
初の自民党女性総裁に高市早苗氏 スイスのメディアが報じた日本のニュース

スイスの主要報道機関が10月1日~7日に伝えた日本関連のニュースから、今週は、自民党初の女性総裁に選出された高市早苗氏をスイス国内メディアはどうみたか――を要約してお届けします。
自民党総裁選が行われるたび、「今回こそ日本初の女性首相誕生なるか」と注目してきたスイスメディア。その「呪縛」をついに解き放った高市氏は、スイス国内でどう評されたのでしょうか。
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「男女平等の推進に逆行」
ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、南ドイツ新聞東京支局のトーマス・ハーン記者の論説を掲載。初の女性首相誕生がほぼ確実となり「一見すると男女平等の前進のように見えるが、高市氏の政治姿勢を鑑みると、状況は極めて逆だ」と釘を刺しました。
ハーン記者は、高市氏は右派保守系・自民党の中でも最右派で「その日本第一主義の姿勢は揺るぎない」と評価。また、高市氏を支持した保守系の大物・麻生太郎氏には「党の右派強硬派や躍進した新興ナショナリスト系政党の勢力を取り込むためには高市氏が適任」という算段があったと分析します。
「右派の男性政治家の政治的立場を代弁する役割を担わせるために、権力の座に据えられた」とも付言しました。
ハーン記者はまた、高市氏が社会的多様性やジェンダー平等に慎重な姿勢を示してきた点にも言及。「高市氏は以前『平等の推進は家族を基盤とした社会構造を破壊する可能性がある』として反対を唱えた」とし、女性閣僚増員の約束も形だけに終わるのではないかと推測します。さらに「高市氏が強硬なナショナリズムや安倍政権の時代遅れの経済政策を引き継ぐようであれば、日本は再び停滞に陥るおそれがある」と警告しています。
(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)
「最初の関門はトランプ会談」
一方、ドイツ語圏の日刊紙NZZは、東アジア特派員マーティン・ケーリング記者が国内外、特に日本の安全保障政策や対米貿易政策など高市氏が今後抱える課題は山積していると指摘します。
まず国政の課題として、石破茂前政権時の選挙で衆参両院において過半数を失った自民党が安定的な政権を運営するには連立の再調整と保守層の再結集が必要だ、とケーリング氏は指摘します。参政党の台頭もその課題を浮き彫りにしています。
そのなかで「高市氏には右派の論客としての強い発言力と、庶民的な出自という異色の経歴がある。安倍晋三元首相の死後は自民党保守派の象徴的存在となっている」として、右派勢力の取り戻しに期待がかかっていると分析しました。
高市「次期首相」に課せられた最初の大きな関門は、今月末に予定されているドナルド・トランプ米大統領との会談だ、とケーリング氏は指摘します。記事は「高市氏は関税問題において日本の利益を積極的に擁護し、必要であれば再交渉すると約束している。問題は彼女がトランプ大統領とどのような関係を築けるかだ」と結んでいます。
(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
「フェミニスト的アプローチからは程遠い」
ジェンダーの視点から「フェミニスト的アプローチからは程遠い日本の首相」と論じたのは、イタリア語圏のスイス公共放送(RSI)です。
RSIは「自身の更年期障害の経験を公に語るなど女性の健康問題に理解を示す一方で、夫婦別姓や同性婚、女系天皇には反対している」と説明。「ジェンダー問題に関する高市氏の政治的立場はもともと保守的な政党の中でも右寄りだ」としました。
記事は、日本では女性の社会進出は依然世界に遅れを取り、2021年の管理職に占める女性の割合は13.2%とOECD加盟国中最も低く、議会での女性議員も15%程度にとどまっている現状を紹介。「女性議員は性差別的な発言の標的になることも少なくなく、#MeToo運動も日本ではほとんど影響を与えていない」と報じています。
(出典:RSI外部リンク/イタリア語)
「中国、韓国刺激する可能性」
フランス語圏のメディアでも、女性である高市氏の選出は「フェミニズム的な選択ではない」、また日本の右傾化を懸念する見方が目立ちました。
フランス語圏の日刊紙ル・タンは高市氏の人物評を「国防と経済安全保障に重点を置く強硬派として知られている」と紹介。経済面では、安倍政権の政策を踏まえた積極的な金融緩和と財政出動を支持するほか、移民と外国人観光客については厳格な立場を取り、外国人による不動産購入の規制強化を訴えてきたと指摘。「高市氏の躍進は、数十年にわたる自民党からの関心の移行、特に反移民政策を掲げて支持を拡大した新興政党、産業界への関心の高まりと軌を一にしている」と分析しました。
フランス語圏の日刊紙「24時間新聞」は「この過激な国家主義者は韓国、中国を刺激する危険性をはらむ」と評価。「憲法改正や大幅な防衛予算増額を約束しており、1945年以降で最も急速な日本の再軍備化がさらに進む可能性が高い」と読み解きます。
歴史認識では「過去の戦争行為への公式謝罪に反対し、靖国神社への参拝を正当化するなど、ナショナリスト的立場を鮮明にしている」と説明。「こうした高市氏の人物像と過激な政策方針が、中国・韓国との二国間関係を緊張させる可能性がある」と懸念しています。
また高市氏が非核三原則の見直しが必要と発言していることに触れ、こうした強硬な姿勢が東アジア情勢の緊張を高める可能性があるとも述べています。
(出典:ル・タン外部リンク、24時間新聞外部リンク/フランス語)
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校閲:大野瑠衣子

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