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シリアのクルド人がジュネーブに「代表部」を開設 緊張高まる

国際社会と協調して国際テロ組織「イスラム国(IS)」の打倒に貢献し、何千人ものヨーロッパ人捕虜を拘留しているこのクルド人勢力を無視することはできない Keystone / Uncredited
このコンテンツは 2021/08/29 08:30
Claude Duchêne

どの国からも承認されていない、クルド人勢力によるシリア北東部の自治政体「北東シリア自治局(AANES)」が、ジュネーブに「代表部」を開設した。シリア和平交渉から排除されているAANESの目的は、交渉の舞台となっている国際都市ジュネーブで各方面と関係を築くことだ。トルコは激怒し、スイスは困惑している。

AANESの「代表部」が開設されたのは、ジュネーブの質素な建物内だった。8月9日のこの発表は、外交上の混乱を巻き起こしてる。ヘクマット・イブラヒム局長は、開設の目的を「シリア危機の解決に向けた会議が開催されるジュネーブを中心に、スイスの各関係者とのつながりを強化するため」だと述べた。欧州での事務所開設はこれが初めてではなく、すでにフランス、ドイツ、スウェーデン、ベネルクス三国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)にあるという。

だがこの展開は、慎重さを要すると同時に曖昧なものだ。どの国からも認められていない自治政体の「代表」とは、実際に何を意味するのか?AANESは、シリア内戦の中で2012年に自治権が獲得された地域で18年に樹立された。クルド人を中心に、アラブ人、アッシリア人、キリスト教徒、トルクメン人、ヤジディ教徒など400~500万人が住み、シリア領土の3割を占める地域だ。AANESはその武力部隊「シリア民主軍」を通じて、米国や国際的連立と緊密な軍事協力関係を維持してきた。

イスラム国(IS)の崩壊に貢献したAANESは今、欧州諸国が引き取りを拒否しているIS捕虜の問題に直面している。この夏には徐々に女性や子供たちが解放されたが、国際人権NGO(非政府団体)のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書によると、21年3月時点で、収容キャンプには女性と子供約6万3400人、刑務所には男性1万人と14~17歳の少年700人が収容されていた。捕虜の国籍は合計58カ国に及ぶ。

認識の違い

スイス政府の見解は明らかだ。AANESのジュネーブ代表部は「外交団」ではなく、スイス民法上の「協会」だとみなしている。スイスの法律に反する目的を持たない限り、協会は法的な制約をほとんど受けることはない。

クルド人問題の専門家であるヌーシャテル大学のジョルディ・テジェル教授は、「スイスにとっては協会かもしれないが、クルド人と事務所のメンバーにとっては代表団だ。私たちは認識の違いに直面している」と指摘する。

そして、「これはある意味、『既成事実化』であり、彼らにとってはスイスや欧州諸国、国連や国際都市ジュネーブから交渉相手と認められるための、小さな第一歩だ」と続ける。「1990年代のイラクのクルド人の戦略と同じだ。クルド人はベルンに領事館のようなものを作り、査証(ビザ)まで発行していた。だが今回は、国家として認められることよりも、自分たちの声を聞いてもらうことが目的だろう。そもそもAANESは国家ではないのだから」

トルコは激怒

だがこの「代表部」の開設にトルコは激怒している。AANESはクルド人のみで構成されてはないが、「クルド民主統一党(PYD)」がトップに立っているからだ。トルコによればPYDは、トルコを中心にシリアやイラン、イラクで活動するクルド人武装組織「クルド労働者党(PKK)」の系譜を汲んでいる。トルコを始め多くの国からテロ組織に認定されている。

シリア北東部の人権と人道法のために活動するジュネーブのNGO、「Fight for humanity 」の共同設立者で共同ディレクターのメフメット・バルシ氏は、「トルコは、PYDの武装組織である『人民防衛隊(YPG)』が所属するシリア民主軍を認めていない。スイスがPKK、つまりテロ組織を支援していると非難するが、現実は全く異なる」と述べる。

一方で、ジュネーブ大学のマルコ・サソーリ国際人道法教授は、「あらゆるテロ組織やイスラム主義組織が参加する中で、トルコが反対していることを理由に国連がAANESを交渉の席に座らせないのは言語道断だ」と憤る。「AANESは、あらゆる組織の中で最も行動が良く、最も組織が進み安定した運営をしている政体だ。戦争捕虜を裁判にかけ、飢え死にさせずに拘留するために多大な努力もしている。現地で見ているわけではないが、私の知る限り他のどの組織よりも適切に行動している」

バルシ氏によれば、AANESは行政機関として、医療、教育、国防、外交などを管理し、また、70万人以上の学生が在籍する大学、数十の病院、自治体、刑務所の運営、そして司法もつかさどっている。

捕虜の移送は困難

クルド人問題専門のテジェル教授は、人民防衛隊(YPG)は覇権を握るため、未成年を募兵し、他のクルド人政党を排除しているとして批判を浴びていることを指摘する。「AANESの計画は全ての民族や宗教に開かれ、男女平等を推進するものだという。だが、それは党の方針に従う人に限られている。彼らのイデオロギーに賛同しない者は、地域レベルでも市町村レベルでも行政に携わることができない。明らかに矛盾しているが、結局は、どんな革命においても常に革命者が正しいとされる…」

国際人道法のサソーリ教授は、「ジュネーブか現地かに関わらず、とにかくAANESと対話をする必要がある。スイスが引き取りを拒否している、スイス国籍の市民を拘留しているのは彼らなのだから」と言う。「だが、これは法的には非常に慎重さを要する問題だ。もし彼らが国家によって裁かれたならば、スイスに移送されて刑に服すことができる。だが、AANESのような非国家主体の法廷で裁かれスイスに引き渡された場合は、スイスの法律上その判決が認められないため、釈放を求めることができる」と説明する。

ジュネーブのAANESを代表するイブラヒム局長は、「テロとの戦いや安全と安定の強化など、国際社会と我々を結び付ける共通の問題は数多く存在する」と述べ、テロは国際的な脅威であり、これに終止符を打つためには、シリアの多くのアクターを代表するAANESを含め、あらゆる組織が協力する必要があると主張した。

サソーリ教授は、「背景には、いつかは解決すべきクルド人の自決問題がある。それは必ずしも独立国家を意味するものではない。だがその日が来る前に、米国はアフガン人と同様に、クルド人を見捨ててしまった」と話した。

(仏語からの翻訳・由比かおり)

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