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諜報活動の新法案、下院で可決 自由の保障と国家安全保障の均衡は?

新法が成立すれば、連邦情報機関の諜報活動が強化される imago

スイスの連邦議会の上院で先週17日、連邦情報機関に今まで以上の諜報活動を許す新法案が可決された。これは安全保障上の懸念からだが、一方で「スパイ活動」を監視する独立機関を加えるなどしてバランスも取っている。新法案は、こうした要素が加わったため再び下院に戻されるが、たとえ下院で可決されても、新法案の「行き過ぎ」を懸念する左派政党などが、国民投票にかける可能性は残る。

 長い議論の末に上院(全州議会)は、諜報活動に関する新法案を賛成32、反対5、棄権2で可決した。下院(国民議会)ではすでに3月、承認されていたものだ。

左派内での議論

 この新法案をめぐる懐疑派と賛成派の主張は、下院でも変わらなかった。スイスでは20年以上前に、連邦警察当局がそれまで数十年にわたり一部の市民を密かに監視し続けていた事実が明らかになり、国民に衝撃を与えた。また最近では、米国家安全保障局(NSA)の、違法の疑いのあるスパイ行為が明らかになったばかりだ。

 こうした事実を挙げ、懐疑派は諜報活動の行き過ぎを批判する。一方、賛成派は、テロリストの台頭に直面する今日、その脅威に立ち向かうためにはこれまで以上に諜報手段が重要になっていると主張する。

 行き過ぎた諜報活動と、安全保障の脅威という二つの懸念のある現状では、どのようにその均衡を保つのかが課題となる。諜報活動に関し多少意見の分かれている左派にとっては、とりわけ困難な課題だ。

 「今日の情報システムと通信環境の極度の発達により、市民に対する計り知れないほどの情報が入手できる。誰かが送ったメッセージの内容を勝手に変更することさえできるらしい。私たちが懸念しているのは、このような情報規模の変化とその質の変化に直面しているという事実だ」と、新法案に対して懐疑的である緑の党のリュック・ルコルドン上院議員は語る。

 一方、同じ左派でも社会民主党(中道左派)のジェラルディン・サヴァリー議員は、新法案に賛成してこう言う。「法律の規制なしに諜報活動が行われたり、諜報活動自体が全くできなかったりするよりは、きちんとした一つの法で統制された諜報活動を望む。今回法案が可決されれば、スイスには諜報活動において世界で最も厳格とも言える法的枠組みができる。国の安全保障に必要なものと、基本的自由との間のバランスは法案に反映されており、改善されている」

より適切な枠組み

 上院は、諜報活動の行き過ぎを防ぎ、また懐疑派を納得させる目的で、諜報活動を政府から独立した監視機関に委任する内容を法案に盛り込んだが、それがどのような機関であるかはまだ決定されていない。

 この独立機関は、下院が可決した法案で想定されている連邦議会監視委員会、財政委員会、連邦国防省、政府という四つの監視体制に新たに追加されるものだ。

 ウエリ・マウラー国防相は上院のこの追加決定を、法の均衡をより適切に保ち、諜報活動に対する国民の信頼を高めるものだとして高く評価した。

マイクと「トロイの木馬」

 「国民の自由を保障しようとするなら、国民の安全も保障しなければならない」とマウラー国防相は表明。そのメッセージは上院で受け入れられた。

 その結果として上院は、諜報機関に今まで以上の捜査・監視手段を認めるこの新たな法案を可決した。この法律を根拠として諜報員は、盗聴用マイクの設置や電話通信の傍受がより迅速に効率的にできるようになり、さらにはパソコンに入り込んで外部に情報送信したりする「トロイの木馬」の使用も可能になる。

 公共の場での監視も認められ、例えば監視目的でのドローンの使用などが可能になる。

 だが上院は、先に下院が可決した法案に、いくらか制限を加えた。例えば、国外の情報システムへの侵入には許可が必要だとし、また諜報活動の厳格な枠組みを超える任務を政府が情報機関に与える権限を制限した。このような変更のために法案は、再び下院で審議される。

レファレンダムの可能性

 このように上院と下院を行き来することから、諜報活動に関する新法案はまだ完全に連邦議会で承認されていない。また、たとえ今後下院で可決されるとしても、懐疑派が、新法案で提案された諜報活動の行き過ぎに反対し、国民投票にかける可能性は残っている。左派陣営の間ではすでに、「詮索好きな国家」を食い止める意思を表明したところもある。ジャン・クリストフ・シュワブ議員は3月に、所属する社会民主党がレファレンダム(国民投票)を提起する可能性が「極めて高い」と話している。 

(仏語からの翻訳・編集 由比かおり)

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