、信じられないほど馬鹿なことを言うこともある。直接民主制の問題は、この15年ほどの間に世論操作をもくろむ人々やポピュリストに利用されるようになったことだ。例えば、外国人排斥についての投票など何度もあり過ぎて飽き飽きするほどだ。
swissinfo.ch: しかし、直接民主制やポピュリストといったテーマは、あなたのような政治風刺画家にとってはおいしい題材では?
シャパット: 牛、アルプスの風景、牛飼い、投票箱など、スイスにありがちなイメージは描いても飽きない。
私はポピュリストと同じように、こうしたイメージをあえて使っている。国民党と同党の有力政治家クリストフ・ブロッハー氏は、長年同じ神話を繰り返し語っている。「世界に対する責任から逃れ、常に反対の立場に身を置く一方、利益は全て享受するアルプスの主権国家スイス」という物語だ。
swissinfo.ch : 政権を笑い者にする怖さは全くありませんか?
シャパット : 自分が特に過激だとは思っていない。私よりずっと挑発的な風刺画家もいる。私が心がけているのは、的を射て効果的であること、そして切れ味だ。正直なところ、自分はお行儀が良すぎると思うこともあるくらいだ(笑)。
swissinfo.ch : 多くの人にとって、直接民主制は神聖なものですが、個人的に改善すべきだと思う点はありますか?
シャパット : (2009年の)ミナレット(モスクの尖塔)建設についての国民投票の後、「スイスの有権者はいつも正しい」という考えを批判する漫画を描いた。ある男が、「直接民主制、国民発議権、レファレンダム(国民投票権)、ポグロム(大虐殺)はスイス国民にとって神聖だ」と言っている漫画だ。これはとても挑発的だった。
国民がいつも正しいと思うなら、歴史をひもといてみるといい。それが時に悪い結果を生んだことがすぐにわかる。
投票にかけられるべきでなかった案件もあると思う。後になってそういう意見が出ることもある。このイニシアチブはあれやこれに適合しない、など。大きな問題だ。
直接民主制が、国民が鬱憤を晴らすための道具になってはいけないと思う。投票にかけられる案件については、私たちはもう少し厳密に考えるべきだ。
国民の過半数が賛成するからといって、差別や基本的人権の侵害ができるようであってはならない。そうしたことは起こりうるのだ。ミナレットの件では明らかに、国民はその論点や問題点についてではなく、感情を(表現するために)象徴的に投票した。
もう一つの衝撃的な例は、外国人の帰化を地元住民が決定することもある点だ。(ある自治体では、住民が、帰化を希望する外国人の)写真1枚、その人物についての10行ほどの説明文を見て、その人物が好きかどうかを判断する。バルカン諸国系の名前の人は皆却下された。これは非常に暴力的で、馬鹿げている。直接民主制は時にインターネット上の掲示板のようになる。人々の怒りや気分が、ダイレクトに匿名で表現されるのだ。
swissinfo.ch : 今挙げられた数例は大きな議論を呼んだ問題ですが、他にも何千という投票が全国や自治体レベルで定期的に行われており、それほど議論が分かれるようなことは起きていません。
シャパット : フランスのような短いスローガンの連発ではなく、スイス・ドイツ語圏のような長い政治討論を伴う政治が行われているのは素晴らしいことだ。
スイス人が複雑で専門的な問題を熱心に議論するのも素晴らしい。お隣フランスのメディアは、大統領と愛人がどうした、政治集会で誰が何を言ったと騒いでいる一方、スイスでは政治的議論を一晩中戦わせることもある。
スイス人が長丁場の議論ができることは、間違いなく直接民主制の良い面だ。議論は情熱的とまではいかなくても、時に熱意がこもっている。スイス人は勉強熱心だ。
swissinfo.ch : パリのシャルリー・エブド襲撃事件は、政治風刺漫画家の仕事にどのような影響を与えると思いますか?
