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スイスの都市と田舎の差が他の国より少ない理由

スイスでは田舎と都市が非常に近いことが珍しくない。首都ベルンで撮影 © Keystone / Gaetan Bally

都市部と農村部の投票傾向が異なることはままある。しかし統計などによれば、スイスのライフスタイル・政治に関する都市部と農村部の差は、他国ほど大きくはない。

このコンテンツは 2021/07/18 06:00

かたや進歩的でごうまんな「都会っ子」、かたや保守的で古臭い田舎者――近年、政治アナリストは英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)、ドナルド・トランプ大統領が誕生した過去の米大統領選、フランスの黄色いベスト運動などにコメントする際、この2つの地域の違いをしばしば引き合いに出した。

スイスでは6月13日に行われた国民投票で、都市と農村部の差が再び話題になった。大都市が環境保護に対する3件の提案を支持し、残りの地域が反対に回ったからだ。だが都市と田舎はそんなに違うのだろうか。ライフスタイルはそれぞれの投票傾向にどの程度影響するのだろうか。

都市は田舎を「植民地化」

スイスは農村風景のイメージが強いが、実はその農村部の大部分が都市化されている。人口の大半が都市部、都市圏に住む。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、都市化が最も進んだ国の1つだ。

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連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のヴィンセント・カウフマン教授(都市社会学)は「我々は長い間、都市による農村部の『植民地化』をこの目で見てきた」と説明する。

農村部や中間地域に住む人の多くは、都市部に仕事を持ち、通勤している。農村部に住んでいるのはその住環境が理由だと、カウフマン氏は指摘する。

国の統計によると、雇用10件のうちほぼ9件が都市部に集中する。雇用は農村部でも変容しており、「農家の割合が極めて小さくなっている」という。

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スイスの農村部は医療砂漠ではない

欧州諸国と比較すると、スイスでは都市・地方間を通勤する人が多い。移動距離が短いことと、非常に発達した交通機関がそれを助けている。だが、国土面積が広い国ではそれがより困難になる。カウフマン氏は、フランスの多くの農村地域などでは、スイスのような環境はほぼ実現不可能だと指摘する。

フランスでは数百万人が「超田舎」地域、特にその中心部に住む。これらのエリアは都市から遠く離れ、公共交通サービスが乏しい。一部地域では通信ネットワークさえも不足する。最近の調査によると、人口の10%(特に農村部)が救急病院から30分以上離れた場所に住む。

もう1つの例が英国だ。農村部では最も近い病院まで車で平均26分、公共交通機関で1時間以上かかる。

こうした問題は、スイスではそこまで深刻ではない。域内に診療所が少なくとも1軒ある農村部の自治体は全体の約3割未満、という点は事実としてあるが、公共交通網が発達し、都市部も往々にして近い。農村部でも、最も近い病院からは平均9キロメートル程度しか離れていない(都市部は3キロメートル)。

各国の医療砂漠の実態を分析した国際社会保障協会(ISSA)は、スイスの現状は憂慮するべきものではなく、いかなるボトルネックも都市部との距離の近さで解消できるとする。

カウフマン氏によれば、スイスのような政治権力の分散化はドイツにもみられ、もう1つの「異なる領域の境界を分ける要素」だという。

またスイスには、情報格差を意味する「デジタル・ディバイド」がない。農村部で超高速インターネット接続を使用している世帯の割合は94%と、OECD加盟国内でも極めて高い(EUでは40%強)。欧州連合統計局(ユーロスタット)によると、農村部の人たちの基本的なデジタルスキルは欧州で最も高い水準にある。

持ち家、車が投票傾向に影響

都市部と農村部の投票傾向を分ける要素の1つが家の所有権だ。持ち家率は、都会よりも農村部の方が高い。ヴァリス州の山間部ラーロンでは70%を超えるが、国内平均は37%、チューリヒではわずか9%だ。

2つ目は、通勤での車利用だ。都市部の人々は農村部の人よりもはるかに公共交通機関に依存している。シュヴィーツ、ヴァレー州など農村部の州では、乗用車密度が全国平均を大きく上回る。逆に最も低いのが都市部のジュネーブ州、バーゼル・シュタット準州だ。

カウフマン氏は、これは「私たちの空間理解が全く異なる」ことを意味しており、大きな違いだと話す。政治学者のクロード・ロンシャン氏も、これは「非常に重要な関心の違い」につながり、住宅問題や道路問題、農村の生活一般に影響を与える問題が国民投票にかけられると、如実に表れると話す。

それが6月13日の国民投票にも表れた。3件の環境問題(CO2法、化学合成農薬禁止イニシアチブ、飲料水イニシアチブ)では、農村部と都市部の投票傾向に異例ともいえる大きな差が出た。(次の文と段落は赤字なので割愛)

また、都市部と農村部の間には「アグロメレーション(都市の密集地域)」がある。ここの住民は浮動層で、投票傾向が案件によって変わる。ロンシャン氏は、この生活圏の人たちはライフスタイル関連の案件になると農村部寄りの投票傾向になる、と分析する。6月13日の国民投票でも農村部寄りの投票傾向となり、この2地域で大都市中心部の票数を上回った。

「どこでも」と「どこか」

このような利益関心の違いに加え、都市と農村部の隔たりは、2つの全く異なる世界観に関連付けられることもある。グローバル、ローカルという観点だ。

ブレグジットは農村部では圧倒的な支持を得たが、都市部では反対が上回った。その後、英国人ジャーナリストが英国社会の人口層について、どちらかというと低スキルでグローバル化の恩恵にあずかれない「somewhere(どこか)」タイプと、機動力が高く国際的な「anywhere(どこでも)」タイプに分かれるという考え方を提唱し、これが世界に広まった。

都市計画の専門家であるカウフマン氏も、グローバル化はスイスがこの30年で経験した最も大きな変化の1つだった、と話す。「国の中でもグローバルなネットワークの中で機能する部分と、非常にローカルなままの部分がある。それが課題だ」

ロンシャン氏は、スイスの都市中心部は特定の問題、特に外交政策に関し、農村部よりも「グローバル」な観点に立った投票傾向が出るという。

他の格差の方が大きい

都市と農村、ローカルとグローバルの違いの問題は昔から論じられてきた。ロンシャン氏によると、近年、その隔たりが拡大したと言えるような明確な傾向はない。

スイスで都市か農村かが投票結果に及ぼす影響は1割程度だとロンシャン氏は言う。他の社会学的な隔たり(言語圏、年齢、性別など)もあるが、左派と右派、あるいは革新政党と保守政党の政治的な隔たりが今もなお最も強いと話す。

ただ同氏によれば、いずれにしてもスイスの都市と地方の差は、他国に比べてはるかに小さい。特に、米国のような二大政党制の国と比べるとその違いは明らかだ。

(独語からの翻訳・宇田薫)

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