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制裁解除後のイランに商機 官民挙げてチャンスに飛び込むスイス

核開発問題を巡る枠組み合意ができたことで、イランに対する経済制裁が解除されるのではないかとの期待が外国企業を中心に膨らんでいる Dietmar Denger/laif

イランが核開発問題の解決に向けて、米英独仏中ロの6カ国と最終合意を結ぶのは6月末とされている。そんな中、西側諸国ではすでにイランとビジネスを再開できるとの期待が高まっている。スイスの企業もイランへの進出を狙っているが、制裁の影響によるリスクはまだ払拭されていない。

 イランと米英独仏中ロ(ドイツ以外はすべて国連安全保障理事会の常任国)が「枠組み」合意を結んだことで、最終合意は現在の状況を打破するような画期的な内容になると外交関係者は期待している。同様に期待を膨らませているのが西側諸国の企業家たちだ。彼らは米国の圧力により何年間も政治的、経済的に孤立していたイランと、公式ルートを通じてコンタクトを取ろうとしている。

 企業家たちがイランに目を向けるのは当然だ。人口8千万人のイランには優秀な高技能者が多く、上流階級には資産家が多い。またガスや石油埋蔵量が豊富で、経済制裁措置が解除されればイラン経済の飛躍が望まれる。

 スイスでは企業だけでなく、連邦経済省経済管轄局(SECO)もイランとの関係改善に乗り出した。企業家や外交官を含むスイス代表団が今月中にテヘランを訪れ、イラン経済の見通しを調査する予定だ。「イラン政府が最終合意やその後の経済制裁の解除に向けて、どのような方針を取っていくのか明らかにしたい」と、代表団の団長で、2013年までテヘランのスイス大使を務めていたリヴィア・ロイ外交官は話す。

 ロイ氏によれば、代表団のメンバーにはSECOの局員や経済連合エコノミースイスが入っている他、様々な分野の企業代表者たちが名を連ねている。代表団は省庁や現地の企業家とコンタクトを取る予定だ。

イランのスイス企業

 医薬・食品分野や、機械や時計などの工業製品は制裁の影響を受けてこなかったため、イランには現在、こうした分野のスイス企業がいくつか存在する。中小企業に限らず、食品会社ネスレ、セメント会社ホルシム、製薬会社ノバルティスなどの多国籍企業もイランでビジネスを展開している。

 今回のスイス代表団にはノバルティスの代表もいる。イランに支社を置く同社は、「地元での製造・販売に関する契約を現地企業と結んでいる」とコメント。また「弊社は経済制裁および米国、欧州連合(EU)、スイスが定めた規定を厳守しながら、患者が医薬品を入手できるよう努めている」と述べている。

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制裁の影響は貧困者に

 「イラン経済は投資に飢えている」と、イラン・スイス商工会のシャリフ・ネザム・マフィ会長はスイス公共ラジオの取材で語っている。制裁の影響でイランの経済はひどくダメージを受けた。イラン人が石油輸出で儲けた推定資産1千億ドル(約12兆円)は外国の銀行口座に預けられているが、制裁で凍結されているという。だが制裁が解かれればその多額の資金がイランに戻ってくると、マフィ会長は期待する。

 同様にイランが受けた制裁のダメージは大きいと話すのは、ハッサン・アクバルザデ氏。イラン人として40年以上スイスに暮らし、1976年に創立されたスイス・イラン商工会(所在地チューリヒ)の会長を務める。かつてはじゅうたんの販売を手掛け、イランにはよく里帰りしている。「制裁の影響をもろに受けたのは、それ以前から不遇な立場にあった人たちだ。制裁は貧困を拡大したが、裕福な人たちにはさほど影響がなかった」

 アクバルザデ氏は、制裁発動後はイランのビジネス環境や人々の日常生活が複雑となり、コストが増すようになったと感じる。「(外国の)銀行がイランからの送金を拒否するようになったというのに、外国に留学している子供たちにどうやって生活費を送金すればよいのだろうか」。イランとの関わりが分かった途端、金融機関は窓口や電話で送金希望者を容疑者として疑うこともあったという。そのため、送金はドバイやトルコなど第3国を経由して行われると、アクバルザデ氏は説明する。

イランへの制裁

スイス政府は2007年の国連安保理決議を受け、イランへの制裁を決定。11年に制裁の内容をスイスの重要貿易相手国の制裁内容に合わせた。12年に制裁強化。14年、特定の項目を解除。

取引制限の対象は武器や軍事技術など(民間用途にも使えるものを含む)。輸出禁止の対象には石油、ガス、石油化学などの工業製品およびダイヤモンドがある。

上記の物品に関連するサービスや資金提供は禁止されている。また、特定の人、企業、団体の資産が凍結された。

(出典:連邦経済省経済管轄局)

送金問題

 イランとのビジネスにおいて送金問題は依然として大きいと、前出のロイ氏は認める。

 EUとスイスによる制裁は、米国が過去35年間でイランに課してきた制裁と比べて厳しくはないが、イラン・スイス間のビジネスに間接的な影響を与えている。また、米国は企業に対して、イランと取引をするなら米国との取引をあきらめるよう迫っており、「大抵の企業はイランの銀行との提携を破棄した。制裁リストに載っていない銀行との提携もだ」(ロイ氏)。

 イランでは現在、銀行間の国際送金で使われる国際基準SWIFTコードが使用できない状態だが、現地で活動するスイス企業はどうやって送金しているのだろうか。ノバルティスは「財政に関する詳細については答えられない」と回答した。

 他の企業はどうだろうか。ビューラー社(本社ザンクト・ガレン州ウツヴィール)は1976年からイランで活動している。150年の歴史を誇り、食品製造や穀物加工などのプロセステクノロジーを手掛ける。従業員の数は世界中で1万人以上。イランでは現地の顧客の需要に沿うよう、テヘランに拠点を置き、イラン最北の町アスタラに工場を設けているという。だが送金に関してはノーコメントだった。

汚職や人権問題

 外国企業がイランと取引をするうえで問題となるのが、汚職だ。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルがまとめた世界の汚職度ランキングによると、イランは177カ国中144位。「汚職は世界的問題だ」とロイ氏。では、汚職に巻き込まれることなくイランと取引をするにはどうすればよいのだろうか。「経済協力開発機構(OECD)は汚職を避けるための基本方針を作成中だ。SECOは(スイスの)企業に対し、それに基づいて国際取引をするよう指示している」(ロイ氏)

 他にも問題がある。イランでは女性の抑圧など人権問題が著しいとされる。ただ、ロイ氏がテヘランでスイス大使を務めていた当時は女性差別を感じたことはなかったという。「『スイスが女性を(大使として)テヘランに送り、男女平等の意思をはっきりと示したことを高く評価する』と、イラン人女性たちは私によく言ってきた」

 スイス代表団がイラン側と話をする際に人権問題についても触れる予定かとの質問に、ロイ氏は「スイスとイランとの外交レベルでの会談では人権問題は重要なテーマだ」と述べながらも、こう答えた。「今回のスイス代表団の最大の関心は経済的利益だ」

イランの核開発問題に関する枠組み合意

イランと米英独仏中ロの6カ国は4月初旬、スイス西部のローザンヌで、イランの核開発問題に関する枠組み合意を取り交わした。イランは核開発プログラムが平和利用されることを保証するため、核開発に関し制限と監視を受け入れた。その見返りとして制裁が解除される予定。この合意は、6月末に結ばれる予定の最終合意の土台となる。

(出典:スイス通信)

(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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