シャパット : 私たちは以前と変わらず描き続け、漫画を通じてこの世界の狂気に終止符を打とうと努力する。常に、議論と笑顔をもたらすことを目指す。しかし、今後はこの仕事をしながらも頭の片隅に暗い影が差し、心は重いだろう。以前よりずっと大きな不安を抱えた画家もいるだろう。無邪気でいられた時代は終わったのだ。
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スイス人漫画家「直接民主制は宗教ではない」
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お手本とうたわれるスイスの直接民主制。しかし時に、ミナレット(イスラム教の尖塔)の新規建設禁止案が可決されてしまうような「事故」も起こる。それを回避できるような制度を整える必要性があると話すのは、ヴィンセント・クショールさんだ。スイス人漫画家でベストセラー作家の彼は、社会を風刺するお笑いコンビとしても活躍中だ。
ベストセラーとなった「Institutions Politiques Suisses(スイスの政治システム)」は、クショールさんがコミック作家のミックス&リミックス(Mix & Remix)とタッグを組み、制作した本だ。今回その英訳版である「Swiss Democracy in a Nutshell(早わかりスイスの民主主義)」が出版された。
クショールさんは、社会を風刺するラジオ番組「120秒(120 Secondes)」でお笑いコンビとしても活躍している。1年半前には相方のヴィンセント・フェイヨンさんとともに同番組のライブツアーをスタート。これまでにスイスやパリの舞台に立ち、チケットは完売の状態が続いている。2015年1月からはスイス国営放送(SRF)でもコメディーニュース番組を担当する人気者だ。
swissinfo.ch: クショールさんが執筆したスイスの直接民主制についての著書は、売り上げ25万部を突破しベストセラーになりました。学校関係者やスイスに帰化しようと考える人たちが購入者の中心だそうです。また今回、英語版も新たに出版されました。スイスの直接民主制は人々の関心を引くテーマなのでしょうか。
クショール: 一見するとあまり面白そうなテーマには見えないが、実際のところ、(統計でも結果が出ているように)皆が興味を抱くテーマだということがわかった。物事の本質を簡潔に伝えるように努めれば、人は関心を持つようになり同時に多くの疑問を持つようになる。
swissinfo.ch: 前連邦大統領のディディエ・ブルカルテール氏いわく、スイス人には直接民主制の血が脈々と流れているそうですが、クショールさんにもその血は流れていると思われますか。
クショール: いいえ(笑)。スイスの政治システムはさまざまな要素が組み合わさって成り立っている。直接民主制はその構成要素の一つに過ぎない。
直接民主制は合意形成を促す。レファレンダムによって決議が覆されるのを避けるよう、連邦議会は妥協案を見つけようと努力する。ただしそれが足かせとなり物事の進度が遅れることもあるが。またスイスでは、連邦主義も多文化の共存もとても重要だ。このようにさまざまな要素が集まっていても、安定しているのがスイスの政治システムだ。
スイスの政治システムは他国のお手本になれるものだ。だからこのシステムがもっと世界に知られるようになって、他の国にインスピレーションを与えることができればよいのではと思う。私が自らその良さを広めていく気はないが。
swissinfo.ch: つまり、スイスの直接民主制は他国でも導入可能であると?
クショール: それは、わからない。ここには本当に独特の政治文化があるからだ。
スイスの政治文化には、その成熟ぶりがうかがえる。スイスではこれまでに多くのイニシアチブ(国民発議)が国民投票に掛けられたが、否決されたものの中には、他の国では可決されていたに違いないものもある。法定最低賃金の導入案や有給休暇を増やす提案などが良い例だ。たとえ個人的には支持したくとも、有権者は投票で「ノー」をつきつけるという独特の政治文化がスイスにはある。これは国外からは独特の現象として見られている。
直接民主制がポピュリストにいいように利用されてしまうのではと危惧する人々はいるが、そのようなことが起こったのは過去数回で、非常にまれなことだ。
swissinfo.ch: イニシアチブを提起し、国民投票にこぎ着けるまでの費用に50万フラン(約5790万円)かかることもあるといいますが、それでもなお、スイスの直接民主制はお手本だといえるのでしょうか。
クショール: もちろんだ。スイスでも公的健康保険制度導入の反対キャンペーンに多くの資金が投入されるというような、びっくりするような例はいくつかある。そのようなキャンペーンには立役者がいることは明らかだ。(提案が可決されると)失うものが大きいため、彼らは大金を投じて現状を維持しようとしていたのだ。
この観点からいくと、この政治システムは少しゆがんでいる。だからこそキャンペーンに費やすことのできる資金の上限額を設置し、その透明性を確保する対策をとるべきだ。そうすれば、例えば経済連合エコノミースイスが各々の国民投票にいくら費やしているかを知ることも可能だ。
民主主義をお金で操作することは称賛されるべきではない。個人的には政党はお金の流れを明らかにすべきだ思う。民主主義がお金で買われてしまっては全く無意味だ。
swissinfo.ch: 若い世代の投票率が低下しています。若い有権者たちはその投票案件の多さと複雑さに不満を感じています。この状況はどうすれば改善されると思われますか。
クショール: 確かに案件の中にはときどき専門的なものもあるが、投票案件が多すぎるということはない。民主的でありすぎるために民主制が壊れてしまうということはない。
まずは公民教育が根底としてある。学校は政治や文化について議論する場であるべきだし、人々はもっと公共問題に関心を持たなければならない。社会の細かな仕組みを理解する前に、我々は皆、社会で役割を持って生活し、それは価値があることなのだと理解する必要がある。そうして初めて政治参加への意識が芽生える。
swissinfo.ch: 2014年2月の国民投票で移民規制案が可決されました。その後、ガウク独大統領はスイスの国民投票結果は尊重すると前置きした上で、「複雑な案件の場合、有権者がそこに含まれる意味合いを十分に理解できないまま投票してしまうという危険性が、直接民主制にはあるのだと感じた」とのコメントを残しました。スイスはヨーロッパ各国との関係や、移民、銃の規制や有給休暇の増減など、全ての問題において国民投票を実施する必要があるのでしょうか。
クショール: 移民規制案をめぐる国民投票では、有権者への情報が不足していた。また、全ての問題において国民投票は実施できない。だからこそ特定の対策をとる必要性がある。
移民の流入を規制するか否かはそれほど複雑ではない。「イエス」か「ノー」で答えられる。しかしその結果、複雑な影響が出てくる。そして、その影響の中のいくつかは法に関するものもある。今回はそのようなことが有権者にきちんと説明されていなかった。確信を持って言えるのは、もしこの国民投票が今行われるとしたら、恐らく前回とは違う結果になっていただろうということだ。国民投票が実施される前に十分な情報が有権者の手元まで届かず、欧州連合(EU)との関係にどのような副次的影響をもたらすかということについて、きちんとコミュニケーションが行われていなかったのだ。
swissinfo.ch: スイスにイニシアチブの憲法適合性を判断する憲法裁判所は必要でしょうか。
クショール: 必要だ。我々はイニシアチブの内容をもっと適切に考査する必要がある。その点で体制がまだきちんとされていないのが現状だ。2月9日の国民投票結果はかなり深刻だった。可決されてしまったのはまさに事故で、スイス国内でのモスクの尖塔建設禁止が可決された時と同様、他国との関係に(悪)影響をもたらした。
どの問題にも直接民主制を適応して良いというわけではない。個人的にはスイス憲法を国際法よりも優先すべきだという国民党の意見にも賛成しない。常に有権者が正しいとは限らないし、有権者がミスを犯すことだってある。2月の移民規制案の可決はまさにそれだ。
驚くべきことは、スイスの政治家のほぼ全員が「スイス国民の意見は正しい」と言っていることだ。これには同意できない。直接民主制は宗教ではないし、有権者は神ではないのだから。
swissinfo.ch: アンネマリー・フーバー・ホッツ前連邦事務総長は、大きな政党がイニシアチブを提案することを禁止し、イニシアチブが乱用されないようにすべきだとしています。それについてどうお考えですか。
クショール: 考えとしては非常に興味深い。今世紀始めに国民発議権が導入された当初の目的は、政治家と国民との力のバランスをとるためだった。今日、提案されるイニシアチブの多くはスイスで最も大きな政党(国民党)によるものだ。国民発議権が導入された当初は、このように使われることを目指していたわけではないだろう。どちらにしろ、フーバー・ホッツ氏によるこのような挑発的な提案が取り入れられることはないと思う。
swissinfo.ch: スイスの直接民主制の改善点は他に何かありますか。
クショール: 平均40%というスイスの投票率は悪い数字ではない。しかしこの数字はスイス国籍保持者の40%であって、スイスの人口の40%ではない。
たとえスイスで生まれそこに暮らしていても、参政権がない人が多くいるということを我々は忘れてはならない。これは改善できる点だ。そうすればスイスで生活し、今日のスイスを作っている人々が、その暮らしと発展に参加できる。現在スイスに住む外国人の数は200万人に上るが、その多くが政治システムから除外されているのが現状だ。
もちろん時間は掛かると思うが是非実現させてほしい。スイス国籍を持っているのは、スイス人だけではないのだから。
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